光の国編 Ⅳ
ーーそうして、僕は王宮へ行くこととなった。あんなことを約束されるとは知らずに。
どうやらこの世界は地球でいうところの中世の時代に当たるようだ。ではなぜそれが判ったのか、それは移動が馬車だからだ。
最初、僕は当然ながら馬車に乗ったことが今までなく、精神年齢16歳でありながらついはしゃいでいたのだが蓋を開ければどうだろう、車内の状況は劣悪そのものだった。よく揺れるし、蒸し暑いしで終始早くつくようにと願うばかりだった。
また、今回は父と母以外にもう一人、いつも家のことをしてくれている人のうちの一人が来ていた。
そうしてついに、長きに渡る乗車が終わり外へ出た。もちろん、母に抱きかかえられながらだが。所要時間は、10分ほどだったのでどうやら我が家と王宮との距離はそんなにないらしい。
「ようやくついたわね。」
「あぁ、じゃあ入ろうか。」
「んっ!これは、シークラット公爵。今回はどのような件でいらしたのでしょうか?」
「うん、陛下に話があってね。もう話は通してあるから入っても良いかな?」
「ははっ!畏まりました。」
明らかに父よりも年上であろう門番の人が萎縮している。どうやら父は身分が高いようだ。
扉が開かれると何やら、黄金色のものがそこら中にあり目が痛い。
僕らは、数々の扉のうち一つの扉を開き中に入った。
「さぁ、シーク。中で大人しく待っているんだよ。」
「この子をよろしくね。」
「はい。承りました。」
そうして、少し顔が強張っている両親の姿を瞳に残し、僕はここまで一緒に来ていた従者の人とそこで少しの間待っていた。
side.カイ・アークラット
「本当にこれでいいのかしら。」
そう言って、ファーラは不安げに僕を見つめる。
確かに、これは僕らだけではなくシーク本人にも、というよりシーク本人が一番辛い選択肢であると思う。
「だけど、僕らは彼を立派に育てることに決めた。それに、いつまでも隠し通すのは不可能だ。まぁ、大丈夫だよ。僕がなんとかするから。二人で王様に息子を自慢してやろうじゃないか。」
「ふっ、....そうね。」
そうして、王宮内を進んで行くとやがて僕は城内で一際大きな門の前で止り、しばらくすると門が開く。
少し歩くと顔を伏せた。
「面をあげよ。」
僕とファーラは顔をあげる。
「まずは、出産おめでとう。心より祝い申し上げる。」
「「ありがとうございます。」」
「うん。では、要件とは?」
「はい...実は僕の息子、シークは無属性なんです。」
その瞬間辺りがざわめき始めた。
(分かっていたことだ。)
「無属性だって。」「能無しか。」「ついにアークラットも落ちぶれるのか。」「あの家もかわいそうに。」「
室内はこの小さなざわめきが何重にも交差していた。しかし
「それがどういう意味か判っているのか。」
そんな国王の言葉によりまたしても場に静寂が訪れる。今度は重い雰囲気が伴って。
「もちろん。承知しています。ですが、僕たちはもうこの子を育てることに決めました。」
「...分かった。追ってまた話し合おう。」
「ありがとうございます、陛下。」
「うん。あぁ、アークラット公爵。では、また「近いうちに会うことを」。」
「はい。失礼します。」
そうして、僕は部屋を出ると明らかに来た道とち違う方向を進み始めた。あの部屋に行くためだ。そして、しばらく歩くと状況がわからないファーラは痺れを切らしたようで僕に言った。
「ねぇ、なんで来た道と違う道を進んでいるのよ。」
「あぁ、さっき陛下が「また近いうちに会うことを」って言っただろ。あれは陛下が誰かと、今回は僕だがプライベートで話したいときに使う隠語なんだよ。」
「ふーん。そんなのいつの間に作ったのよ。」
「まぁ、良いじゃないか。さぁ、目的地に着いたよ。」
コン コンッ
「陛下入っても良いでしょうか。」
「あぁ、どうぞ。」
「失礼します。」
「失礼します。ってなんで陛下がっ。ここまで来た時にすれ違ってさえないのですが。」
「ははっ、秘密に決まっているだろう。ところで、カイよ。本当にその子は無属性なのか。」
「はい、本当です。確かに知り合いに鑑定してもらった時確認しました。」
「そうか...。厄介なことになったな。いや厄介なことにさせたと言った方が良いか。」
厄介なことにさせた?どういうことだ?
「はい。僕らも覚悟の上です。何より、これから一番辛い思いをするであろうこの子に申し訳ないです。だけど、このままこの事を黙っていたらきっと取り返しのつかないことになるだろうと思って、あえて公の場で公表しました。」
「ふむぅ。君の選択は愚かだな。」
(分かっていたことだ。)
「どこの貴族もそんな選択はしないだろう。そう、貴族として考えるならばな。だが、一人の父親として考えるのならば、君の選択は最良だよ。」
「...陛下っ。ありがとうございます。」
「よし、私も君の息子の為に一肌脱ごうではないか。」
「なにか、策があるのですか?」
「あぁ。三ヶ月前、私の娘つまり第一王女が生まれたことは知っているね。」
「もちろん。」
「そこで君に提案しよう。君の息子に私の娘の護衛をやらせるのはどうだろうか。」
「それはっ。確かに魅力的な案ですが、娘さんの護衛を無属性にやらせたら周りから変な噂が立つのではないのでしょうか。それに、領地に部下が待っています。息子が生まれた今そう長くは王都に居れません。」
「確かに確実に良からぬ噂は立つだろう。悪口だって言われるかもしれない。しかし、二人でなら乗り越えられることが必ずある。
私は娘に友人をできるだけ多く作って欲しいと思っている。王女である為、他人から嫌煙されることが多い。だから将来的には、君の息子にその協力をして欲しいと思っている。
もちろん今すぐに決めなくても良い。できれば娘が学校へ行くぐらいまでに決めてくれれば良いさ。 どうだろう。」
「ありがとうございます、陛下。その提案是非とも受けさせてください。ファーラも良いよな。」
「えぇ。ありがとうございます。陛下。」
「よかったよ。ではいつから王宮へ迎え入れようか。」
「では、...きっかり10年後にというのはどうでしょうか。」
「わかった。約束しよう。」
ーーこの時この瞬間に、僕、シーク・アークラットと彼女の歯車は動き出したのだ。