スライムスレイヤーZ! スライムに転生して俺Tueeeとかやってる馬鹿が影で支配する世界を僕はブチ壊す。
本作品は、先行試作短編です。
好評そうなら、本格連載化するかも……?
なお、某書籍化スライム転生モノとは全く関係ありません。
と言うか、内容知らんし。
作者はスライムが嫌いなので、作中ではスライムがグログロしく惨死しまくりますが。
これはそう言う作品です。
それは、平和な街の風景。
それは、静かな午後のひととき。
朝から快晴で、雲一つない青空が広がる……。
このオルタンシアの街は至って平和だった。
街の象徴となっている中央広場の噴水。
水の飛沫が陽の光を浴びて、虹色に輝く。
小さな少女がペットと思わしき、ボール状の生き物と戯れている。
スライム……本来、魔物の一種とされていたが、近年その攻撃性が薄まり、人にも懐きやすく家のゴミを処分してくれたり、汚れなども浄化する……見た目の愛らしさもあって、とある王様が益獣として扱うよう布告したことをきっかけに、人畜無害な生物として認知されるようになった。
特にこのボール状の愛玩種のスライムは、つぶらな瞳が可愛らしく大変人気があった。
この瞳自体は、目としては機能しておらず人間に可愛がられるための擬態と言う説があるのだけど。
それはつまり、犬猫と同じく人と共に生きる共生の道を選んだ魔物だと言う証左でもあった。
広場に面した店先にも二匹のスライムが並んでいて、ポヨンポヨンと飛び跳ねながら客寄せに余念がない。
何とも可愛らしい仕草に、行き交う人々の視線も温かい。
通りがかりの買い物帰りの主婦が、店先のスライムを撫で回したりしていく。
ちょうど少し日が傾きかけた頃合い。
少し大型の愛玩種のスライムを連れたお年寄りがゆっくり、ゆっくりと歩く。
スライムも尺取り虫のような動きでお年寄りに合わせて、のんびりペタペタと進んでいく。
人と魔物とが手を取り合って、平和に暮らす世界。
こんな光景も珍しい光景ではなかった。
数年前まで続いていた戦乱の世がまるでウソだったかのような……平和そのものと言った午後の風景がそこにあった。
不意に……どこからともなく現れた青と白のシスター服の少女が一人、噴水の脇に腰掛ける。
首から下げたネックレスには、彼女の所属する教団のシンボルマークが描かれていた。
二重丸に十字のマークを重ねた独特のシンボル……。
詳しいものが見れば、それは太陽神ラーテルムを崇めるテルミナス教団の司教クラスを意味するものだと解っただろうが、この場にはそこまで詳しいものは居なかった。
この辺りでは見かけない顔だと誰もが思うのだけど、旅のシスターくらいは珍しくはなかった……強いて言えば、こんな10歳程度のシスター自体が珍しいのだけど。
テルミナス教団……それはむしろ、カルト教団として有名だった。
各地でテロ活動じみた騒ぎを起こしては、問題になっているのだが。
教団自体は1000年近い長い歴史を誇る上に、各地に支部があり、権力者にも信者を多く抱える一大宗教勢力と言えた。
そのテロの対象は現状、極めて限定されており、殺人や破壊行為を積極的に行う訳ではないので、下手につついて暴発されたら極めてやっかい……そんな理由で多少のトラブルを起こしても黙認される……それが現状だった。
そんな彼らは近年、唐突にとある生物を目の敵にして、以前にも増してトラブルメーカーの側面が強くなっていた。
排除を望む声もあるのだけれど……敵に回すと厄介この上ないので、表立って敵対しようとする者は少数派だった。
それはさておき、つまるところ……この突然現れたテルミナス教団の小さなシスターには、誰も気を払わなかった……。
見た目は、無害そうな金髪の可愛らしい少女だったから。
……この少女、誰かと話でもしているようにしきりに口を動かしているのだけど、噴水の水の音に紛れて、その声は周囲には聞こえていなかった。
「了解、こっちも準備完了……じゃあ……使徒様……スレイヤーZの初の実戦投入テストを始めましょうか。」
最後に彼女はそんな事を口にするとうつむき加減だった顔を上げる。
……それは突然の出来事だった。
一陣の風が吹く……。
不意にシスター服の少女の目の前に、魔法陣が描かれ、続いて地面から生えるように現れる人影!
赤いマントをたなびかせ、フードで顔を隠し、バンデッドメイルと呼ばれる薄い帯状の金属の板を重ね合わせた赤い鎧を着込んでいる。
マントの隙間からはいくつもの薄い刃のナイフのような物が覗いていた。
平和な街の中では明らかに異様な怪人物だった。
シューッと言う音を立てて、その周囲に陽炎が立ちのぼる……通りすがりの人々も思わず足を止めて、その怪人に注目する。
そこへ、折り悪くスライムを連れた少女が近づいていた……少女も思わず足を止めるのだけど、スライムは無警戒に怪人に近づき、その足元にまとわり付く。
その男はチラリと少女とスライムを一瞥すると、足元のスライムを優しげな手つきでそっと拾い上げる。
愛玩種のスライムは基本的に人懐こい……男になすがままに、その手に収まるとつぶらな瞳を潤ませながら、プルプルと震える。
「お兄ちゃん! そのコはゴビちゃんって言うの! 遊んでくれてありがとうねっ!」
無邪気な少女の言葉に答えるように、男は左手に乗せたスライムを撫でるように右手を乗せる。
いきなり現れた場違いな男に、何事かと思った人々も彼の仕草に少し安心したのか、むしろ微笑ましいと言った視線を向ける。
少女がスライムに手を伸ばそうと近づこうと一歩踏み出した……次の瞬間!
男が右手に力を込めると、メメタァと言う音と共にその愛玩スライムの身体が潰れ、パーンと言う音と共に弾け飛んだ!
一瞬で潰されたスライムの体液と擬態の眼球が少女の顔に飛び散り、少女の顔も身体もドロドロになる……。
何が起こったのか理解できず呆然と顔に手をやると、粘液が少女の顔から糸のように伸びる。
顔にへばり付いた眼球を手に取り、それが何かを理解したのか、少女は壊れた人形のように、力なくフラッと倒れ込む。
けれど、そんな彼女の身体を怪人は優しく抱き止めると、そっと地面に横たえる。
そして、さも煩わしそうに両手に付いたスライムの残骸を地面にこすりつけて拭う。
続いて、男はナイフを抜くと店先で飛び跳ねていた二匹のスライムに投げつける。
恐るべき精度でナイフがスライムに刺さりジュッと言う音を立てると、凍りついたようにスライムは動きを止める。
続いてスライムの体液が沸騰して、ポポーンと言う間抜けな音と共に眼球が飛び出し、スライムは外皮だけを残してペシャリと潰れる。
続いて、男はお年寄りの連れた大型スライムに飛びかかるとスライムに次々とナイフを突き立てる。
これもまた先のスライム達と同じ様に刺された箇所から、噴水のように体液を巻き散らしながら見る間に萎んでいく……腰を抜かしたように座り込んで声にならない悲鳴を上げるお年寄り。
けれど、それは魔物の生態に詳しいものが見れば酷く奇妙な光景だと断じていただろう。
普通に剣で切ろうが殴ろうが、不定形生物のスライムにはさしたる効果はない……。
スライム自体は、外皮と呼ばれる半透明な薄皮に粘液状の体組織、コアを内包したシンプルな体構造をしている。
外皮についても、柔軟性と伸縮性が極めて高く、打撃も全く通用せず、切り裂くことも非常に困難、それに加えて高い再生力を持ち多少切り裂かれてもあっという間に修復されてしまうのだが。
この男のナイフの前にはその外皮が容易く切り裂かれ、再生も出来ず、挙句の果てに体液を沸騰させられ、中身を撒き散らして呆気なく死んでしまうのだった……。
本来スライムは恐ろしく強靭であり、高い戦闘力を持つ魔物なのだ……大型種ともなれば、ドラゴン種にも匹敵すると言われるほど……そんな危険生物を愛玩動物同然に扱う昨今の風潮は魔物研究者などと言わせると、狂気の沙汰以外の何モノでもなく、飼育規制などを行うべきだと言われていた。
いずれにせよ、そんなスライムを容易く葬り去るこの男の武器は並の物ではあり得なかった。
……まさにスライムを殺す為の武器! いや、この男自体がスライムを殺すための兵器に他ならなかった!
今頃になって、誰かが絹を裂くような悲鳴を上げた。
男の凶行はまだまだ続く……中央広場付近にいた目に付く範囲のスライムを殺し尽くすと、今度はハンチングをかぶった髭の男にターゲットを変える……赤い男は髭の男が身構えるより早く飛びかかるッ!
そして、間髪入れずナイフで切りつける……とっさに腕で髭の男は身体をかばう……無残にも断ち切られ、宙を舞う腕! 当然流れるであろう真っ赤な鮮血……誰もがそう思った!
けれど、実際に流れたのは、粘ついた透明な粘液……地面に落ちた男の腕が見る間にブチョッと言う粘り気のある音と共にゼリー状の物体に変わる。
髭の男が身を翻して逃げようとする……けれども、赤い男は容赦なくその背中にナイフを突き立てる!
声にならない悲鳴を上げて、髭の男がもがく……湯気を立てて、透明な粘液が吹き出し始める……赤い男にも粘液がかかっているのだけど、ジュウジュウと音を立てて、粘液は蒸発していく。
やがて、髭の男の身体がみるまに、液体状のドロドロしたものに変わっていく!
「……ちっ、さすがにこれだけデカいと、ヒートブレイドで切って刺しただけじゃあ簡単に死なないか……面倒だな……レイン、焼いてくれ。」
男がシスター服の少女に声をかける。
思ったよりも若い少年のような声だった。
「……凄いねぇ……ホントに一瞬で見分けがつくんだ……もし、普通の人間だったらどうしようって思ってたけど。これはもう疑いの余地はないわ! 大いなる太陽神……我に不浄なるものを焼き尽くす蒼き炎を貸し与え給え……浄化の炎ッ!」
レインと呼ばれた少女が呟くと、元ヒゲ男のスライムは青い炎に包まれる。
焼かれながらも、あちこちにぶつかりながらもがくのだが、その火は何かに燃え移る様子はなかった。
踊り狂う松明のようになったヒゲ男はどんどん、その体積を縮めていく……。
対アンデットの浄化魔術……アンデットや不浄の生物以外には全く効果がないのだが……スライムには効果てきめんだった。
「うん、実によく燃えるな……悪しきものを滅する浄化の炎……これで焼かれる時点で人の敵であることは明確って訳だ! これでスライムが善性の魔物とか言われているんだろ? 呆れた話だな。」
「……浄化の炎の裁きは絶対なる神罰! この炎は悪しきもののみを焼き尽くします! つまり、焼かれる時点で悪! ああ、気持ちいいわ……もう、最高っ! ねぇ! サトル様! この調子でこのクソ生物をどんどん燃やそうね。」
そう言って、シスター服の少女は無邪気に笑うと、返り血のように飛び散り、顔にかかったスライムの体液を舌で舐め取る……それは年不相応になんとも淫靡なものだった。
「こ、こいつら! テルミナス教団のテロリストだ! 皆! 早く取り押さえるんだっ!」
突如起こった惨劇を前に、思考停止していた人々がその声に弾かれるように動き出す。
けれども、サトルと呼ばれた男は。人々を縫うように素早く動くと、その声を発した男へまっすぐ駆け寄る。
今度はやや大ぶりの剣を抜くと下から上へ、その男を股から脳天へバッサリ切り上げる。
先程のヒゲ男同様に血しぶきの代わりに、透明な粘液を撒き散らす男。
真っ二つに両断されながらも男はまだ生きていた。
両手を使って、無理やり切断面を合わせると、ニヤリと笑って、後ろに下がる。
そして、その腕を振りかざすとそれは長く伸びて、サトルに迫るっ!
サトルは構えた剣を盾にして、その触手のように伸びた腕を受け止める。
相当な速度でぶつかったらしく、サトルはそのまま吹き飛ばされるように噴水に落ちる。
「てめぇ……よくも仲間をやりやがったな……それに俺も正体がバレちまったからまた、誰かに成り変わらねぇといけねぇじゃねぇか……どうしてくれんだ……このクソカルト教団のガキが!」
男の触手がレインに向かうと、あっけなくレインはその触手に拘束される。
「……擬態種……噂には聞いてたけど、なんて速度とパワーなのかしら……どこが無害で善良なんだか! やっぱり、ラーテルム様の神託は間違ってなかった! ……スライム、滅ぶべし! この邪悪なる生物に死と滅びをっ!」
懸命に触手に抵抗し、ペンダントを掲げようとするレイン。
「まだ言ってやがるのか……この糞ガキが!」
スライム男がそう言うと、レインの拘束はますます激しくなる。
一本だった触手が幾重にも別れると、シスター服を引き裂きながら、その小さな身体に巻き付いていく、そして触手がレインの口の中に強引に突っ込まれる。
「……肺の中まで俺の触手で埋め尽くしてやるよ……死因は溺死ってとこだ……死体は穴という穴に触手を突っ込んで中身を念入りにぐちゃぐちゃにしてドブ川にでも沈めといてや……る?」
スライム男が吠える……けれども、その言葉は最後まで言えなかった。
その視線は、自らの腹部へと移る……信じられないものを見たと言った様子でその眼が大きく見開かれる!
男の腹から、凶悪な鉤爪付きの腕が生えていた。
……それは大穴を空けただけでなく周囲の組織を沸騰させていく。
「調子に乗るな……下等生物……汚ねぇ汁でもぶち撒いて死ね! と言うか今すぐ死ねっ! 念入りに死ねっ!」
……サトルだった……その姿は先程までより、更に人間離れしていた。
手足の先に凶悪な鉤爪が付いていて、フードから覗く顔もトカゲとか爬虫類を彷彿させる異形と化していた。
ゆっくりとスライム男の頭を掴むとサトルの姿が陽炎のように揺らめく。
スライム男も頭の部分だけは、人間の原型を残していたのだが……ボコボコとその頭部が蠢くと、パンパンと言う音を立てて目玉が飛び出すと、派手に体液を撒き散らす!
それだけに留まらず、体表のあちこちをブツブツと弾けさせながら、ボダボタと崩れていくスライム男。
「燃え尽きるほどにヒートッ! ジャッジメントエンドッ!」
最後にサトルが吠えて、スライム男を引き伸ばすように両腕を広げる! 大きくビグンビグンとスライム男が痙攣し、続いてバーンと言う破裂音と共に木っ端微塵になる。
スライム男に拘束されていたレインも触手が力を失ったことで、すでに逃れていた……ゴホゴホと咳をしながら、恨みがましい目で破れた服を抑えて、露出した肌や下着を隠そうとしていた。
「レイン……無事か? すまない……噴水に落とされたのは計算外だった……やはり、この身体……水は駄目だな。」
「遅いよ……馬鹿っ! でも、ありがとう……危なかったわ……結局、擬態種は二体だけしか仕留められなかったの?」
「ああ、こいつが思ったより手ごわかったからな……再生力がエラく高かった……どうも上位種だったみたいだな。直接ヒートエンドをブチ込んでやっとくたばった……他に居た奴は、どさくさに紛れて逃げやがった……。それより、衛兵が来たようだな……ここは逃げとくか?」
「うちの教団は世間じゃカルトとか言われてるけど、法皇様からも正式に認められてる上に、世界最古の歴史を誇る由緒正しい教団なのよ! むしろ堂々とすればいい! この街にも教会があるから、そこを拠点にする! その上で聖戦を宣言して、この街に巣食うゴミムシを駆逐するのよ!」
「そりゃまた過激だね……僕はスライムを殺せればそれで満足なんだがね。それにこの街の人の視線が痛いね……ありゃ、まるっきり人殺しを見る目だ……話には聞いてたけど、ホントに酷いもんだな。」
「ふふっ……サトル様は神の代理人、使徒なのよ? あなたがスライムを殺したいと言うなら、教団は全面的にバックアップします。あなたの行いはすべて、神の御名に置いて正当化されるの! だから、誰からも非難される言われはないわ。」
「でも、子供のペットまで殺すのはやり過ぎだったんじゃないか? 確かにスライムは殺すべきだが、せめて見えない所で始末するべきだったな……まとわりつかれて、ついカッとなってしまった……あの娘、ショックでしばらく寝込むんじゃないかな……?」
「間違いは是正すべきよ……愛玩種は飼い主を精神汚染して、知らず知らずに立場を逆転させるの……あの女の子はうちの教団の者がフォローするだろうから、気にしなくていいわ……。」
そんな風に呑気に話すZとレインの周囲に武装した兵士が続々とやってきて、取り囲む。
異形の姿をなしていたZもいつの間にか最初のときのマントとフードをかぶった赤毛の青年になっていた。
「貴様ら! この騒ぎはなんだ! 何があった! それと武器を捨てろ!」
兵士たちの一人が声をあげる。
「わたし達は、テルミナス教団の執行者! ……なんの騒ぎと問われるならば、我らの正義を執行したに過ぎないと答えよう! 邪悪なる生き物が昼間から堂々と町中を闊歩しているこの状況はどういうことか! この街の正義はどうなっているのだ!」
そう言って、小さなレインが朗々と声を上げ、ペンダントを掲げると、兵士たちがざわめく。
「こちらは何も聞いてない……市民を虐殺している狂人がいるという通報があったのだ! 騒ぎを起こしたのは事実のようだし、貴様らは怪しげな事この上ない……抵抗するのならば、誰であろうが制圧する……それが街の治安を守る我々の責務だ!」
「まぁまぁ……抵抗なんてしませんよ……事前通告ナシで騒ぎを起こしたのは申し訳なかったです。とりあえず、そちらの詰め所とかでいいですから場所変えません? 美人のお姉さん。」
サトルはそう言うとフードを取って、顔を見せると朗らかな笑みを浮かべる。
先程、凶行を行った怪人と同一人物とはとても思えない豹変ぶりだった。
隊長格が応えるように兜を脱ぐ……バサッとプラチナブロンドの髪の毛が広がった。
「私はオルタンシア警備隊第二小隊隊長のマクミリア少尉だ……貴様の名は? まぁ、細かいことは詰め所で聞こう。ご同道よろしいかな?」
「僕はサトルだ……ミチカネ・サトル。マクミリア……ミリアさんってとこかな? まぁ……僕らもこれ以上は騒ぎを起こすつもりもないからおとなしくするよ。レインもそれでいいよね?」
「そうね……ただし、警備隊に成り代わりがいたら、そいつは即座に殺すわ! わたし達はスライムには一切容赦しない……ミリアさんだっけ? それは先に言っとくわ。あと、服を用意して欲しいわ……もうちょっとでスライムに強姦されるところだったんだから……あ、出来れば、身体も洗わせて欲しいんだけど……。」
「そうね……その姿はとってもアレだから、何とかします……。そのペンダントは魔力刻印入りの本物のテルミナス教団幹部を示すものだと確認出来ました……これで身分は証明されているようなものですから、相応の扱いをお約束します。けど、成り代わりって……そもそも、一体何が……。」
「うん、女性の隊長さんで良かったね……レイン。詳しいことは後でゆっくり話すよ……まずは詰め所に案内して欲しいな。」
有無を言わさぬ口調でサトルがそう言うとミリアも頷くしか無かった。
けれど……詰め所に着くなり、惨劇が起こった。
もう一人の小隊長のロドリゲス少尉とフーバー軍曹。
サトルと言う少年は、この二人を目にするなり、問答無用で襲いかかった。
武装解除に応じたので、ミリアとしては安心していたのだが……少年は素手でも十分凶悪だった……その拳の威力は凄まじく、ロドリゲス少尉の頭は一撃ではじけ飛び、フーバー軍曹も身体に大穴を空けられて即死した。
丁寧な物腰と温厚そうな風貌に、節度ある人物だと評価していたミリアには、この行動は全くの予想外で……誰も止める暇すらなくその凶行は一瞬で行われた。
その結果、首なしとなったロドリゲス少尉と壁に縫い付けられたフーバー軍曹……二人の惨殺死体が出来上がった。
けれども、その直後に二人の惨殺死体に異変が起きた……流れるはずの血が一滴も流れず、その代わりに粘ついた粘液が撒き散らされ……挙句に、その身体が見る間にゼリー状の物体へと変化し、蠢き始めたのだから。
それを見て、レインがすかさず浄化の炎で焼き払う……ゾンビだのスケルトンと言った不死者を滅ぼす浄化の炎……ミリアも見たことのある光景だった。
二人の同僚が人ならざるモノに成り代わっていたと言う衝撃の事実。
その二人はぐねぐねと蠢きながら、見る見るうちに干乾びるように縮んでいき……やがて、完全に消滅する。
「やっぱり、治安部隊にも入り込んでたな……こりゃ、この街だけで何匹いるか解らんな。」
「そうね……けど、問答無用で叩き潰したのはさすがいい判断……こいつら、何が起きたか解らないまま死んだんじゃない?」
「スライムはしぶといからね……まともに戦うと面倒だ……人化してる間は力もスピードも大したもんじゃないから、不意打ちで殺すのが一番手っ取り早いな……今までどうやってたんだ? むしろ。」
「スライムの人化はパッと見区別がつかないから厄介だったんですよ……間違えて一般人を殺しちゃったりも日常茶飯事……特に権力者相手だと下調べとか超面倒! でも、サトル様なら見るだけで判別出来るし、誤爆もありえないから、片っ端から殺し放題……超、素敵です……レイン、ちょっとヌレヌレになっちゃいましたわ……。」
そう言って、モジモジと腰をくねらせるレイン。
「はっはっは! どこがどうなってるとか、敢えて僕は聞かないからな……とりあえず、黙ってろって言わせてもらうぞ! この淫乱ロリシスターッ!」
そう言って、サトルがレインにデコピンをするとレインのこめかみに両拳をグリグリ押し当てる。
笑顔なんだけど、その額には青筋が立っていて、明らかに怒っていた。
何故か「ああんっ……イッちゃうッ!」なんて切なげな悲鳴をあげて、ビクンビクンと震えるレイン。
たった今、同僚を惨殺した二人のあまりに軽薄な場違いなまでの会話に、ミリアも返す言葉を失う。
だが……正確にはその表現は間違っていた……同僚を惨殺ではなく、同僚の形をした化物を駆逐した……そう言う事だった。
ロドリゲス達が人間じゃなかったのは、先程見たゼリー状の身体で明らかだった。
そして、その存在が不浄なるものだけを焼き払う、浄化の炎で焼き尽くされたと言う事実。
要はアンデット化した者を葬り去った……それと何ら違いがなかった。
あまり認めたくもないのだけど、彼らはまごうかたなき正義の執行者だった。
「さて……ミリアさん、これ以上無いほどに解りやすいスライムの脅威と言うものを感じ入ってくれたと思うんだけど、僕達にまだなにか言うことがあるかな? 何も無ければ、僕達はこの街に紛れ込んだスライムを一掃する……子供のペットだろうが客寄せスライムだろうが……この街の権力者に成り代わっていたとしても、僕は奴らを駆逐する。いいね?」
そう宣言するサトル達の前にミリア達、オルタンシア警備隊の面々はただ頷くしか無かった。
……これは、この世界の歴史の一幕。
一匹のスライムから一国の王に成り上がった異世界人と、ただひたすらスライムを憎み、スライムを駆逐する為に神の使徒として戦ったもう一人の異世界人の……互いの存亡を賭けた壮大な戦いの記録の序章であるっ!
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