strawberry candy
2-2
朱里はうかれていた。
昨日の放課後は珍しく全員そろったから、お祭りにいく約束をしたのだ。
「なんだか朱里ちゃん楽しそうね。もうすぐ夏休みだから?」
聞いてきたのは楓。今ここに集まっているのは、朱里と楓、心太の3人だけ。ちなみに心太は寝ている。昨日は起きてたから今日は寝ているのか、さすが心太。
「夏休みっていっても前半は補習だらけじゃん、違うよーほら、お祭り!」
「あぁお祭り。私りんご飴食べたい」
「朱里はいちご飴派だ」
「私も実はりんご飴よりぶどう飴が好き。 あ、朱里ちゃんこれ食べる?」
どうでもいい話をしつつ、楓の差し出した飴を受けとる。いちご味だった。
「確かにいちご飴だ」
「でしょ?ほら、私はぶどう飴」
「でも違ーう」
「あっちの飴はお祭りの時にね」
お祭り。朱里は楓の顔を見た。楓は、なーに?と首をかしげる。
楓子。
8割方にこにこしている。ハルの幼馴染みで、お祭りが嫌いらしい。怒らないし、なんというか、女子!って感じの雰囲気をしてて。
なぜだか、とてもミステリアスに感じる。
「楓ってさぁ…」
「なに?」
「童顔だよね」
笑顔で距離を詰めてくる楓は、とても怖かった。
「楓は怒ると手が出るんだ…覚えとこーっ…」
「ごめん、つい」
でも表情も声のトーンも変わらないのが更に怖かった。怒らないし、は撤回しよう。
「童顔って言われるの嫌なんだ?」
「嫌だよ、泥沼を泳げって言われるくらいには嫌だよ」
「すごく嫌じゃん」
「わかってもらえた?」
「めっちゃ嫌だってわかった」
わかってもらえたならよかった、とうなずく楓。その後ろのドアが開いて、悠希と莉音が入ってきた。
「あ、今日も結構居るね、あとハルだけ?」
「僕は覗いただけですぐ部活行くけど。ハルは来るのか?」
悠希にきかれるけど、朱里は首を捻った。
「うーん、わかんない。気が付いたら居なかったから1人できた」
「心太起きなかったら3人…やっぱり、あんまり揃わないか」
ハルはなんとなく来る気がするけど、それまでは女子3人になる(寝ている心太はカウントしない)。
なかなか珍しいかもしれない。
「じゃ、僕部活行く」
「本当覗いただけだね、いってらっしゃい」
「あ、これあげるよ悠くん、りんご飴」
「これはりんご飴じゃない、りんご味の飴だ」
悠希の言いたいことはよくわかる。それはりんごの飴であって、りんご飴じゃない。
「莉音ちゃんはなに飴が好き?」
「ん~桃かメロンかな」
「そんなん屋台にないだろ」
「そういう飴の話じゃないでしょー!?」
楓は莉音に、桃味の飴を渡して、寝ている心太の前にオレンジの飴を置く。
「じゃ、また」
「部活がんばってー」
「ん」
そういって悠希が部活に向かい、女子3人になったところで、もちろんする話は決まってくる。
「莉音さ、悠希のどこが好きなの?」
「な、ななな、なんなの唐突に!」
「莉音ちゃん動揺しすぎだよー」
一昨日抱いた疑問を質問してみる。莉音は面白いほどに狼狽えていた。さすが莉音。
「朱里はぶっちゃけハルの顔がとても好み」
「ぶっちゃけたね」
「莉音と楓は?」
莉音は悠希のことが好きだということは知ってるけど、楓の好きな人は知らない。楓をじーっと見つめると、莉音もそれに気がついたらしい。
「そうだよ、楓の好きな人ってだれ?」
「ん?悠くんでも晴樹でもないから安心して」
にこにこして言う楓。確かに安心はする。だって、ハルと楓は幼馴染みだからか、距離近いし。2人とも大体の人をちゃん付けくん付けで呼ぶのに、お互いは呼び捨てだし。
「でも、悠希は楓が好きだと思う」
真剣な顔で莉音が言った。
うーん、それは朱里も、1年生のときからなんとなく思っていたせいで、フォローできない。
「で、楓好きな人はだれなの?」
「ハルも悠希も違うなら楓のクラスの人?…いや、心太?」
自分でそういって、なんとなくしっくりきた。それが1番いい気がする。朱里はハルが好き、莉音は悠希が好き、楓は心太が好き…ってなると!
「完璧じゃん!」
「何が完璧なのー?!違うよ違うよ!空くんじゃないよー!」
予想外なことに、楓が焦っている。これはビンゴかもしれない。…よね?
「楓、顔赤いよ」
「ええっ」
莉音の言葉で、楓は顔を手で覆って机に突っ伏した。 莉音は納得したかのようにうなずいていた。さっきまで自分も顔を真っ赤にしていたのに、今はにやりとしている。
「そっかぁ心太かー おーい心太ー」
「違う!なんで!なんでいま起こそうとするの!」
心太はちょっとだけ身動ぎをするも、やっぱり起きなかった。
「私のことはいいから、莉音ちゃんちょっと告白してきなよー…」
「はっ、なに急に!?しないけど!」
「なら朱里ちゃん」
「やっぱりタイミングはお祭りだと思うんだよね~」
朱里が言うと、2人とも固まった。びっくりしたかな、朱里は近々ハルに言うつもりではあった。
確かに、今のこの関係は好き。でも、今のままじゃ、 ハルが悲しい顔をする理由を突き止められない気がするから。
「お祭りと言わず、今でもいいと思うよ」
楓はにっこりと笑って言う。
「お祭りの日が絶対来るとは限らないもん」
いつも通りのトーン言って、いつも通りにっこりと笑っている。その笑顔に違和感を覚えるのは、朱里だけ?
どこか影があるように思えてしまう。それは朱里が、ハルと楓の過去に何かあると感じているからだろうか。
「そうだね、ハルは朱里が好きだし。お祭りより前でもいいんじゃない?」
「え、なにそれどこ情報!?」
急激にテンションが上がる。これで勘だとか言われたら、朱里は莉音に頭突きすると決めた。
「それは言えないけど。ね、楓」
「うん、間違いないね。まぁ朱里ちゃんが言わなくても晴樹が言うでしょ」
「それ信憑性ある?!うわーにやけるー」
「朱里のそういうとこ好きだわ、純粋に喜ぶとこ」
莉音はあきれたような顔で、楓はほほえましそうにあたしをみる。
にやける頬を押さえて、楓にもらった飴を口に入れて伸びをする。ハルはいまどこでなにをしてるのかな。そう考えていると、あまずっぱいいちご味が広がった。
もう少ししたら、伝えよう。ハルが好きだよって。