「申皇に許しを乞えばいい」
「そんなら、その府を教えてくれよ。そこに移住すりゃあ、わけのわかんねえ罪状を突きつけられる心配もなくなるだろ」
子どものように目を輝かせる蕪雑を、烏有はじっと見た。
「……なんだよ」
「蕪雑。府を造らないか」
「は?」
「君の望む府を探すより、造るほうが確実だろう」
蕪雑は目をしばたたかせ、炎にあぶられ輝く烏有の白い顔を見た。
「正気で言ってんのか」
「もちろんだ」
ふたりはしばし見つめ合うと、互いに顔を寄せて、声を低めた。
「府なんて、どこに、どうやって造るんだよ。府は、この国を治める申皇が定めて、領主と決めた者を据えてできるもんだろう?」
「申皇に許しを乞えばいい」
「どうやって」
「申皇のおわす岐に、文を書くんだ。府を造る許可をいただきたい、と」
蕪雑がポカンとする。
「どの府もはじめは、ちいさな村だった。それが大きくなり力を持つと、国になる。そうなった国を府と定めるべく、申皇からの使いであり、連絡役となる領主が派遣される」
「そうなのか」
「ああ」
感心したように、蕪雑がうめいた。
「俺ぁ、はじめっから府があるモンだと思っていたぜ。そんなら、どっかの府に属している離れ村が、でっかくなって新しい府になるってことも、ありうるのか」
「ある。もともと各地の府は、そのようにしてできたんだ。小さな村が力をつけて、豪族が生まれ、それらが協力したり駆逐しあって村を大きくした結果、神領としての府に任じられ、領主が据えられる」
「へぇー。そんなら、俺らが村を造って、そいつがでっかくなっていったら、府になれるってことか」
「そうだよ」
「けどよぉ、烏有」
蕪雑は干し肉を烏有に差し出しながら、疑問を述べた。
「府になるには、岐から領主がやってこなきゃ、いけねぇんだろ? だったら、村を造っても、領主が横暴な奴だったら、おんなじことになるんじゃねぇか」