番外:ドリさんの地理講座
例によって、時系列はミラと出会う前の2年間のどこかです。
読まなくても大丈夫なはずですが、読むと本編が少し理解しやすくなるかもしれません。
『それで、今日はこの国のことを教えればよいのか。』
『ああ、頼むよドリさん。やっぱり、自分が住んでるところのことは重要だろ?』
今日も今日とて、俺はドリさんに授業をしてもらいに来ている。
慣れてきたとはいえ、この世界のことをまだ良く知らない俺にとって、博識で面倒見のいいドリさんは最高の先生だった。
『ふむ、まあよかろう。とはいえ、最初から詳しい話をしても仕方あるまい。今日はこの大陸のおおまかな地理について話をしよう。』
真っ白な髭をしごきながら、そう言うとドリさんは手にした杖で地面に絵を描き始めた。
恐らく地図だ。
『儂らがおるこのグレイス王国は大陸最大の大国じゃ。中央に王都・インストラがある。政策としては聖智教を国教とした人族至上主義じゃな。』
言いながら、ドリさんは骨のやたらに太い鶏もも肉のような絵を地面に描く。斜めに置かれていて右上が肉、左下が骨だ。肉の部分の真ん中に王冠のマーク。つまり、王都、インストラだろう。
『王都から向かって南東。霊峰イヴェストの麓にあるのが聖都・ファクタとそれを守るコウロゼン神聖国じゃ。まあ、国と言っても都市国家。実態は教会勢力による自治区程度のものじゃな。』
王冠マークから南東の所に山を1つ。聖都があるというイヴェストだ。
『王国北側はと言えば、天境山脈によって大雪原と隔てられておる。大雪原は前人未到の極寒の世界。魔物もおいそれと立ち入らん。』
説明しながら、もも肉の上端の部分にギザギザと天境山脈を書き込むドリさん。さらに山脈の東端の所に丸を描く。
『ワシらが棲むこの森はこの辺りじゃな。』
『なるほど、ド辺境ってことだな。』
『まあ、そうじゃな。その分だけ平和ともいえる。背後の大雪原は人を寄せ付けぬ厳しい土地だし、ここ自体もそれほど価値がないからの。』
それからドリさんは東側と南側の海上にいくつか島らしきものを書き込んだ。
『東にあるのが、列島国家・ホムラ皇国。独自の文化があるらしいが儂もよくは知らぬ。南にあるのは南方諸島連合。商業的な都市国家の集まりじゃが、船を使った海運で荒稼ぎしとる。』
ふーむ、ホムラか。位置と言い、形と言い、日本を連想させるな。
ドリさんは俺が話について来ていることを確認しながら先を続ける。
次はもも肉の骨の部分を大きく囲んだ。
『南西にある大森林。ここは王国の勢力の及ばぬ土地じゃ。エルフや獣人の小国家が群立しておると聞く。グレイス王国内では亜人の扱いは悪いからの、こうした辺境に逃げこむんじゃ。』
獣人にエルフ!!すごく気になる単語が出てきた。今度の授業で絶対に詳しく聞こう。
『残る西側は疎岩山脈を境にエメリアに接しておる。エメリアは小国家群がグレイスに対抗するために行った同盟から始まった連邦国家じゃ。疎岩山脈の方は天境山脈程険しくないから、行き来も可能じゃな。』
骨の部分から天境山脈の西端までギザギザと線を引いていくドリさん。確かに天境山脈と比べてとがり方がマイルドである。
エメリア自体はそれほど大きくなく、大森林と同じくらいの面積で西の海に面しているらしい。
最後に、と言いながらドリさんはグレイス、大雪原、エメリアによって囲まれた三角地帯に丸を付けた。
『ここがドワーフの国・ドワーフヘイムじゃ。奴らは腕のいい鉱山夫であり、鍛冶師であり、細工師じゃ。すぐれた呪具や武具をエメリアやグレイスに卸しておるな。グレイスと険悪になればエメリアに良い武具を流す、エメリアが過度の要求をすればグレイスに良い武具を流すという風になかなか強かにふるまっておるよ。
まあ、王国周辺の地理については、こんなところじゃろうな。』
どうやら、今日の授業はここまでらしい。後でしっかり復習しておこう。
【みてみんメンテナンス中のため画像は表示されません】
※ドリさんが地面に描いたもの、と言うことで。海岸線、縮尺等は適当です。