食事、会議
酒場には既に隊長のシガールを初め、鶯の全員が集まっていた。既に酒を飲み大笑いしているシガールをリュシオルがたしなめ、エフィが持って回ったような言い回しでシガールになにかを語りかけている。アカリは指先に炎を灯し、ファレーナの手にあるランプに火をつけてまわり、それをオーがにこにこと眺めている。いつもの鶯たちの光景だった。
「さあ! 今回もご苦労だった!」
アダンが中央に皿を置くと、シガールが立ち上がって、今日の戦いをねぎらう言葉をかけ食事が始まった。
ガチョウの丸焼きに、ブリキ缶で焼いたパン、塩味の効いたホイップバター、焼いた野菜。いつもの任務後のごちそうだった。皆思い思いの皿に手を伸ばし、舌鼓を打った。あまり食に執着がなさそうなアダンたちも夢中で食べているところを見ると、グリレの腕は相当のもののようだ。
当の本人には不安そうに「美味しい?」としきりに話しかけていたが、皆食事に満足している様子だった。
「そういえばさっきの話だが」
「え、なんだっけ?」
「コーラカルが蟲の巣を知ってるって話だ」
すっかり腹が満たされたマイはぼんやりと満足げな顔をしていたが、「そうだった」と言って立ち上がった。
「ねえ隊長」
「な、なんだ何もやらしいことはしてないぞ」
「そこまで怯えなくても……じゃなくて、ちょっと話しておきたいことが」
マイが先ほどコーラカルが言ったことを伝えると、シガールは表情を改めコーラカルを呼んだ。他の皆もそれぞれ食後の穏やか時間を過ごしていたが、真剣な空気を察知してシガールの所へ集まった。
「コーラカル、その話は本当か」
「巣があるかはわかりません。ですが何か蟲に関わる重大なものがある、そんな気がするのです」
「きっ、気がする、だけじゃあ……」
「正直、いきなりそんな事言われて信頼できると思うのか?」
「うーん、オーちゃんはどう思う?」
「オー……」
「オー君に聞いてもわからんのではないかな?」
「ちなみにここからどれくらいの距離だ」
シガールが赤茶けた地図を机に広げると、コーラカルは「こちらです」と指を指した。場所は今居るところから北東に位置していた。
「そこは捜索した事はあったか、リュシオル?」
「……いや、前々回に同じ方向に向かったけどその手前で引き返してる。蚯蚓の沼があったし、食料もちょうど帰り分を残すくらいまで減ってたから……どこかの誰かさんが食べ過ぎたからかな」
リュシオルがわざとらしく濁して言うと、マイは目線をそらして吹けない口笛を吹く真似をした。
「……どうしたものか」
「俺はコーラカルの言うことを信じてもいいと思うが」
皆の視線がアダンに集まった。
「珍しいな、お前がこういうところで喋るのは」
「ファレーナも知ってるが、碧石の在庫が少なくなってる」
「本当か?」
「そうね~、このままだと遠征もあと何回できるかな~って……」
ファレーナの言葉を聞いて、シガールは腕を組んで低く唸った。
「少しでも情報がある場所に行ったほうがいいんじゃないか」
「じょ、情報っていっても、こっ、コーラカルが言ってるだけじゃ……」
「でも、後何回も遠征できないならある程度的は絞らないと」
「碧石は無くなったわけじゃない。だからもう遠征できないってわけではないけど今後どうなるか分からないし、楽観はしないほうがいいだろうね」
「むー……コーラカルさんの言ってる場所に行けばいいんじゃないの?」
「オー……?」
「そもそも蟲に巣があるというのも我々の勝手な推測でしかないが……シガール、どうしようか」
シガールは「よし」と小さく呟くと、間を空けゆっくりと口を開いた。
「コーラカルの言う『何か』がある場所に向かうぞ。元々適当にめぼしをつけて行っていた探索だ、そこに向かってもいいだろう」
「僕はそれなりに予想をたてて目的地を決めてたんだけどね……」
「そうだったな、すまんすまん!」
「まあ、成果がないから偉そうな事は言えないけどさ」
「とにかく、今回はコーラカルの言う場所に賭けてみたいと思う。仮になにもなかったとしてもその辺りは石場が多い。もしかしたら碧石の補充も上手くいけばできるかもしれん」
シガールはそう言うと、自分を囲む鶯たち一人ひとりに視線を向けた。皆小さく了承の返事を返すか黙って頷くかすると、シガールも大きく頷いて立ち上がった。
「次回の遠征の目的地は決定だ。三日後に出発だ! 皆準備をしておけ!」
隊長の大声に鶯たちは「了解!」と返事を返し、シガールの「それでは解散!」という声に従い、各々自分の作業へと戻っていった。
「よろしかったのでしょうか」
コーラカルはアダンの元へ歩み寄って呟いた。
「なにがだ」
「私の不確かな記憶に皆様を巻き込んでしまったようで」
「大丈夫、隊長も言ったじゃない。何もなくても碧石の探索ってことにもなるし」
「そうだ気にするな」
「……はい」
「それにしても、あんたなんで今回相談に口挟んだの、いつもだんまりなのに」
「意見に賛同すればこいつも少しはうれしそうな顔するかと思ったんだ」
「は?」
「味方ができれば少しは笑うかと思ったんだが、お前は手ごわいなコーラカル」
「手ごわい、とは」
「ちょ、ちょっと待って、あんたそのためだけにコーラカルさんの味方したの?」
「まだこいつの笑顔見てないからな」
悪びれもせずにいうアダンに、マイは肩を落として首を振った。