光の国編 ⅩⅢ
ーー入試からしばらく経ち、僕と姫様はこの学園生活に慣れつつあった。入学式での姫様の素晴らしいスピーチの後、数日間は、姫様への羨望と僕への嫉妬や反感の目を常に周囲から向けられることに僕は悩まされていたが、そこで姫様の鶴の一声がとび、なんとか今は健全な学園生活を送ることができている。
そこでの描写はまた機会があるときに話そうと思う。
現在、僕と姫様とあと二人の計4人で過ごすことが多い。その二人を紹介しようと思う。一人目はサグ・フォトンアイズ。彼は僕と同じ公爵家の、次男で貴族らしからぬ気さくな態度で僕らに接してくれて、いつも場の雰囲気をよくしてくれる存在だ。
「やっぱり、座学は退屈だ〜。...なぁ、シーク。この後ひと勝負どうだ?」
「嫌だよ。君勝つまでやるじゃないか。」
この暑苦しい性格と戦闘狂をもう少し抑えてくれたら、貴族としては立派な奴なのだが、本人曰く堅苦しいのは苦手とのことだ。
「あなた本当戦闘バカね。これを見たあなたのお父上はきっと毎晩あなたの将来が不安で寝付きが悪くなるでしょうよ。」
二人目を紹介しようと思う。二人目はカーラ・ホーリーライト。こちらも公爵家の娘でご覧の通り、少し気が強くはっきりとものを言うタイプなのだ。
と、ここまででわかるように二人とも周りを気にするようなそんな繊細な心は持ち合わせていないのである。
「はっ。残念だったな。俺の父上はそんなことで寝付きが悪くなるほど神経は細くないぜ。」
「本当。残念な人ね。」
ーーそういったサグとカーラの馬鹿げた話を聞きながら僕とアイリスは楽しく笑い合う。そんな楽しい学園生活をしばらく送っていたため、僕は気が緩んでいた。僕はどうしてこの世界にいるのか、そしてその使命は何か。
もちろん忘れたことはないが、その使命に対する想いは確かに薄れていた。だから、あの事件が起きたのだろう。
僕がもっと力を蓄えていれば、僕がもっと一人でなんとかできる力があれば、あんな最低最悪な結末をもう少し先延ばしにできたのかもしれない。
ーーことの始まりは、僕ら4人がこの魔法学園に在籍することになって二年目の夏、僕が13の年になって少しした時に起こったことだ。
この日、僕はいつも通り午前中の授業をうけ、今日は日当たりがいいからと学園の中庭に四人で昼食をとっていた。そこで、僕は食事をしていると僕の直感スキルが働いた。
僕はその直感に従い真上を見上げると、たちまち雲ひとつなかった空に暗雲が立ち込め、何か一際黒いものが僕らに向かって降ってくる。
「アイリス!伏せて!」
僕はすぐさまアイリスに覆い被さり、直後凄まじい衝撃を身に受ける。
「おいおいおいぃー。まさか死んでないよなぁ。」
「サグ、カーラ無事か!」
「あぁ、こっちは大丈夫だ。」
「こっちも大丈夫よ。」
「アイリス。大丈夫?」
「うん、シークくんが守ってくれたから。」
よかった。とりあえずはみんな無事みたいだ。
そうして僕は立ち上がり、この事態の元凶たる人物を見据える。そいつは浅黒い肌に尖った耳、そして黒紫色の魔力を纏った長身の男だった。
「あなたは一体誰だ?何が目的なんだ?」
「あぁ、そうだな。自己紹介しないとなぁー。英雄くん。」
「な!」
(なぜ僕の正体が。こいつまさか....)
「あぁ、俺は七魔王の一人。ジャグラスっつーもんだ。よろしく〜。目的はそうだな。若い芽を摘みに...今後厄介になるだろう英雄を力がついていないうちに...いや、嘘はよくねぇな。正直に言ってしまえば退屈だったから。
ようやく英雄を見つけ、戦えると思ったのに他のやつに何度も言い留められ、もう俺は我慢の限界だぁ〜。いいからやり合おうぜ。持ってんだろ鍵をよぉ〜。」
そう言ってジャグラスと名乗る人物は視線を僕からアイリスにずらす。
僕はアイリスを庇うように前に出る。
「どういうつもりであなたがここに来たのかは、わかりました。ですが、あなたが今いるここは魔法学園。これだけの騒ぎです。すぐに大勢の魔法使いが来ますよ。」
「あぁ?それがどうした?」
「いや、だから僕と戦う前に...」
そう言うとすぐに後ろから声がする。
「ほほぅ。これは、魔族か。いや〜、久しぶりに見たのぉ〜。」
「なんだぁ。ジジイ」
「「が、学長先生。」」
そう、このご老人はこの学園の長たる人物だった。
「ほうら、下がっていなさい。」
そういう、先生の声は確かに安心させるものだったが、僕の胸のざわめきは治らなかった。
「まぁ、いいや。最近運動不足気味だったし、あんたで準備運動させてもらうとするか。」
そうして学長先生とジャグラスと名乗る魔族との戦いが始まった。




