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第7回 現代ギリシア語

1 導入



 本当は前回書くべき事項ですが、ギリシア語はインド・ヨーロッパ語族に属し、単独でギリシア語派を為します。ギリシア共和国の他、キプロスなどにも話者がいます。


 古典ギリシア語と現代ギリシア語の間で、発音は大きく変わっていますが、基本的な文法はそのまま残っているそうです。

 その発音なのですが、古典ギリシア語は特定の文字の並びで発音が変化することがあまりなかったのに対し、現代ギリシア語はそれが非常に沢山あります。古典ギリシア語は、文法はともかく発音は簡単でしたが、現代ギリシア語は発音も複雑です。




2 文字



 文字は古典ギリシア語と同様、24個のギリシア文字です。

 前回も掲載しましたが、今回も大文字、小文字、名称、発音を一覧にして示します。対応するラテン文字は、明らかなものだけ掲げます。

 例によって、文字の名称は、こんにち我々の間で普及しているものです。現代ギリシア語だと、Β/βはヴィタ、Μ/μはミなど、我々が知っているものとも古典ギリシア語のものとも、大きくかけ離れた名前で呼びます。


01 Α/α a アルファ 母音。日本語のア。


02 Β/β v ベータ 有声子音。英語のv。


03 Γ/γ ガンマ 有声子音。 直後の文字によって変化します(→4)。


04 Δ/δ デルタ 有声子音。英語のscythe/サイズ(鎌)のth。


05 Ε/ε e イプシロン 母音。日本語のエ。開口音と閉口音の区別は無いようです。


06 Ζ/ζ z ゼータ 有声子音。英語のz(摩擦音)。


07 Η/η i イータ 母音。日本語のイ。


08 Θ/θ th シータ 無声子音。英語のdeath/デス(死)のth。


09 Ι/ι i イオタ 母音。日本語のイ。


10 Κ/κ k カッパ 無声子音。ローマ字のkまたはky(→4)。


11 Λ/λ l ラムダ 有声子音。英語のl。


12 Μ/μ m ミュー 有声子音。ローマ字のm。


13 Ν/ν n ニュー 有声子音。英語のdemon/デーモン(悪魔)のn。


14 Ξ/ξ ks クシー 無声子音。英語のaxe/アックス(斧)のx。


15 Ο/ο o オミクロン 母音。日本語のオ。開口音と閉口音の区別は無いようです。


16 Π/π p パイ 無声子音。ローマ字のp。


17 Ρ/ρ r ロー 有声子音。rの音ですが、どの言語のrなのか、本によってまちまちです(→4)。


18 Σ/σ, ς s シグマ 無声子音。sまたはz(→4)。小文字のςは語末で、σはそれ以外で使用。


19 Τ/τ t タウ 無声子音。ローマ字のt。


20 Υ/υ i ユプシロン 母音。日本語のイ。


21 Φ/φ f ファイ 無声子音。英語のf。


22 Χ/χ カイ 無声子音。ドイツ語のch。直後の文字によって変化します(→4)。


23 Ψ/ψ ps プサイ 無声子音。ローマ字のpとs。


24 Ω/ω o オメガ 母音。日本語のオ。開口音と閉口音の区別は無いようです。


 綴り字記号として、鋭アクセント(ά、ώなど)とトレマ(ϊなど)を用います。

 鋭アクセントは、アクセントのある母音に打ちます。古典ギリシア語とは異なり、重アクセントと曲アクセントは使いません。

 トレマの用法は後述(→3)。




3 母音



 1文字の場合と2文字の場合をまとめて記します。


【Α/α =a】日本語のア。


【Ι/ι =i、Η/η =i、Υ/υ =i、ει、οι、υι】全てイ。全く同じ音です。

 なおι(イオタ)は、母音が後続すると、ローマ字のy(半母音)になります。

(例)Ποσειδώνας/ポシゾナス(【ギ神】ポセイドン。海の神)

(例)διάβολος/ジャヴォロス(悪魔。古典ギリシア語でディアボロス):ιが半母音になった例。


【Ε/ε =e、αι】どちらもエ。全く同じ音です。

(例)Ήφαιστος/イフェストス(【ギ神】ヘファイストス。鍛冶の神)


【Ο/ο =o、Ω/ω =o】どちらもオ。全く同じ音です。


【ου】口を尖らせてウ。

(例)μέδουσα/メズサ(クラゲ):古典ギリシア語だと、メドゥサ(【ギ神】アテナに怪物の姿にされた女性)を指しますが、当方が参照した現代ギリシア語の辞書には、その意味は載っていませんでした。


【αυ】

(1) 直後が無声子音(κ、ξ、π、σ、τ、φ、χ)またはγκ(→5)ならば、母音のアの次に、英語のf。

(2) 直後が母音または有声子音(β、γ、δ、ζ、λ、μ、ν、ρ)ならば、母音のアの次に、英語のv。

 語末にある場合、及び無声子音のうちθ(シータ)とψ(プサイ)が直後に来た場合に言及する本はありませんでした。が、当方はそんな単語を見たことがありません。

(例)κεραυνός/キェラヴノス(稲妻):ν =nは有声子音なので、αυはアとv。古典ギリシア語だと、同じ綴りでケラウノス。


【ευ】前述のαυと同じ区分に従って、母音のエの後に英語のfまたはv。

(例)Ζεύς/ゼフス(【ギ神】ゼウス。最高神):ς(σ) =sは無声子音なので、ευはエとf。


 αι、ει、οι、υιは、前のα、ε、ο、υにアクセント記号(ά、έ、ό、ύ)があるか、後ろのιにトレマ(ϊ)があると、エやイとは読まず、分けてアイ、エイなどと読みます。

 これは二重母音ではなく、2つの母音という扱いです。現代ギリシア語に、二重母音はありません。

 結局、現代ギリシア語の母音は、ア、イ、ウ、エ、オの5種類だけ、と言えます。




4 子音(1文字の場合。注意すべきもののみ)



【Γ/γ(ガンマ)】

(1) イまたはエと読む母音(→3)の前では、ローマ字のy。

(2)  Ξ/ξ =ksまたはΧ/χの前では、英語のring/リング(指輪)のng。ξもχもkに近い子音で、日本語のンも、カ行の前ではngです。よって、この場合のγはンとカナ書きすればOKです。

(3) 上記以外の場合は、英語のdragon/ドラゴン(竜)のg(破裂音)に対応する摩擦音。ドイツ語のNacht/ナハト(夜)のchに対応する有声子音ともいえます。

 日本語のガ行は、「ん」及び「っ」以外の文字の後では、gではなくこの音になることが多いといいます。日本人にはgと聞き分けるのは困難なので、ガ行でカナ書きすればOKです。

 なお、オランダ語のgも、この発音になることがあります。

(例)γίγαντας/イガンダス(【ギ神】ギガス。ガイアから生まれた巨人族。複数形ギガンテス): 1つ目のγ(ガンマ)はι(イオタ)の前なので、上記(1)が適用されyの音。2つ目のγはα(アルファ)の前なので、(3)が適用されgの摩擦音。


【Κ/κ =k】(1)普通はローマ字のk。(2)イまたはエと読む母音(→3)の前ではky。キ、キェとカナ書きすると、原音に近いです。

(例)Κέρβερος/キェルヴェロス(【ギ神】ケルベロス。冥府の番犬):β(ベータ)は英語のvです。


【Ρ/ρ =r】rの音。日本語のラ行とする本、英語のrとする本、巻き舌とする本がありました。日本語のラ行は、舌先を上の歯茎に当ててはじきます。英語のrは、舌を立てて先を口の中の奥へ反らせます。巻き舌は、ライオンの真似をしてガルルルル……、と言う時の音。

 いずれにせよ、カナ書きするならラ行です。


【Σ/σ, ς】(1)原則としてローマ字のs。(2)有声子音が後続する場合に限り、英語のz(摩擦音)。


【Χ/χ(カイ)】

(1) イまたはエと読む母音(→3)の前では、ドイツ語のReich/ライヒ(帝国)のch。

 日本語のヒに含まれる子音です。ヒは実は、英語のhilt/ヒルト(剣の(つか))のhiではありません。カナ書きすればヒ、ヒェ。

(2) それ以外の場合は、ドイツ語のNacht/ナハト(夜)のch。

 ローマ字のkに対応する摩擦音です。kの音が生じる口の中の奥あたりで、口蓋と舌の間を狭め、その間を息が通過する時に出る音。ハ行でカナ書きします。

(例)ψυχή/プシヒ(精神、魂、蝶):これも、プシュケ(【ギ神】人間の女性だったが、エロスと結ばれ神の仲間入りをした)の意味は載っていませんでした。でも彼女も指すでしょ?




5 子音(2文字の場合)



【γγ】英語のanger/アンガー(怒り)のng。カナ書きする時は、「ン」の後にガ行。

(例)σφίγγα/スフィンガ(【ギ神】スフィンクス。「朝は4本足……」で始まる謎かけで有名)


【γκ、μπ、ντ】

(1) γκは、語頭では英語のdragonのg。それ以外だと、英語のangerのng。

(2) μπは、語頭ではローマ字のb。それ以外だと、ローマ字のmb。

(3) ντは、語頭ではローマ字のd。それ以外だと、ローマ字のnd。

(例)Όλυμπος/オリンボス(オリンポス。ギリシア最高峰。ゼウスなどの神々が住むとされた):古典ギリシア語だと、同じ綴りでオリュンポス。


【τσ、τζ】

 τσはローマ字のts。τζは英語のgoods/グッズ(商品)のds。


 γ以外の同じ子音が連続しても、古典ギリシア語とは異なり子音1つ分の長さです。

(例)Οδύσσεια/オジシア(『オデュッセイア』。ホメロスの叙事詩):オジッシアではありません。




6 アクセント



 現代ギリシア語も古典ギリシア語と同様に、アクセントの有無によって発音は変わりません。

 が、アクセントのある母音は僅かに長く発音されます。長音と言うほどではないとする本がある一方、アクセントのある母音に長音符を付けてカナ書きする本もあります。本連載は、長音符を使用していません。


 アクセントのある母音には、必ず鋭アクセントの記号(ά、όなど)が付きます。

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