ボーイ・ミーツ・ガール再び (後)
ぷりぷりと肩を怒らせながら、アルハは学院の中庭へとやってきた。
中庭は、生徒達の憩いの場、兼、パートナー探しの場だ。
入学当初などは、パートナー探しに躍起になった生徒達でごった返していたものだが……。
卒業試験間近の今となっては、パートナーを探す生徒どころか、むしろ、パートナー同士がいちゃいちゃと……いや、勉強を教えあう場所となっていた。
(死ね! いちゃいちゃカップル滅ぶべし!)
パートナー不在、それ以上に彼氏いない歴=年齢のアルハの心は、ますますささくれ立つのであった。
「あ――」
そんなアルハの瞳が、一人の青年の姿を目に留める。
――アドルフ・シュヴァイツァー。
端正に整った顔立ちに、蒼玉のように澄んだ瞳。癖のない銀髪。なめらかで浅黒い肌。
それはあの日、列車の中で隣り合ったときのまま、変わらず――美しい。
忘れるべくもない存在だった。
彼は一人で椅子に腰掛け、本を読んでいた。
この中庭で、一人きりだったのは――すなわち、パートナーが不在なのは、彼だけだった。
「あの……すこしいい……ですか」
勇気を出して、アルハはアドルフに話しかけた。
「あたし、アルハ・クルメギです。 入学の時、列車の中で隣の席だった……」
「――九六位合格の」
本に目を落としたまま、アドルフは真顔で応えた。
「う……はい、そう、デス……」
変なところ覚えられてるー!!
余計なこと言わなきゃ良かった。アルハは赤面した。
「それで、九六位さんは、俺に何か用?」
「えーと、……あのっ!!」
ヤシマ式に頭を下げて、アルハは右手を差し出した。
「あたしのパートナーになって下さい!」
「いいよ。俺の奴隷になるなら」
「……………………えっ」
「それじゃ」
パタン、と本を閉じて。
話は終わった、とばかりに、アドルフは立ち上がった。
「――――っ!!」
大股で歩み寄ると、アルハは、アドルフの手を掴んだ。
「奴隷ですか!? 喜んで!!」
奴隷になるくらいで、パートナーになってくれるなら。
なりますとも! 奴隷バンザイ!!