はじめに
1 本連載について
皆様はじめまして。既に当方の別の小説などをお読みくださっているかたがたには、いつもお世話になっております。よしゆきと申します。
これより連載しますこの文章は、ヨーロッパのいくつかの言語の、綴りと発音の関係を述べたものです。取り上げる7か国語について、スペルを見れば、読み仮名や発音記号を調べなくても、凡その発音を推測できるようになるのを目標とします。
取り上げる言語は、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ロシア語、ギリシア語、ラテン語です。ギリシア語とラテン語だけは、2つの時代の読みかたに対応しています。
2 本連載の主目的
本連載が最大の目標と位置付けているのは、作家さん達のネーミングの補助です。
皆様は、ネーミング辞典というものをご存知でしょうか。
各見開きの見出しは動物、植物、輝石、金属、武器、色、概念などといったカテゴリ名になっていまして、例えば色の頁を開きますと、赤、青、緑、黄、白、黒などの色の語彙が、数か国語で記されています。読み仮名も付されています。黒ならば、英語でblack(ブラック)、ドイツ語でSchwarz(シュヴァルツ)、フランス語でnoir(ノワール)といった具合です。
ネーミング辞典は、小説やマンガなどの作品の登場人物、土地、アイテムなどの名前を付けるのに使用します。主人公クラスの主要キャラクターの名は全て色に因んだもの、悪の組織のメンバーは猛獣に因んだもの、といった具合に名付けていきます。
さほど多くはないと思いますが、ネーミング辞典に掲載されていない単語をどうしても使いたい、というかたもいらっしゃるかも知れません。「ラスボスの必殺技の名前は絶対ドイツ語で“火山雷”にしたいっ!」とか。
しかし、噴火や溶岩ならともかく、火山雷くらいマニアックな火山学用語となると、ネーミング辞典ではなかなかカバーしていません。当方の所有する電子辞書に収録された和独辞典にさえ、載っていませんでした。
天文学の“超新星爆発”や、原子物理学の“放射性崩壊”辺りも厳しそうです。
因みに、火山雷はドイツ語でEruptionsgewitter(エルプツィオーンスゲヴィッター)というそうです。さすが厨――もとい、どこかにハイフン置け!
そういう時、和独辞典や和仏辞典を利用することになります。が、ここで問題発生。
和英辞典はともかく、和独辞典や和仏辞典など、普通の人は持っていません。大学で第2外国語として勉強された言語ならば辞書があるかも知れませんが、その場合でも他の言語のものは非所有でしょう。
市や県立図書館へ行けば辞書があるでしょうけど、お住まいの地域によっては行くだけでも大変です。それに、辞書は高価ですから、施設によっては、入室前に鞄などをコインロッカーに預けるよう、求められることもあります。ああ、面倒くさい!
また、イタリア語など文字と音の対応が規則的な言語が特にそうですが、辞書に発音が記されていない場合があります。綴りが分かっても、カタカナに直せなければ、日本語で書く小説の役には立ちません。
が、今ではインターネットという便利なツールがあります。発音はともかく、目当ての言葉を各国語で何というかくらい、容易に検索できます。ウィキペディアだと、いま開いている記事に対応する他言語版の記事へのリンクが、左端に一覧となっています。
とすると、綴りを見ればどう発音するのかさえ分かるなら、わざわざ図書館へ行って分厚い辞書と格闘せずとも、家に居ながら目当ての言葉の各国語の発音を知ることができます。
それをストレートに支援するのが本連載です。
3 「読める」ようになることの副産物
いくら発音ができたって、意味が分からなければ、当該言語の話者と意思疎通は図れません。
では、声に出して「読める」ことのメリットは、創作時のネーミング以外だと、外出した時フランス語やイタリア語で書かれた店名や商品名を読み上げて、家族や友人を驚かせて優越感に浸る|(性格悪っ!)ことくらいなのでしょうか。
思うに、その言語で歌が歌えます。
最近いくつかのアニメで、登場人物が民謡や唱歌を、英語やその他の言語で歌っているのを見ました。当方の想像ですが、製作者からすれば、(1)何十年や時には何百年も親しまれてきたメロディを流せば、容易に多くの人の気を引ける、(2)明治唱歌を歌って育った年配のかたにも興味を持ってもらえる、(3)著作権が切れているので使用料がかからないなど、費用対効果の点で魅力が大きいのでしょう。
発音が分かれば、原語の歌詞を見るだけで、読み仮名が振られていなくても、アニメで聞いたあの歌を歌えます。著作権の消滅した民謡の歌詞は、インターネット上でいくらでも公開されています。
もちろん、語学教室で本格的な教育を受けずに、付け焼き刃で習得した発音など、ネイティブスピーカーならば容易に見破れます。外国人が日本語でアニソンなどを歌うのを聞いたことがあるかたには、納得していただける所でしょう。
が、ネイティブスピーカーにも舌を巻かせる程度のレベルを求めなければ、本連載の情報だけでも十分なはず。
4 言語の選定
本連載で紹介する言語は、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ロシア語、ギリシア語、ラテン語の7つです。英語に関しては、お手元の和英辞典をご利用ください。
当方はこの他スウェーデン語、チェコ語、ウェールズ語なども調べました。が、ネーミングに使用する頻度に鑑み、今回は取り上げるのをやめました。
逆にオランダ語、ポルトガル語、ヘブライ語はぜひ掲載したかったのですが、断念しました。
オランダ語は例外やその更に例外が多過ぎて、一般化するよりも英語と同様、単語ごとに発音を調べたほうが良いと判断されたためです。
ポルトガル語に関しては、国内にはブラジルで話されるポルトガル語を説いた本ばかりで、ポルトガルで用いるポルトガル語の教科書を、1冊も見つけられなかったためです。
別に、ブラジルのポルトガル語が偽物だとか亜流だとかは思っていませんよ? ですが、「小説家になろう」で圧倒的シェアを誇る異世界転生などは、ヨーロッパ「風」の世界観に立脚するものがほとんどです。これにラテンアメリカ的な要素を加えると、作品の雰囲気に不統一感が出ると思うのです。
ヘブライ語は、異世界転生のネーミングに用いても、違和感を生じない気が致します。が、ヘブライ文字は閲覧する端末により、文字化けを起こす可能性が無いとは言えないため、除外しました。
5 本連載の売り
ネーミング辞典のように様々な言語に触れつつ、これに掲載されていない単語を創作に利用する道を開く。これだけでも十分に、本連載の独自性と存在意義はあると思います。
それに加えて、この企画がセールスポイントとしたいのが、以下の点です。
語学の本では普通、同じ綴りで発音が英語やローマ字と異なる場合に、当該言語の単語を引き合いに出して、確かにそう発音することを示します。この時、普通は日常的な平易な言葉を使います。
ドイツ語の教科書ならば、vをfと読むことを示すためにVater/ファーター(父)、schが英語のshだと示すためにSchule/シューレ(学校)、など。
が、本連載では実例をとして、できるだけ神話やファンタジー文学に登場する固有名詞を用います。wをvと読むことを示すのにWalküre/ヴァルキューレ(北欧神話の戦乙女)、ieがイーだと示すのにSiegfried/ジークフリート(『ニーベルンゲンの歌』の英雄)、などなど。
この他、フランス語は『ロランの歌』や『メリュジーヌ物語』など、イタリア語はローマ神話や『神曲』など、ギリシア語はギリシア神話から例を集めました。
意外と知られていないレアな固有名詞について、原語のスペルや正確な発音に触れることができるかも知れません。そういう方面でもご期待ください。
6 注意点
a 語学の学習に利用しないでください
本連載は綴りと発音の関係だけを説明します。文法には一切ふれません。本の内容を理解することや、会話をすることを目的とした語学の学習には、全く役に立ちません。
b 例外はつきものです
言語に例外はつきものです。日本語にさえ、「は」をwa、「へ」をeと読むという、重大な例外があります。どうしても正確な発音にこだわる場合は、単語ごとに辞書で確認されるのが無難です。
c 外来語には非対応
ある言語にとって外来語に当たる単語には、その言語の読みかたが適用されない場合が多いです。
例えば、ドイツ語でスポーツなどのシーズンはSaisonと言います。ドイツ語の規則に照らせばザイゾンと読むはずですが、そうではなくセゾーンと発音します。これは、Saisonがフランス語からの借用語に当たるからで、ドイツ語でもフランス語に近い発音が用いられるのです。
本連載では、外来語の読みには言及しません。挙げればキリがないからです。
また、ヨーロッパの言語に借用される単語は、英語、フランス語、ギリシア語、ラテン語のいずれかに由来するものがほとんどです。そのうち英語以外は、本連載でもカバーしています。
d ネーミングは響きも大切
当方個人としては、カタカナで登場人物や技の名前を付ける場合、名前の意味だけでなく言葉の響き、すなわち語感にも気を配ったほうが良いと思います。
いくらカッコいい意味だからって、(1)初見の人が声に出して読むと噛んでしまう名前は、避けたほうが無難です。覚えにくいので。
また、(2)日本語や英語で別の意味を持つ単語と似た名前にすると、その「別の意味」のほうを連想される恐れがあります。
この点に関しては、とびらの様の「小説投稿講座 キャラ名づけの話。」という優れたエッセイが既に存在します。当方はこれの内容に全面的に賛同しております。ぜひ併せてお読みください。
e 発音記号は不使用
辞書は普通、単語の発音を発音記号で示します。
例えば、英語のflame/フレイム(炎)ならばfléim、ドイツ語のWald/ヴァルト(森)ならばvalt、といった具合です。どの言語にも統一の記号を用い、原則として1種類の音に1つの記号を当て、綴りではなく発音に則った表記をします。
発音記号を使ったほうが、説明するのはラクです。が、本連載ではこれを使用しません。理由は、(1)中高生は読めないかたも少なくないと想像されるのと、(2)ヘブライ文字と同様に文字化けの恐れがあるからです。
ただ当方は、中高生にも発音記号を読めるようになっておくことを、お勧めしております。英単語の暗記に有利だからです。
いずれにせよ、本連載を利用されるに当たり、発音記号を読める必要はありません。
7 お願い
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