「いつの間にか、本物の山賊になっちまったんだよ」
「それは、災難だったね」
「まあ、俺がそんなことをする奴じゃねぇってのを、知っている奴等が牢破りの手伝いをしてくれてさ。けど、そんなことをすりゃあ、ただじゃすまねぇ。そんで、ひとまず山に隠れておこうってなったんだが……」
やれやれとため息を吐いて、蕪雑は心底から不本意だと声音に乗せて言った。
「いつの間にか、本物の山賊になっちまったんだよ」
「はは」
「笑いごとじゃねぇよ」
「ああ、すまない。……つまり、ここに住んでいる仲間は、濡れ衣を着せられた蕪雑を救った者たち、ということか」
「そういうのもいるけどな。なんか、府を追ン出された奴とか、妙な嫌疑をかけられて逃げ出して、ここに身を寄せるようになった奴だとか、そういうのもいてよぉ。どんどん人数がふくれちまって、そうこうしているうちに俺が頭目になっちまってたんだよなぁ。俺より頭がいい奴も、年上の奴もいるのによぉ」
わけがわからねぇとぼやく蕪雑に、烏有はうなずいた。
「自然と中心になったということは、人徳があるのだろうね」
「へっ?」
蕪雑が目を丸くする。
「そういうことだろう」
烏有が薄くほほえむと、いやいやと顔の前で手を振りつつ、蕪雑は照れた。
「そんなに、偉かぁねぇよ。もしそんなふうなら、アイツらをひきつれて、まっとうな仕事のできる府に、落ち着いているさ。甲柄のほかに行けば、甲柄の法は届かねぇからな」
うんうんと、蕪雑は自分の言葉に相づちを打つ。
「そうすりゃあ、年のいった連中も安心だろう。まったく、かわいそうな連中ばっかなんだぜ? ちょっとばかし無礼を働いたとかなんかで、簡単に牢にぶちこまれて辛い目に遭わされてよぉ。領主や豪族なんかは、俺たちを家畜みてぇに考えてやがんだ」
「そう思うのなら、ほかの土地に行ってもおなじとは、考えないのか」
「豪族とか領主とかの考えひとつで、法は決まるんだろう? そんなら、甲柄よりも人を大切に扱う府が、あるかもしれねぇじゃねぇか。……もしかして、烏有の見てきた府はどれも、工夫や農夫なんかを、家畜みてぇに扱ってんのか?」
蕪雑が眉をひそめる。烏有はゆるくかぶりを振った。
「生産者がいなければ、品物はできないからね。重要だと考えている府も、あるにはあったよ」