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デート?

 忠之さんに連れてきてもらったパーラーはなかなかの人気店のようでたくさんの若い女性で溢れていた。そんな中に突然現れたイケメンの存在に店内の空気が一気にざわめいた。


「凄い人だな、座れるかな」


 こういった事に慣れているのか忠之さんは周りの視線など全く気にしていないようでのんきに空いている席を探しているが、逆に私の方はあの女何よ、不釣り合いじゃない?召し使いよきっと、等々が込められた視線をビシビシ感じながら忠之さんの流れるようなエスコートを受けて席に座る。注文をしている間もそれらの痛い視線から逃れるように身を縮めていたのだが、いざアイスクリームが目の前に現れると現金なことに周りの視線など気にならなくなってしまった。


「(アイス……!!)」


 久しぶりのアイスの味は元の世界の物と遜色のないほど美味しくて、周りの視線どころか忠之さんの存在すらも忘れて食べ進めていく。


「(冷たい……美味しい……幸せ……!)」


 存分に堪能して、あと一口で終わるという時やっと私は目の前に座る人の存在を思い出した。


「あっ………って、あれ?忠之さんは食べないんですか?」


 ニコニコしながらこちらを見ている忠之さんの手元には珈琲カップが一つあるだけで、折角パーラーに来ているというのにアイスクリームを注文した形跡がなかった。


「ああ、僕はいいよ。吉乃が美味しそうに食べる姿を見るだけで充分満足だよ」

「え……、で、でも……」


 そんな甘い台詞を吐かれた私は思わず俯いてしまう。その時、何だか照れ臭くて顔を上げられない私の目に入ったのは、あと一口分残った自分のアイスクリームだった。


「せ、折角来たんですから……これ、食べてみませんか?」


 食べかけ、というより最後の一口しかないからまるで食べ残しみたいで少し躊躇はしたが、まだあまり溶けていないし良いかと器を忠之さんの方へ押し出そうとしたらそっとその手を止められた。そして、手を重ねたまま私の手ごとアイスクリームののったスプーンを持ち上げてそのまま忠之さんは自分の口に入れてしまった。


「うん、美味いな」

「あ……そ、そうですか、よ、良かったです……」


 手と目を離さないままぺろっと唇についたアイスクリームを舌で舐めとる仕草に私は勿論のことお店中の女の子達の頬が真っ赤に染め上がっている。

 無自覚なのか、それともわざとやっているのか分からないが忠之さんは散々と色気を振り撒いてくるから困る。折角アイスで冷えた体がそのせいで熱を帯びてしまうから。




「今日は連れてきて頂いてありがとうございました」

「どういたしまして、また来ような」


 流石に周りの視線に居心地が悪くなった私達は早々と店を出ると少し離れた所で待っている車までを歩いていた。

 忠之さんの斜め後ろの位置をキープしながら離れすぎないように付いていってるのだが、それがどうも気になるのか忠之さんはチラチラと振り返ってくる。

 確かに同行者の姿がほぼ見えない状態で道を歩くのは不安になるだろう。しかも私のように帝都に慣れてない人間だったら尚更だと思う。

 でも、ごめんなさい。私は横に並んで歩くよりこっちの方が忠之さんの顔がよく見れるから嬉しいんです。普段屋敷の中で生活しているとこんな角度から見たことないから少しだけ堪能させて下さいね。


「(細面だと思ってたけどやっぱり男の人だな、結構顎のラインしっかりしてるんだ。あっ、耳の横にほくろ発見。うーん、もう少しずれていれば泣きぼくろだったのに……はっ、駄目だっ!そんな事になったらお色気倍増しちゃって、私の心臓がもたないっ!!)」


「……顔に穴が開きそうだな」

「!」


 あれこれ考えながら見ていたため、ジロジロと見つめ過ぎてしまったみたいで、気づくと忠之さんの肩が小刻みに震えているのが見てとれた。


「す、すみません……」

「くくっ、いささか照れるがいくらでも見ていいよ。だけど僕の顔なんて見慣れたものだろうに、何か付いてたのかい?」


 訊ねながら自らの頬を擦る忠之さんに「はい、ほくろが、」と自分の耳のそばを指差しながら答えると「へぇー、自分では気付かなかったな」とその場所を探るように指で触れていた。


「ほくろって案外自分では気付かないものなんだよな。特に背中なんか……って、い、いや、なんでもないっ、」


 さっきまで普通に話していたのに急に焦ったように前を向いてしまった。


「(当然どうしたんだろう?背中?……背中のほくろが何か…………、っ!!)」


 そのワードから男女の情事についての連想ができてしまい、もしかしたら忠之さんも同じことを考えていたのかと思ったら恥ずかしくて自然と歩む速度が遅くなってしまった。そして、それに反比例するように忠之さんの歩みはどんどん速くなっていき、その結果我に返った時にはすでに忠之さんと私の間にはたくさんの人が割り込んでしまっていた。


「あっ、忠之さんっ……きゃっ!」


 あっという間に背の高い忠之さんの頭も見えないほど距離が開いてしまい、はぐれたら大変と慌てて追いかけようとしたのだが運の悪いことにすれ違う人とぶつかってしまい尻餅をついてしまった。


「すいませんすいません!!だだ大丈夫ですかっ!?」


 ぶつかった相手は何度も頭を下げながら泣きそうな顔で手を差し出してくるので、「ありがとうございます」と礼を言ってその手をとるとぐいっと引っ張り上げてもらった。そして立ち上がった私の目の前には少年のような幼い顔立ちをしているのに見上げるほど背の高い男の子がいた。


「あ、あのっ、本当にすいませんでした!け、怪我とかしてないですか!?」


 汗だくで相当着古しているだろうツギハギだらけの服を身に纏った彼を周りの人達は奇異の目で見ながら通りすぎていく。


「大丈夫ですよ、私こそごめんなさい」

「いえっ!おいらこそっ……って、わわっ、まずい!」


 その時、背の高い彼は人込みの中で何かを見つけたのか話しの途中にもかかわらず突然逃げるように走り去ってしまった。


「えっ……ちょ、ちょっと!……うぎゃっ!!」


 男の子が走り去って行った方を見ていると今度は後ろからどんっ!とさっきよりも強い力で何者かにぶつかられてしまった。


「痛った~!」


 なんとか手はついたものの同時に膝も路面に打ち付けてしまい、その酷い痛みと変な声を出してしまった恥ずかしさから私は人のたくさん通る往来だというのに踞ったまま顔を上げられずにいた。そして、おそらく私にぶつかってきた人達だろうか、踞る私の横を誰かを口汚く罵る声と共にドタドタと走り抜ける複数の足音が聞こえた。

 しばらくは騒がしかったその乱暴な足音も聞こえなくなった今、誰も声をかけてこないのを良いことにそのままの態勢でいた私は逆に立ち上がるタイミングも失ってしまいどうしたものかと困ってしまっていた。


「吉乃っ!!」


 その時、自分の名を呼ぶよく知った声にほっと安心して顔だけ上げて振り返ると焦った表情で駆けてくる忠之さんがいた。


「あっ、ただ……、」

「どうした!?大丈夫か!?何があった!?誰にやられた!?」

「いえっ……、」

「おいっ!まさか怪我したのかっ!!?」

「えっ、はい…………きゃっ!」


 矢継ぎ早に質問してくる忠之さんはいまだ道路に座り込んだままの私の擦りむいた膝に気付くと有無を言わさず私の膝裏と脇に手を差し込み軽々と持ち上げてしまった。


「(お、お、お姫様だっこ……!)」


 ぐんっと高くなった目線で周りを見回すと羨望と冷やかしの目で見てくる人々がいて、それらの視線にいたたまれず忠之さんに降ろして欲しいと訴えても厳しい表情のまま無言で却下されてしまう。


 せめて顔だけでも隠そうと忠之さんの胸元に埋めてみたものの、結局車にたどり着くまでの間公開羞恥の刑に晒されたのだった。


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