「早くしねぇと、迎えを待たせちまうぞ」
「そのとおりだよ、蕪雑。僕はべつに剛袁を嫌ってはいないし、苦手とも思っていないけれど、彼がどうしても僕を信用しきれないらしいからね。こういう最低限、必要な会話はしてくれるけれど、それ以上にはならないんだ。まったく、警戒心が強くて困るよ」
「信用をしてもらいたいと考えているのなら、貴方の素性や国造りを提案した理由などを、きちんと説明していただきたいものです。それだけの資金がほんとうにあるのかも、わかりませんしね」
ふたりのやりとりに、蕪雑がカラカラと笑い声を上げた。
「そういうことは、おいおい、わかってくんだろ。烏有がどういう意図であれ、剛袁は移住に賛成なんだよな。だったら、ごちゃごちゃ言ってねぇで、その点だけでも信用すりゃあ、いいじゃねぇか。ほらほら、船の上が、なんかさわがしくなってんぜ。烏有の言っていた、小舟が下りてくるんじゃねぇか。突っ立ってねぇで、そろそろあっちに行こうじゃねぇか」
蕪雑の腕に押される形で、烏有と剛袁の足が動く。袁燕が楽しげに走りだし、それを見た蕪雑も川に向かって駆けた。
「早くしねぇと、迎えを待たせちまうぞ」
急かす蕪雑に、烏有の目じりがやわらぐ。
「あんなに急がなくとも、投錨をしてから小舟を用意し下ろすまで、まだまだ時間がかかるんだけどね」
「ここから川原までは、まだすこし距離がありますからね。これからのんびり歩いて行くと、ちょうどいいのではありませんか」
はしゃぐ弟と蕪雑の姿に、わずかに口元をほころばせた剛袁に、烏有は羨望に似たものを向けた。
「なんですか」
「いいえ、なにも」
目を伏せた烏有が歩きだし、剛袁も足を動かす。彼等よりもずっと先に、蕪雑と袁燕の姿があった。




