光の国編 Ⅵ
あの修行からまたしても一年があっという間に過ぎていった。今日はあの約束の日だ。
といっても、もう習慣になってしまった朝練は変えられるはずもなく、僕は今こうして木刀を振っている。最初は木刀に振られていたのだが今はある程度は使いこなせていると思う。
この一年で、僕はかなり成長できた。剣術に関しては母さんが、魔法に関しては父さんが教えてくれた。魔術に関しては、父さんは母さんよりできる。どうやら、魔術というのはステータスで言うところの知力と深く関係しているみたいで、僕が最初から魔法がうまく操れたのも納得がいった。
母さんも父さんも僕の特訓に真剣に付き合ってくれて、特に父さんに関しては仕事を放ってまで僕に付き合ってくれたこともあった。まぁ、だいたい母さんに連れ戻されていたけど...。今日から離れて生活するともなると、さすがに考え深いものがあるな。いいや。頑張れ、精神年齢26歳の僕。
「シーク、もう準備できたかしら。」
そうこうしているうちにもう時間のようだ。
「ウン、もうできているよ。」
ぎこちない返事をしてしまうあたり、僕も緊張してしまっているのだろう。
「じゃあ、早速行きましょう。あなた行くわよ。」
そうして僕らが出発したのは、まだ日が出たばかりの朝早く。僕の顔は真っ青になっていた。これから王都に行くことへの恐怖もあるが、本当の恐怖は違う。
僕がまだ赤子だった時にいったときは家が王宮の近くにあった、というか今もあるのだがつまりは父さんが公務のために使う住居なのだが、安全とか設備とかそういう一切合切を考慮して僕を生むときは王都にいたのだが...。
これから言いたいことは、もう伝わっていると思う。そう、今僕は父さんが治めている領地に住んでいる。王都からこっちにきた時、つまり僕がまだ赤児の時ここまで来るのに二時間かかった。あのときは本気で死ぬかと思った。母さんに抱きかかえられているにもかかわらず、馬車の揺れで気持ちが悪くて吐いてしまったのだ。あのときは、本当に災厄な気分だった。
だから、気をつけなければいけない。そう思っていたのだが、馬車内は意外なほど楽だった。しっかりと座席はふかふかとまではいかないにしろ柔らかいし、今は早朝ということもあり車内にはいい風が透き通っていた。僕が大人になったからか、技術が進歩したのか、あるいはその両方か。いずれにしても、いいことには変わりない。この調子なら、二時間ぐらい余裕だな。
ーーニ時間後ーー
「あー。超気持ち悪い。吐きそう。」
これが王都についてからの初めての言葉とあっては、われながら恥ずかしい。
「大丈夫、シーク?」
「ははっ。このくらいは耐えられるくらいじゃなきゃ、この先やっていけないぞ。我が息子よ。」
全く、母さんは心配してくれているというのに。まぁ、父さんらしいが。
「うん、母さん。少し、楽になったよ。」
「そう、じゃあ行きましょう。」
そういって僕たちは、王宮内に入って行く。そうして、今回は謁見用の部屋ではなくあの約束をした陛下のプライベート部屋と呼ぶべき場所へ向かっていた。
「んー。緊張してきたなぁ。」
「まぁ、そう固くなるな。別に今から告白するわけでもないだろ。」
「いや、というか僕まだ王女殿下に会ったことすら見たことないし。」
「そうか、なら期待しておけよ。前に公務で来たとき偶然会ってなぁ。いやぁ、可愛かったぞ〜。」
「何父さん、幼女趣味あるの?」
「いやっ、そんなわけないだろ。」
「ねぇ、あなた〜。どういうことかしら。」
「ちょ、ファーラ。どーどー。一旦、一旦落ち着こうな。おぉ、そうこうしているうちについたぞ。」
「ちっ。」
「ちょ、ファーラ。明らかに僕に聞こえるように舌打ちしたよねぇ。」
「はははっ!ありがとう父さん母さん。なんだか緊張がほぐれて来たよ。」
「そうかそれは良かったよ。」
「ええ。」
「じゃあ、入ろうか。」
「うん。」
僕がそう返事をすると、父さんは数回扉をノックした。
「どうぞ、入っていいよ。」
この声は確かに、僕が赤児の頃に聞いた国王の声色だった。その声を聞いた父さんは、ドアノブに手をかける。そして扉を開けたその先には、僕が最後に会った時と変わらず整った顔をした国王とその隣にはまさに可憐という言葉が彼女のために作られたのだと錯覚するような白髪美少女がいた。
「どうやら、君たち家族は相当仲がいいみたいだね。君たちの会話がこちらにも聞こえて来たよ。」
「これは、ご無礼なことを。申し訳ありません。」
「いや、構わないよ。むしろ見習わないと。ねぇ、アイリス。」
「うん、羨ましい。」
(そうか、この少女はアイリスというのかぴったりだな。)
「ほら、シーク。しっかりと挨拶しなさい。」
おっと、これはいけない。しっかりしなければ。
「初めまして。国王様、それに王女殿下。僕は、シーク・アークラットと言います。これから、ご迷惑になると思いますが宜しくお願いします。」
そして、一礼。...どうだろうか。だいたいこんな感じにすれば、失礼にはならないはず。
「ははは。まだ子供なのに礼儀正しいじゃないか。ちなみに、君は知らないだろうが私は君に一度会っている。つまりは、そんなに固くならなくていいというわけだ。」
全く意味がわからないのだが、まぁ器が大きいということだろう。
「アイリス。あの少年が今日から君の護衛になるんだ。しっかり、挨拶しなさい。」
「はい。初めまして。アイリス・フォン・レイライトと申します。これから宜しくお願いします。...私の護衛さん。」
(やばい、可愛すぎる。)
と、そのまま立ち尽くしていると
「なんだ、シーク。一目惚れか。」
そう、この父親は空きあらば僕をからかってくるのだ。
「ち、違っ。そういうのじゃないって。」
「まぁ、照れるな。お前も男だもんな。」
「はっはっは!本当に仲がいいんだな君たちは。だが、シークくん。君が今から住む場所にもう君の両親はいない。」
この陛下の発言により、部屋の空気が一転する。
「これから君に待ち受けているのは、苦痛だ。君の持つ属性のことで辛い思いをすることになる。もちろん私もできる限り君の手助けはしようと思うが、それでも必ずカバーすることのできない場面が必ずやってくる。そうした時、君はそれに立ち向う勇気はあるかね。」
「はい。」
僕の覚悟はもう決まっていた。
「僕は、両親に恩返しがしたいんです。こんな無属性の僕でも父さんと母さんは僕に愛を与えてくれた。その恩を返したい。だから、苦痛は覚悟の上です。」
「「シーク,..。」」
「そうか...。君の意思、確かに受け取った。ようこそ王宮へ、歓迎しよう。今日からここが君の第二の家となる。」