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岩石精(ゴーレム)に転生したら養女(むすめ)ができた。  作者: 亥上 犬太
第10章:大森林(リトルガーデン)編
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第151話:ナインちゃんとマッブ様

 先週は投稿できずスイマセンでした。

 でも、しばらくペースが不安定になると思います。

「わたしはナイン。このリトルガーデンのあるじ・マッブの娘。アナタたち、頭が高いわよ。」

 そう言って月光花の上でふんぞり返るミニチュア幼女。


「え、は、はじめまして?」

「お、おう」

 ミニチュア幼女のテンションに乗り遅れるミラとシレン。

 だが、これで2人を責めるのは酷だろう。

 なんせ、いきなりの登場である。ついて行ける方が珍しいだろう。


 単に戸惑ってしまっているだけなのだが、目の前の幼女はそう思わなかった。

「なによ、あんたたちその反応は。まさかわたしのこと、うたがってるんじゃないでしょうね。それとも、あたしが小さいからってバカにしてるの?」


 しかめっ面である。泣きそうになっているようにも見える。

 もし、幼女の言っていることがデタラメだったとしても、よそ者が子供ともめていたら悪者はよそ者の方になるだろう。

 右も左もわからぬ場所でトラブルは避けたい。


 動いたのはシレンだった。

「これは失礼しました。俺はシレンといいます。ナイン様にお目もじかない、光栄であります。」

 幼女の前に膝をつき。目線をあわせて話しかける。

 子供の頃、騎士団ごっこで鍛えたなんちゃって作法である。

 つまり、幼女のごっこ遊びにつきあってあげることにしたのだ。


 ミラも幼なじみに合わせるように、膝をつき自己紹介をする。

「私はミラと言います。」


 幼女はその様子を見てフフン、と鼻を鳴らした。

「まあ、ゆるしてあげるわ。わたしの寛大さにかんしゃすることね。」

 どうやら少し機嫌が持ち直したらしい。


「はい、ありがとうございます。」

 シレンがさらにへりくだる様子を見せると、幼女、ナインはさらに機嫌をよくした。


「おまえはなかなか見所がありそうね。とくべつにわたしの子分に」

 そこまで言いかけて、唐突に言葉を切る。


 見れば顔色が悪くなっている。

 月光花から飛び上がると、シレンの背中に隠れるようにして息を潜める。


「あの、どうかしましたか」

「静かにしなさい。」

 シレンの質問にもそれだけである。


 何事だ。と顔を見合わせる2人の前に、妖精の庭(リトルガーデン)の奥から進み出てくる一団があった。

 人数は5名。いずれも人間より小さく、背中にはナインのものとよく似た羽がある。

 ここにすむ妖精だろう。


 身長40~50cmほどの騎士甲冑を身につけた妖精が4名。

 彼らに守られるようにして、1人の女性が降りしきる月光の中をふわりふわりと進んでくる。


 白い肌、軽くウェーブする長い銀髪が月の下に鮮やかで、まるで彼女自身が光を放っているように見えた。


 話しかけてきたのは、護衛とおぼしき騎士甲冑姿の傭兵の1人だった。

「そこの2人。並人がこんな夜更けに我らがリトルガーデンに何のようだ。」


 相手の居丈高な口調に「何のようだ、とはなんだ。」とミラとシレンは思ったが、ナインと違って明らかに権力者ぽかったので、口にはしなかった。


「私たちはレックという守衛妖精(スプリガン)に連れられてここに来ました。」

 ミラがそう返答する。


 騎士甲冑姿の妖精の表情はフルフェイスの兜のせいでうかがえない。

 しかし、すくなくとも上機嫌ではなさそうだった。

「なに、レックの客だと?それならば、奴はどこにいるのだ。」


 いつの間にか、起き出していたらしい。

 今や見慣れた無骨な姿の妖精が、一団の前に進み出る。

「スプリガンのレック、御前に。マッブ様、よき夜を騒がせてしまい申し訳ございません。」


 言葉は騎士甲冑姿の妖精ではなく、その中央にたたずむ女性へと向けられている。

 どうやら彼女が妖精の庭の主、マッブらしい。


 軽く無視される形になった騎士甲冑はレックに対して食ってかかる。

「レック。貴様、見回りの役目はどうした。それにこんなどこの馬の骨ともしれぬ並人どもを連れ込むとは」


 それを制止したのはマッブだ。

「ボイル、そこまでになさい。貴方が私やこのリトルガーデンを思って言ってくれているのはわかるけれど、レックは考えもなしに客人を連れては来ないし、そもそも、今の要件はそこではないでしょ~?」


「ハッ、申し訳ありません。」

 忠誠心は高いのか、騎士甲冑は居丈高な様子をかき消して、主に答えた。


 マッブは改めてレックに向き直ると穏やかな笑みとともに口を開いた。

「明日。“丘の上(ヒルトップ)”にいらっしゃい。」

 柔らかだが、人に命じることになれた立場特有の有無を言わせぬ口調だ。


「はい、かしこまりました。」

 レックも素直にうなずく。

「そちらの2人もいっしょにいらしてね~。」

「「はい、わかりました。」」


 とっさの返事がきれいにハモったのがおかしかったのか、マッブはコロコロと鈴を転がすような笑い声を上げた。


「あら、そうだわ。忘れるところだった。あなたたち、このあたりで私の娘を見なかったかしら、顔立ちは私に似ていて、髪は肩くらいまでね~。体がまだ小さくて、このくらい。ナインって言うのだけれど」


 そう尋ねられて、ミラとシレンは顔を見合わせた。

 指名手配の幼女は今現在、シレンの背中に張り付いて息を殺している。


「その、ナインさんがどうかしたのですか。」

 おずおずとミラが質問すると、マッブは途端に顔をしかめてプンプンしだした。


「あの子ったら、いたずらばっかりでひどいのよ~。今日だって、私が後で食べようと思っていたスモモの蜂蜜漬けを勝手に食べちゃって。それも、お説教の途中で逃げ出すから、捕まえてきつ~く叱ってやらなくちゃ」


「な、なるほど~」

 うなずくミラ、それにシレン。

 2人の様子に何かを感じたのか。マッブが重ねて尋ねてくる。


「それで、お二人はなにか心当たりはな~い?」

 ミラとシレンは顔を見合わせた後、同時に言った。


「「ここにいますよ。」」

「ちょ、ちょっと、あんたたち、なんてことするのよ!」

 たまらず声をあげたのは、ほかの誰でもない、ナインその人である。


「あらあら~。ナインちゃん、そんなところにいたのね。ママ、心配してたのよ~?」

「ヒィッ、おかあさま。これは、その」


 先ほどミラとシレンに威張っていた様子はどこに行ったのか。ナインは蛇ににらまれた蛙である。

 うろたえている隙に騎士甲冑姿の妖精のうち2人が幼女の両脇をがっちり固めた。

 その姿、捕獲された宇宙人のごとし。


 しかし、そんななりでもミラとシレンへの捨て台詞は忘れない。

「あ、あんたたち、よくもうらぎったわね。おぼえてなさいよ。このうらみはわすれないんだから!」


 それに反応したのは2人ではなく、マッブだった。

「あら~、まったく反省が足りてないみたいね~。もう遅いからかる~いお説教だけにしようと思っていたのに、これはお仕置きが必要だわ~。」


 途端にナインの顔が青ざめ、威勢が衰える。

「ち、ちがうの。いまのは、そんなつもりじゃ」

「言い訳は後で聞くわ~。それでは私たちはこれで失礼しますね~。」


 あらあら、うふふ~。と余韻を残してマッブたちは去って行った。

 後に残されたのはミラたち3人のみ。


「さすがに驚いたぞ。いつの間にナイン様と知り合っていたのだ」

 あきれ顔で尋ねるレックに2人はいきさつを説明する。

 聞き終えた守衛妖精はため息をこぼす。


「全く、あの方にも困ったものだ。まあ、見ようによっては一足早くマッブ様にお目通りかなったのだ。悪くはない。面会の約束もできたしな。」

 そう言うと、もといた場所に戻って再び寝転がる。


 どうやら話は終わりで、寝直すらしい。

 ミラとシレンにしても、竜につづいて妖精の庭の主とも遭遇してさすがに体力気力の限界だった。


 それぞれ寝床と定めた場所に身を横たえると、いつしか眠りの中へと落ちていった。


………。


 赤、黄、青、様々な花の色づく野原の中央。小高い丘の真ん中に樹齢が1000年は超えているだろう古木がぽつりぽつりと白い花をつけている。

 そこがマッブの住み処であり、同時に玉座でもあった。


 マッブとの面会自体はスムーズなものだった。

 互いに改めて名乗った後に、レックが2人をリトルガーデンに招いた理由として竜退治の計画を語る。

 マッブがそれを大枠で認めると、話の流れは決まったようだった。


 その後は騎士甲冑姿の妖精(騎士妖精(ディーナ・シー)という種族とのこと。)のリーダーらしいボイルから細部についての修正意見が出たり、ミラやシレンも自分の役割などについていろいろ意見を出した。


 結論として、安全に十分な配慮をしてもらうことを条件に、2人も妖精たちの竜退治に協力することになった。


 なお、マッブの脇に控えていたナインも計画への参加を希望したが、こちらは全会一致で却下された。

 さらに、全力で駄々をこねたが、結果は変わらなかったので、特にそのときの様子を詳述することはしない。


 最終的に、決行は明日と言うことになった。


………。


問1:この状況に最もふさわしいことわざを次の3つから選べ(5点)

1)馬子にも衣装

2)豚に真珠

3)錦上に花を添える


 難問を前にして、シレンは言葉に窮していた。


 時はすでに竜退治の決行当日。

 周囲には自分以外の計画参加者やマッブやナインと言った妖精が集まっている。


「かわいいでしょ~?みんなと腕によりをかけたの、楽しかったわ~。」

 とは、マッブの言。よほど楽しんだのか。顔色がよい。


「ふふん、まあまあね。わたしも手伝ったんだから、とうぜんよ。」

 と言ったのはナインだ。自らの手柄だと言わんばかりに胸を張っている。


「ふむ、身を清めさせ。妖精の衣装を着せる。ははあ、衣装にも何か仕掛け(魔法)がある様子。これならばまず間違いなく竜もおびき寄せられるでしょうな。」

 作戦の準備が順調であることに満足げにうなずいたのはレック。

 なお、無粋な発言にマッブとナインからブーイングを浴びた模様。


「ど、どうかな。変じゃない?」

 もじもじと照れながら尋ねてくるミラ。

 シレンは「だれだ、こいつは」と、思った。思っただけで、口にはしなかった。


 イスタ村で見慣れた野生児(おてんば)っぷりに、タービナでの男装生活で磨きがかかり、とどめとばかりに奴隷船での悶着で泥だらけ汗まみれ。

 ミラというのは、そういう人物のはずだった。


 だというのに、だ。

 普段、ろくに梳かされることもなく帽子の中に押し込められている赤毛は今や丁寧に梳かされたうえで香油を施され、日光の下でつやめいている。

 肌も、日焼けこそしているものの、丹念に垢が落とされ磨き込まれたらしく、少年の目にはまぶしく映る。


 そして、ナインが特に力を入れたと豪語する衣装だ。

 白を基調に様々な花びらを編み込むようにした淡くはかなげなワンピース。

 頭には花びらのティアラ。

 少女趣味全開だが、身につけているのが実際少女なら問題ないの精神である。


 ミラは膝丈のスカートが恥ずかしいのか。

 右手で体を隠すようにし、左手で裾を下へ引っ張っていた。


 とどめに化粧。こちらはマッブが監修した。

 と、いっても子供相手にたいしたことはしていない。

 しかし、全体を盛るよりも、ポイントをしぼった方がメリハリがきいて効果的な場合もあるのだ。


 紅をさした幼なじみの唇に、シレンは心拍数が増加するのを感じた。

「お、おう。まあ、いいんじゃないか。悪くない、と思うぞ」

 なんとかそれだけ振り絞った。すさまじい気力が必要だった。


 なお、これは事前にレックからアドバイスを受けた結果である。

 守衛妖精はどこまでも事務的な調子でこう言った。

「いいか。これから、マッブ様やナイン様がおまえの連れを作戦のために飾り立ててくる。で、その出来映えに対して我らに感想を求めてくると思う。そのときはとりあえず褒めておけ。精一杯褒めるのだ。竜退治決行の前にマッブ様たちのご機嫌を損ねるわけにはいかんのでな。くれぐれも頼むぞ。」


 そこまで言われていたのに、その程度のコメントかよ。とか。

 レックは偉そうに言ってくせにろくなこといえてねえじゃん。とか。

 言わないであげてほしい。

 こういうものは、本人の適性と努力が必要なのである。


 話を戻すが、シレンのやや煮え切らない台詞にマッブやナインは不満顔だった。

 しかし、言われた張本人はまんざらでもない様子。


「そ、そう。なら、いいかな?」

 などと顔を赤くしている。


 ミラの役割は一言で言って囮。

 神話の生け贄を模して、竜を狩り場におびき寄せる重大な役目なのだが、それを理解しているのか問い詰めたくなる様子であった。


 もっとも、周囲の面々についても元がふざけたがりの妖精ばかり。

 今から凶暴な竜を退治しにいくとは思えない緩さだが、いつまでもおしゃべりばかりしていられない。


 一同の中でも、例外的に生真面目であり、計画の立案者であるレックがマッブに促した。

「マッブ様、準備も万端。そろそろ出発の頃合いかと。」


 マッブはうなずくと、ふわりと舞い上がり、計画への参加者が一望でできる場所まで高度を上げた。

 皆が会話を中断し、、リトルガーデンの主を見上げる。

 周囲がしずまり、話を聞く体勢が整うのを見計らってマッブは口を開いた。


「いまここに集ったのは、まさにこのリトルガーデンの最精鋭。知恵も武勇も並ぶものなき貴方たちならば、必ずや邪悪な竜を打ち倒しこの野山へわれら妖精にふさわしい平穏を取り戻してくれることを確信しています。

 故に、私は貴方たちにこれ以上の勇を求めません。その代わり、全員が欠けることなく帰還することを望みます。一人一人が不足なく役割を全うし、全員で事をなすことを。」


 マッブはそこで言葉を切ると、自身の言葉が届いているかを確認するように参加者の顔に視線を巡らせた。

 それから、右手を前方にかかげる。

「総員、出撃!」


 応ッ!!

 と声を合わせて応じ、参加者が動き出す。


 まずは銀色に輝く騎士甲冑を身につけた騎士妖精(ディーナ・シー)の一団。

 後に続くのは、鎧を身につけていない羽妖精(ピクシー)たち。

 空中をゆく彼らの下、地上ではずんぐりとした体つきの鉱夫妖精ノームたちがひょこひょこと行進している。


「さて、それでは我らも行こう」

 レックがミラとシレンに声をかける。

 2人の顔からもさすがに先ほどまでのノンキさは消え、緊張感が走り始めている。


 竜との2度目の対面が間近に迫っていた。

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