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逢魔ヶ時のオレンジ  作者: 木葉
岬朱里
6/26

わいわいキアッケレ

2-1


お祭りとは、大人数でわいわいするためのものだと朱里は思っている。

そんな朱里の今一番の願望は、高校2年生の夏に仲良しな6人でお祭りにいきたいということ。


「今年はみんな来れるかなあー」

「ん、なんのはなし?」


机にぐったりする朱里に話しかけてくる声。穏やかなそれは、クラスメイトのハルのものだった。


「お祭りの話。去年朱里をあの中に残して帰ったハルを、朱里は絶対許さない!」

「ごめんごめん、今年は用事とかないから、ちゃんと最後まで居られるよ」

「本当に、莉音と悠希と朱里だと、朱里の邪魔者感が凄かったんだよ…」

「想像できるよ、本当ごめんね…」


あのときは帰ろうかと思ったもん、と考えながらも、帰る準備をする。

朱里とハルを含めた6人は放課後になると、ある空き教室に集まる。

きつそうなお人好し、クール系甘党、笑顔なミステリアス、5割で寝てる天然。これは全て、朱里の脳内でのみ呼ばれているあだ名。ちなみにハルは、でかいイケメン。


「今日は何人集まれるかなー」

「俺はちょっと遅れていくね」

「ん。ハルはまた呼び出しか何かですかぁ~?」


肘で脇腹をちょんちょんすると、ハルは苦笑いでまあね、と言う。やっぱり呼び出しだったらしい。イケメンは辛いね、わかるわかる。いや、わかんないけど。


「ちゃんと断りにいくの。俺律儀だから」

「イケメンは辛いね」

「本当にねー」

「そこは否定するところだったよ」


そっか、断るんだ。

なんとなく安心する。朱里は、今この関係が好きだけど、ハルが女の子に囲まれているのを見ているのは好きじゃない。だからあたしは、ハルに彼女が出来ませんようにと祈るばかりなのだ。


**


またあとで、とハルと別れて、いつもの教室へ。

そこ居たのはクール系甘党と5割で寝てる天然。名前で言うと悠希と心太(ところてんではない、しんただ)。


「やほー! 昨日ぶりだねえ」

「うるさい、こいつ寝てるからちょっと黙れ」

「あれ、心太寝てる」


さすが、5割で寝てる天然。あだ名の意味がわかってもらえたはずだ。


「ねーねー悠希、今年はみんなでお祭り行きたい」

「あー…無理じゃね」

「何で!?」


困ったように目を反らす悠希。

まさか先約があるとか?え、すでに?早くない?相手は?相手は莉音?うーん、莉音なら許す!


「楓が」

「楓!?莉音じゃなくて?」

「お祭り嫌いなんだって…ん、莉音がなんだ」

「お祭り嫌い?…あぁ、なんでもないない」


先約云々の話ではなかったらしい。それにしても、お祭りが嫌い?と言うことは、去年来なかったのも嫌いだからなのかもしれない。ってことは、6人でお祭りは絶望的。


「悠希説得してよー」

「説得って言ってもお前、何を言えと」


悠希はもぐもぐとビスケットのようなものを食べている。常に甘いものを食べているから心配になるけど、こんなに甘党全開なのはこの教室でだけらしい。


「お祭りの楽しさを語るとか」

「ふむ、具体的には?」

「お祭りってすごいんだよ!りんご飴とかかき氷とか、スムージーとか冷やしパインとかチョコバナナとかさあ!」

「食べ物ばっかじゃねえか」

「悠希に言われたくない!悠希の甘党加減に合わせたんだから」

「合わせなくていい」


頭にチョップを落とされる。女子に手をあげるなんてこれだから悠希は。

莉音は悠希のどの辺りが好きなのか、朱里にはわからない。まぁ、気を使わずに話せるから楽ではあるけど。


「第一、嫌いって言ってる奴に対して、食べ物の魅力語っても意味がない。なにか嫌いなものでもあるんだろ、なにか」

「嫌いなもの…うーん、現社?」

「祭りの話だろうが」


再びチョップが落ちてくる、痛い。仕返しに、悠希の持っていたビスケットを食べてやる。


「女の子にチョップはどうかと思うよー」


聞きなれた声がして、ハルが教室に入ってきた。


「だよねー悠希信じらんないわー」

「信じらんないわー」

「2人してなんなんだお前らは」


やれやれ、とため息をつく悠希につられて、朱里もため息をもらす。


「うーん、朱里の夢が潰えてしまう…」

「大袈裟だろ」

「なになに、どうしたの朱里ちゃん」


ハルが項垂れる朱里を見て言う。ハルが…あっ、


「そうだよ、ハルは楓と幼馴染みじゃん!」

「ん?うん。そうだね」

「ハルに聞けばわかるかもじゃん!」

「なに、聞きたいことあるの?」


なーに?と微笑むハルは相変わらずイケメンだった。いや、今はそんなことはどうでもいい。


「楓って、なんでお祭り嫌いなの?」


そう質問すると、一瞬ハルは焦った。すぐにもとの表情に戻ったけれど、きっとなにかを隠している。

隣にいる悠希は、それに気がついてない様子。


「多分、人混みが苦手なんじゃなかったかな?」


嘘だ、とわかったけど、そこを突っ込んで聞くほど朱里はバカじゃない。

言いたくないことは言わなくていい。

ハルは少し悲しそうな顔をした。なにかを抱えているんだって、わかってる。

1年生のときのハルは、今みたいに優しくなければ、人と話すことさえしなかった。

今は元の性格に戻っている、と言っていたけど、時々ハルは今みたいに悲しそうな顔をする。

でも、ハルの抱えてるものがなんなのかは、やっぱりわからない。


「んーわかんないなぁー」

「朱里にはわかんないだろうな、人混みとか得意そうだし」

「そうだよ、苦手じゃないよおー」

「大丈夫。今年は楓子も、お祭り行くよ」


朱里と悠希は、驚いてハルの方を見る。


「本人が言ってたのか?」

「ううん、もし来なかったら引きずってでも連れていくから」

「いや、そこまでしなくても!」

「いーや俺はするね。だから心配しなくても大丈夫」


ハルは朱里の頭に手を置いて、くしゃくしゃした。

ハルの表情に、嘘をついている感じはしなかった。

唐突に、携帯が鳴る。それは悠希のだったらしい。

ちょっとごめん、といいつつ教室から出ていった。


「朱里ちゃん」

「なにー?」

「なにか考えてた?」

「うーん、色々。なんで?」

「怖い顔してた」

「え、うそお!」

「嘘だよ」

「えっ、なんなのハル~」


ハルは楽しそうににこにこしている。楽しそうなのはいいことだ、いいことだけどさ~…。


「朱里ちゃん」

「なにー?」

「さっきの、人混みが苦手っていうのは嘘だよ」

「うん」


それはわかってた。だからうなずく。


「ちょっとあんまりよくない思い出があるかな。それだけだよ」


ハルはなんでもないことのように言った。

その、『よくない思い出』が、楓子だけのものでないって、わかってたけど。

そこに踏み込んでいいのかどうかは、朱里にはわからなかった。


「そっか」


自分から出たのが、思ったより冷たい声で驚く。伺うようにハルを見ると、もっと驚いた。

ハルが、何故かすごく幸せそうな顔をしていたから。

まったくもって意味がわからない。

『よくない思い出』には、ハルも関わる悲しい思い出があるとばかり思っていたのに。


「いい?朱里ちゃん」

「う、うん!」

「過去は過去なんだ」

「ふ、ふむむ…?」


ハルは笑顔だ。

いつもの調子で冗談交じりに話してくる。

やっぱり意味がわからない。


「だから、俺はすごくお祭りが楽しみなの。わかる?」


わからない。

ハルの言いたいことはまったくわからない。

でも、ハルがお祭りを楽しみだと言ってくれて、とても嬉しかった。

朱里はハルに向かってうなずいておいた。

今はまだ、このくらいにしておこう。

いつかその『よくない思い出』を話してくれる時が来ればいいな、そう思いながら、悠希が置いたままにしているビスケットをかじった。


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