危険な来客3
宮森様が今日訪れた目的はこれだったのか。
他の人に言われても、おそらくショックは受けるだろうがこれ程の衝撃はなかったと思う。宮森様はその鋭い洞察力でもってこのほんの数分の間に私という人物を見極め、そして結論付けしたのだろう。
忠之さんの異性関係などどうでも良いと言いながらも、まんまと自分の友人の懐に入り込み好き勝手している女を己の目で確認した上で苦言を呈しに来たというのか。
ただ単に友人を思った上でのお節介をやくような人には到底見えないが、それでも今この男は『お前は忠之にふさわしくない』と暗に言ったのだ。
確かにいつも甘えてばかりで、私からは忠之さんに何も与えられない事はわかっていた。好きだから側にいたいなどと子供のような事しか考えていない私に重い責任を抱える忠之さんの近くにいる資格などないのはわかっている。むしろ重荷にすらなっているのではないのかということも。
「あいつは吉乃さんの話はほとんどしないが、それでも言葉の端々からもあんたの事を本当に大事に思ってるのはわかる、それこそ真綿にくるんで何者からも傷つけさせないぐらいにな。だがな、そこまでしてる女に隠し事されてるなんて忠之も報われないと思わないか?」
「!!……そんな、」
「違うか?……違わないよな、全てをさらけ出してくれない女に全幅の信頼を置けるか?心からの癒しを求められると思うのか?」
「…………」
そんな事わかってる。常に嘘をついている事への罪悪感は年々大きくなっているし、私だって出来ることなら本当の事を話したい。だけど、ここは漫画の世界で私は100年先の世界からやって来たなんて荒唐無稽な話、誰が信じるというのだ。
「納得いかないみたいだな」
「いえ、そんな事は……!」
「あんたにどんな事情があるか知らないが、本気で忠之の事を思うなら裸でぶつかってやれ」
「裸……」
「ああ、いや、本当の裸って訳じゃなくてさ……、」
意図した訳ではないけど今日初めて宮森様の慌てる顔を見ることができて多少溜飲が下がったものの、すでに私が嘘をついている事を当然のように話す宮森様が怖い。
「わかってます、本当の事を話せって言いたいんですよね」
「まあ、そういうことだ」
「…………」
それでもまだ頷く事のできない私に宮森様は苛立つ様子もなく、落ち着いた声音で続ける。
「……変に思わなかったか?」
「何を……、」
「普通、記憶喪失の人間を拾ったら警察に届けるところだが忠之は何を思ったのかあんたを引き取り自分の屋敷に住まわせた。だが一応素性は調べただろう……聞いてないか?」
「聞きました、けど、わからなかったって……」
「そこがおかしいんだよな、神田財閥だぞ?女一人の素性調査だって言ったってその辺の探偵って訳じゃないだろ、それなりの調査員を使ったはずだ。なのにだ、何もわからないなんてあり得なくないか?」
「…………」
普通に考えればその疑問はとても良くわかる。ちょっと考えればおかしいと思うのは当然だ。だが、どんな優秀な探偵を使ったとしても、吉乃という人間の素性が判明する事は絶対にない。
「俺だったらそんな怪しい人物を野放しにはしない、自分の目の届く所に置いて監視するだろうな」
「!?……たっ、忠之さんも、そうだと……?」
「いいや、さっき言っただろう。どうみたって忠之はあんたを疑ってなんかいないさ。…………あいつは待ってんだよ、」
「な、なにを……、」
「吉乃さんが本当の事を話してくれるのをさ」
「!!」
「どんなに調べても出てこない吉乃という人間の正体を知ってるのはあんただけだ。だけど忠之はあんたから無理に聞き出そうなんてしなかった。記憶喪失だなんて嘘だって知っててもな!」
「そんな……!」
「俺が言った意味がわかったか?あんたの事情は知らんが忠之は俺の大事な友人なんでね、こんな健気な男に不義理をしてるあんたが俺は許せないんだ」
泣くのは卑怯。それはわかっていても、うつむいた私の瞳からポトポトと涙が握り締めた手の甲に落ちるのを止める事はできなかった。
鈴ちゃんがどうとか、原作がどうとか、自分一人が悲劇のヒロインになったかのように勝手に悩んで落ち込んでいた私は忠之さんの気持ちを何も考えていなかった。まさか彼が私の嘘を知っていたなんて思いもしなかった。たけどそれは、忠之さんが私に気付かせない様に上手く騙されていてくれたという事。
「忠之さんっ……、」
私は本当に大馬鹿者だ。
ここまで言われなきゃ気付かないなんて。忠之さんには甘やかしてもらって、大切にしてもらって、それを当たり前のように享受していた私はどれだけ厚顔な人間なんだろうか。
近くに居るだけで良いなんてどの口が言うというのか。今まで忠之さんの側に居られたのは全て彼の優しさと懐の深さ故のものだったというのに。
「吉乃さん……んっ?……げっ!!」
その時、落ち込む私の側に立った宮森様が何かを言いかけた所で不自然に顔を扉の方へ向けた。そして、ノックもせず扉を蹴り破るほどの勢いで入ってきた人物の姿を見て顔を青ざめた。
「吉乃っ!!」
「……忠之さん?」




