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有り余る明日  作者: 大海生吹
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有り余る明日へ

 次に目が覚めた時、私はコンビニに行く前の格好でベッドに突っ伏していた。おもむろに起き上がり、冷蔵庫を開けてみる。中には一昨日買った食材が入っていた。

 どうやらすべては泣き疲れて眠ってしまった私の夢だったようだ。何もかも全部、私の作り出した妄想、幻に過ぎなかった。

 しかしそれにしてはやけに記憶が生々しい。体も随分疲れている。まるで全力疾走した後のように。

 カーテンを開けると、太陽の光が眩しかった。いい天気だなと思いながらふと時計に目をやると、十二時を過ぎていた。


 ーーあっ、会社!!


 咄嗟にそう思い、携帯を手に取ったが、「4月28日(土)」という日付を見てほっと肩を撫で下ろした。 今日は仕事に行かなくても良いのだ。

 そのままベッドに横になる。明後日からはまたあの現実と顔を合わせなければならないのかと思うと、気が重かった。有り余るほどの膨大な時間の中で、毎日毎日不満と不安を持ちながら生きてゆくのか。まだまだ定年までには道のりが長い。長すぎる。

 ふと、教会にいたシスターの言葉が甦った。


 ーー結局は、あなたひとりの世界なのです。


 私は決断しなければならない。何かのためでなく、自分だけのために。

 私は起き上がり、ベッドのシーツを引き剥がした。それを無造作に洗濯機に押し込むと、アホのように狭いバスルームに入ってシャワーを浴びた。人生の中で一番気持ちの良いシャワーだったように思う。


 ーーこれからどうするんだ?


 頭の中でツバメが言った。どうするも何も……

 シャワーから上がると、パソコンを立ち上げ、転職サイトをひたすらに物色した。時間は腐るほどあった。

 もしも次の居場所が見つかるなら、それが許されるなら、見つかり次第あの場所から出ていこう。もしかしたら私は、どこへ行ってもこうなのかもしれない。 端から見れば、私は恵まれているのかもしれない。身体は健康で、家があり、仕事があり、給料と休日がある。取り立てて問題などないはずだ。私は恵まれている。そのはずなのにーー

 それなのに、何故か辛い。生きづらい。すべてが重く、息苦しい。自分はいつからこんなに虚しくなったのか。いつからこんなに我が儘になったのか。

 こんな日々が、これから先掃いて捨てるほど残されているのだ。その時間は膨大だ。「今日を乗りきろう」、「明日も頑張ろう」そう自分に言い聞かせながら毎日毎日……一体どうして? 何のために? 何がそんなに大切だというのか。


 ーー決定権は常にあなたにあります。


「……辞めよう」

 再びシスターの言葉が甦り、私は無意識にぽつりと呟いた。玄関の横で、シーツを入れた洗濯機が鳴っていた。



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