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モブ?

 奥様と香弥子さんを見送った後、私はとりあえず部屋に戻ろうかと歩きだすと、廊下の向こうから歩いてくる和之さんとばったり鉢合わせた。


「よう」

「こんにちは和之さん。今日は大学はお休みですか?」

「ああ。……さっき玄関の方から声が聞こえたけど、誰か来たのか?」

「……はい。あの、宮森香弥子様がいらっしゃいました」

「宮森香弥子?誰だ?」

「……忠之さんの許嫁だそうです」

「はあ!!?……嘘だろ!?何かの間違いじゃねえの?」


 そうであれば良いけど、私は確かに本人から聞いたし、奥様がお相手してるって事はそういう事じゃないの?


「……兄貴は?」

「忠之さんはまだお仕事から帰ってませんよ」

「チッ……おいっ、とりあえず兄貴が帰ってきたら教えろ。俺が詳しく聞いてやる」

「えっ、でも……」

「わかったなっ!」

「はいっ!」


 突然命令を下した和之さんはそのままブツブツ言いながら、足早に来た道を戻って行ってしまった。

 彼が何で怒ってるのか知らないが、大丈夫だろうか。兄弟喧嘩に発展しなければ良いけど。





「あっ、吉乃様!」


 今度は後ろから鈴ちゃんに呼びかけられた。


「鈴ちゃん、どうしたの?」

「たった今、忠之様がお帰りなられました」


 噂をすれは何とやらで、今日はまた早いお帰りだったようだ。


「そう。それじゃあ、お部屋にいらっしゃるよね」


 さっそく和之さんの命令を遂行しなくては。


「はい。でも、その……忠之様から吉乃様は部屋から出ないようにと……」

「えっ、なんで……?」

「あの、ご友人の方を伴ってご帰宅されましたので、その為ではないでしょうか」

「……」


 そっか、お友達にも会わせたくないの……。


「そう……、それじゃあ悪いけど和之さんに忠之さんが帰宅された事を伝えてくれる?お話があるそうなの」

「はい!かしこまりました」


 お願いねと言い残すと、元気に返事する鈴ちゃんとは対称的にトボトボと肩を落としながら、私は忠之さんの言いつけ通り自分の部屋に向かおうと歩きだした。



「早く消えれば良いのに……モブのくせに」



 ………………え?


 振り向くと、すでに鈴ちゃんは背を向けて歩き出していた。


 今、空耳じゃないよね?


 さっき鈴ちゃん、何て言った?


 私の事、モブって言った。


 …………まさか。


 この時代に聞くはずのないその単語を発したという事は、鈴ちゃんは私と同じ――?



 そう結論づけると、私は反射的に鈴ちゃんの後を追いかけた。

 さっきのセリフからも私を邪魔に思っている事はわかる。いつも明るい笑顔で接してきてくれてたから、さっきの冷たい声音が鈴ちゃんから発せられたという事をいまいち信じきれてないのも事実だ。だけど、もし鈴ちゃんが原作を知っていて、かつ自分がヒロインである事も理解しており、そして忠之さんに好意を抱いているのならばさぞや私の存在は目障りな事だろう。

 だけど、今とにかく私は鈴ちゃんと話をしなければ気がおさまらない。鈴ちゃんが本当に現代の記憶があるにしても、ここでは原作内のヒロインだ。それに比べて私は漫画に登場すらしてなかった人間で、原作を知っている人間からしたらイレギュラーな存在だろう。神田家の居候でそれなりに皆に可愛がられているなんて位置付けの登場人物なんて書かれていなかったから。もしかしたら実際いたのかもしれないが、それこそ鈴ちゃんのいう通り名前のないモブとしてだ。


 この3年間が幸せすぎて考える事を拒否していたが、物語が動き出した今、私という不確かな存在がここにいる意味を考えなければならない。だから、そのためにも鈴ちゃんと話をすれば何かわかるかもしれない。



「鈴ちゃん……っ!」



 ガシャン!



 ………………っ!?



 これは一体どういう状況?



「忠之さんも寂しかったですか?」



 追い付いた鈴ちゃんに声をかけたと同時に無機質な音が響き渡る。目を向けるとそこには立ち尽くす鈴ちゃんの後ろ姿と、その凝視する視線の先では抱き合っている忠之さんと香弥子さんの姿があった。



 香弥子様はうっとりとした顔を忠之さんの胸元に寄せて、甘えた声をだしている。



「た、忠之様っ、」



 鈴ちゃんの震える声が聞こえる。



 …………そうか、きっとこれはイベントのひとつなんだろう。

 何か事情があって忠之さんと許嫁の香弥子様の抱擁シーンを見てしまった鈴ちゃんがショックを受ける、とか。おそらく、この先誤解を解こうと奮闘する忠之さんがいて、そして更に二人の絆が深まるといった所だろう。


 はは、やっぱり忠之さんの言いつけを守らないからこんな目に遭うんだ。言いつけ通り、大人しく部屋にいればこんなシーン目撃しなかったのに。


 私は一体何にショックを受けているんだろうか。

 名ばかり許嫁のはずなのに忠之さんと香弥子様が抱き合っているから?それとも、今後繰り広げられるであろう鈴ちゃんとのイベントを目の当たりにしなくてはならないから?

 どちらにしても、こんな場所から一刻も早く逃げ出してしまいたい。だけど、ヒロインがどう動くかわからないから下手に動けない。モブはモブらしく空気になるしかないんだろうか。


 私はただ、この異様な空間で止まった時間が動き出すのをただ息をつめて待つしかできなかった。


「忠之様?」


 動きのない忠之さんに不審に思ったのか香弥子様が声をかけるも忠之さんの視線はこちらに向いている。ヒロインに気づいたんだろう忠之さんの視線は真っ直ぐに鈴ちゃんに向いて……あれ、いない?



 あれれ?なんで私を見ているの?


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