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第80話:やればできるゾンビ

 更なる事件が起こったのは、生首ゾンビが最初に喋った日からさらに5日後の事だった。

『ロク、なニ、かんがエてる』


 例によって、自分作った洞窟の中に隠れて瞑想を行っていた時、生首ゾンビがそう言った。

 この数日で下手くそながらも瞑想を習得し、その成果か、少し言葉が達者になっている。


 上手いアイディアが浮かばずに、行き詰っていた俺は気分転換の意味も込めて話に乗ってやる気になった。

『いや、これからどうしたものかと考えていたんだが、どうにも決め手に欠けてしまってな。』


『キきたイ。』

 話してみろってか。

 まあ、人に話すことで俺の頭も整理されるだろうし、いいかもしれない。

 と、思った俺は生首ゾンビに対して説明を開始する。


 俺たち、つまり、俺と生首ゾンビはスサノのやや南西の地点を出発点として、町や村を迂回しながら北上してきた。

 時々、街道の人々に敢えて目撃されたり、山賊の真似事をしたりしながらだ。


 生首ゾンビをミラの影武者に仕立てて、聖樹の森やイスタ村に向かっているかのように装ったわけだ。

 これまでは大きな問題もなくやってこれたのだが、目的地近くまで迫った今、状況がやや行き詰りつつあった。


 まずはイスタ村の状態だ。遠くから窺っただけだが、それでも警戒がかなり厳重だったのは間違いない。

 俺たちの目撃情報が既に届いたのか。それとも、もともとの予定だったのか。人数はそれほどでもないが、騎士や兵士がひっきりなしにうろついていた。

 可能であればハンク辺りとコンタクトを取りたかったのだが、その様子から断念せざるをえなかった。


 さらに今日、聖樹の森のある山の近くまで来たのだが、その麓にも捜索隊と思しき騎士たちがベースキャンプを構えて滞在中ときた。

 おそらく、第一目標は聖樹の葉や枝ではないかと思うが、それでも山を登る怪しい岩石精(ゴーレム)を見逃してくれるほどの間抜けではないだろう。


 正直、俺は途方に暮れていた。


 生首ゾンビは一応聞いているようだった。しかし、あんまり理解している感じではない。

『?…?。ロク、は、ドウしたイ。』


 俺の希望か。俺としては、

『出来れば、村にいる友人(ハンク)や森の仲間の樹木精(ドリさん)と話をしたい。ハンクなら人間側の情報を教えてくれるだろうし、ドリさんならこれからどうするべきか、良いアイディアを出してくれるだろう』


 話しているうちに自然と頭の中が整理されてきた気がする。

 俺は生首ゾンビの返答を待たずに、独り言のように言葉を続ける。


『でも、村の方は不可能だな。

 村は騎士たちの拠点になってる。どこもかしこも騎士と兵士で一杯だ。無事に入って、また出て来るなんて出来ないだろうし、ハンクが俺とあっている所を見られたりしたらアイツにも迷惑をかけちまう。

 やっぱり、少しでも望みがあるのは聖樹(ドリさん)の方か。』


 分かってるんだか、いないんだか。俺と同じくらい表情が分かりにくい生首ゾンビはしばらくウ~ウ~と唸っていたが、そのうち自分なりに理解したのか再び口を開いた。

『ロク、ヒトニ、みツかりタくナイ?』


 おお、だいぶ省略されているが、間違ってはいない。

『ああ、まあそうだな。見つからずに山を登っていければいいんだが。』


 俺がそう言うと、生首ゾンビは沈黙した。なにか考えているようにも見えたので、俺も自分でさらに考えを進める。

『イスタ村とちがって、聖樹(ドリさん)の方はまだ望みがある。騎士たちがまだ聖樹を見つけていなければ、目的地(ゴール)自体は空白で安全だ。上手く山中の捜査網をかいくぐれれば、話をするくらいはできるかもしれない。』


 しかし、問題はある。一番には俺のデカい図体で騎士たちの捜査線をかいくぐる方法が、まったく思いつかないことだ。

 「こっそり」、「静かに」

 どちらも、今の俺からは程遠い言葉だ。


 再び考え込んでしまった俺。そこに生首ゾンビが言う。

『ロク、おオきく、ナッた。チぃさく、なレないカ?』

『え?』

 小さく、なる。


 何を馬鹿な。と言いかけて、俺は思わず一旦停止。

小さくなれない?本当にか?背中に生首ゾンビ用の座席(ドリンクホルダー風)まで作ったりしてるのに?


『え、まじで。あれ、出来ちゃうんじゃね?』

 まじで?

 でも、出来そうな気がする。っていうか、なんで思いつかなかったんだよ。

 もしかして、俺の頭はゾンビ以下なのか?


 湧き上がる疑惑にいささかショックを受けた俺だったが、とりあえず、やってみることにした。


 無理くり体を大きくしたり、背中に座席を作った時に分かったことだが、自分の体を作り変えるときは何より集中力とイメージが大事なのだ。

 俺は目を閉じて集中する。


 イメージ。

 今、全身をめぐっている魔力。それが体の中心、核に集まっていく。それに伴い、魔力の枯渇した末端の部分が枯葉のように体から離れ、只の石くれへと戻る。

 余分なものが省かれ純粋さを増した身体から、新たな四肢が生じていく。


 集中が、ガラガラという音とともに破られた。

 ハッと目を見開くと、目の前、先ほどよりもだいぶ近い位置に生首ゾンビの顔(仮面付き)があった。

 周りにはさっきまで俺の体だった瓦礫が転がっている。


『おお、上手くいった…。』

 思わず、つぶやきが漏れた。


 しかし、サイズが小さすぎて戦闘力という点では不安があるな。

 魔力は残っているから、魔法は普通に使えることが救いと言えば救いだが。


『ロク、ちイさくナッた。』

『お前のアドバイスのおかげだよ。ありがとな。』

 礼を言うと、生首ゾンビがフスフスと空気漏れのような音をたてた。

 ひょっとしたら笑っていたのかも知れない。


 今の俺のサイズはちょうど大人の男と同じくらい。これならこっそり山を登ることもできるだろう。

 しかし、そうなると生首ゾンビの扱いをどうするべきか。


1)なんとか全身を抱えていく。

2)首だけ持っていく。

3)置いていく。ここでお別れだ。


 体力的には1も不可能ではないが、かさばるし、目立つだろう。と、なると2か3。

 2は体の方がもったいないが、また作ればいい。

 王国の追手もある程度引きつけられたはずだから、生首ゾンビが望むなら3もありだ。

 もともと、無理やり影武者をやらせていたようなものだし。


『おい、俺は山に行くけど、お前はどうする。』

『ドう?』

『全身は持っていけないから、首だけで俺と来るか。それとも、ここで別れるか。どっちがいい?』


 尋ねてみる。また、しばらく考えこむかと思ったが、返答は意外と早かった。

『いっシょ、いク。』


 そう言われて少しホッとする。数日間だが、苦楽(?)をともにした間柄だ。なんだかんだ愛着みたいなものが沸いている

『じゃあ、首をはずすか。』

『ヤめテ!!』


 生首ゾンビの首をパージしようと近づくと、予想外の反応が返ってきた。驚いて、足が止まる。


『じブン、デ、あルく。』

『え?』

 言葉の意味が理解できず、呆気にとられる俺の前で生首ゾンビが立ち上がる。

 肘やひざの関節部分がバキバキと音とともにヒビが入っているが、不思議とちぎれたりはしない。

 やや動きがぎこちないが、確かに生首ゾンビは動いていた。


『でぇええええええ?!お前、まじで歩けんのかよ。』

『マかせテ』

 仮面に覆われて表情まではうかがえないが、心なしか自慢げに生首ゾンビはそう言った。

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