閑話 Ⅱ
あれは僕が5歳の時、親の付き添いで父さんの親友の人が開いたパーティーに行ったときのことだった。
「やぁ、カイ。そしてファーラさん。今日は来てくれてありがとう。そちらにいる子が例の君たちの子かな。」
「あぁ。シーク、挨拶を。」
「はい。シーク・アークラットといいます。よろしくお願いします。」
そして、可愛らしく一礼。この5年間で一気に精神年齢が幼くなった気がする。
「これはご丁寧に。私は、シリウス・ライトハウスという者だ。」
と握手を求めてき、それに応じる。優しそうな人だ。それに名前通り博識そうだ。
「シリウス、ただ飯食べに来たよ。」
「今日は、お招きいただきありがとうございました。」
そういって頭をさげると同時に母さんは父さんの太ももをつねる。
「いった!」
「もう本当にいい加減にしてください。今日は、公爵家として来ているんですよ。」
さすがの母さんも呆れた顔をしている。
「はっはっは、カイお前思いっきり尻に敷かれてるな。」
「お前、相手は元とはいえ騎士団長だぞ。尻に敷かれない方が不自然だよ。」
「はぁ、別に私も好きであなたを尻に敷いてるんじゃないんですよ。あなたがもう少ししっかりしてくれれば私だって。」
「ファーラさん、それは無理な話だ。こいつの情けなさは直せないよ。」
「ちょ、それはないだろう。」
と、親たちが楽しそうに話していると不意に手が引っ張られる。両親は話に夢中で僕に気づいていないようだ。僕は声を出そうと口を開くが口にハンカチを抑えつけられてしまう。
(やばい。苦しくなってきた。ぅ...。)
そこで僕の意識は失った。
「そういえばシリウス。この前の魔法構造についてなんだが。」
「ねぇ、カイくん。」
「どうした?お前がのその呼び方をしてくる時はろくなことが」
「さっきからシークの姿が見当たらないんだけど。」
僕は辺りを見渡す。が、それらしき影は見当たらない。
「どっかで迷っているんじゃないのか。君たちの息子は、まだ幼いんだし。きっと興味をひく物に寄ってみたら私たちを見失ってしまったのだろう。」
いや、シークに限ってそれはないだろう。
「そうだといいんだけど...。シリウス、すまないがこの部屋にシークがいるか探してくれないか。」
「わかった。」
「ありがとう。ファーラ、僕たちは他の部屋を探そう。」
「えぇ。」
ファーラは明らかに落ち込んでいた。当然、僕自身も悔やんでいるがその時間が勿体無い。
「落ち込むのはシークが見つかってからにしよう。」
「えぇ!」
どうやら、僕の気持ちが伝わったらしい。今の彼女の顔は騎士団にいる時のそれへと変わっていた。
次に目を開くと僕は柱にくくりつけらせていた。もちろん、口にもハンカチが巻き付いていて話すことができない。
「ようやく目を覚ましたか。小僧。」
目お前にはひどく脂肪のついた中年の身なりのいい男がいた。
「どうしてこんなことをするかわかるか小僧。」
わからない、わかるわけがない。僕はこんな人に会ったことも、ましてや何かしたわけでもなかった。
「そうか、わからないか。なら教えてやる。それは、お前が無属性のできそこないだからだ。」
そんな...。そんな理由で僕はこんなめにあわなければいけないのか。
「この世界は種族ごとに与えられる種族の属性が違う。つまりは、属性魔法こそがその種族であるという証であるわけだ。ところが、お前は無属性だ。つまりは、俺の言いたいことはわかるな。」
(僕は、僕は...。)
「そう、お前は人間じゃない。」
(僕は人間じゃない。)
僕の頰には涙がとめどなく伝わった。
「そんな奴がこの国の公爵家の子供ときたら、この国がなめられてしまう。つまりは...、ここでお前を殺すということだ。...やれ。」
男はそばにいた長剣を持った屈強な男にそういった。
男の持った長剣が首筋に添えられる。
(そんな、せっかく転生させてもらったのにこんな、こんなところで終わってしまうのか...。次に生き返る時は、そんなことがもしあるなら、ちゃんと属性があるといいな。)
(くそっ。悔しい、何もできない非力な自分が悔しい。誰か、誰か助けて。)
そして、男の振り上げた長剣が吸いつけられるように僕の首元に向かってくる。そして、反射的に目を瞑るが一向に痛みがおし寄せてこない。
そしておそるおそる目を開けると、そこには父さんと母さんの姿があった。
「間一髪だったね。大丈夫かいシーク。」
僕は流れていた涙の勢いが一層増した。だが、その涙はさっきとちがって心地が良いものだった。
「そこのあなた。私の息子にこんなことをして、覚悟はできていますね。」
「くっ、おい、どうにかしろ。」
と屈強な男に言うと、男は面倒くさそうに懐から球体の何かを取り出すと、それを地面に投げつけた。すると、あたりは煙だらけになりその煙が治ると辺りにあの男たちは消えていた。
「あの男は一体?」
「見なりのいい方は、確か男爵家の人間だったはず。もう一方は、多分忍者だろうね。それにしてもついに恐れていたことが起きたか。」
事態が一旦落ち着くと、僕は母にすぐさま抱きしめられる。
「大丈夫?シーク。」
「うん。ありがとう。」
「本当に、本当によかった。」
「よく耐えたな偉いぞ。」
そういって、父さんは頭を撫でてくれる。
「ねぇ、僕ってやっぱりいらない子なの?」
そう言った瞬間、母は顔を上げ真っ直ぐに僕を見つめる。
「母さん?」
「そんなわけないでしょう。あなたは私たちの子供なの。もし誰も必要としていなくても、私たち二人は二人だけは必ずあなたを必要としている。そのことを忘れないで。」
「あぁ。お前は僕たちの家族だ。」
そうして僕は今日何回目であろう涙を流す。
ーー今思えば母さんが特訓をしようと言い出したのもこれが関係しているのかもしれない。




