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逢魔ヶ時のオレンジ  作者: 木葉
空木心太郎
3/26

好きな人のはなし

1-2


今日も僕は、その扉を開く。教室には、悠希とハルがいた。


「珍しい、2人とも相方は?」

「相方ってお前なー…。莉音は先生に雑用頼まれてた、あいつ委員長だし。今日は来れないかもって言ってた」

「まぁ同じクラスだし相方と言われても不思議じゃないよね。朱里ちゃんは珍しく部活に出たよ」


なるほど、莉音と朱里は来ないらしい。そういえば、


「そういえば楓は?」


と、僕の思ったことを言う悠希。


「帰ったよ、なんか家の用事らしい」

「ならこの3人だけか。珍しいな」

「確かにそうかも。むしろはじめてじゃない?」


男子3人ね、とハルは呟く。


「なら、男子会しよっか。実は俺好きな人がいてー」

「なにが男子会だ」

「男子だけだから男子会だよ」

「なるほど」

「おい心太納得すんな」


悠希はあきれた顔をしているが、ハルは楽しそうだ。


「でもそろそろはっきりさせてもいいと思うんだよね、俺は」


突然、声のトーンを落としたハルに、俺も悠希も思わず黙った。


「…何を?」

「よく聞いててね2人とも…」


俺らは真剣にハルを見る。ハルも真剣に俺らを見る。

そして、ゆっくりと口を開いて言った。


「俺は、朱里ちゃんが好きだ!」

「知らねぇよ!」


悠希の突っ込みはもっともだった。


「重要なこと言うのかと思っただろ!俺の心配返せ」

「重要なことでしょー?痛い痛い髪はやめて悠希!禿げちゃう!」

「重要なこと…かも」


今でこそ6人で気まぐれに集まっているけれど、誰かに彼氏彼女ができたなら、6人で集まることはなくなるかもしれない。

もし6人の中でカップルが出来たとしても、それはそれで気まずくなるかもしれない。そう考えると、こういう話はわりと重要なことのように思えた。


「お、心くんはわかってくれた?」

「わかった。で、悠希の好きな人は?」


莉音の気持ちを知っているだけに、そこは気になる。

悠希は「直球かよ!」と驚きつつも、あー、うーん、などと考え込んでいる。


「別に俺までいう必要ないだろ」

「だめだめ気になるし」

「そ、そういう心太はどうなんだよ」


悠希に睨まれ、考えてみる。そうか、好きな人、好きな人…うーん。


「聞くまでもないでしょ心くんは。悠希も予想できるけど」


と言ったのはハル。

当然驚く僕たち。聞くまでもない?


「大丈夫大丈夫、言うつもりないから!」

「え。僕聞きたい、僕の好きな人って誰?」


そう言うと、ハルはとても驚いた顔をした。


「え、楓子じゃないの?」

「はあぁぁ?!」

「ええええ?!」


僕と悠希の声が重なった。


「なんで悠希まで驚くのー?」

「うるせ!」


にやにやするハルを蹴り飛ばす悠希。僕はそれどころではなかった。僕が、秋月を?なんで?


「ちょっとなに叫んでんのー!?」


突然聞こえてきた声に、僕は考えるのをやめて顔をあげる。莉音がいた。どうやら用事が早く終わったらしい。


「雑用から思ったより早く解放されたから来てみたんだけど…随分と盛り上がってるね。何のはなししてた?」

「なんでもない!」


悠希やハルがなにかいう前にと、僕は声を張り上げてそう言った。悠希の好きな人を、莉音の前で判明させるわけにはいかない。


「ちょっと女の子には内緒な話」


とハル。莉音は眉を潜めて、なにそれ、と言いつつ適当な席に座る。物事をぐだぐだ引っ張らないのは、莉音の長所だと思う。


「あとの2人は?」

「部活と家の用事」

「全員揃うほうが珍しくなってきたよね、最近は。誰かに彼女や彼氏ができたらもっと集まらなくなるのかなー」


肘をつきながらそういう莉音に、僕らは驚く。


「莉音ちゃんもしかして、さっきの話聞いてた?」


ハルの問いに莉音は、きょとんとして首を振る。


「そういう話してた?」

「してたな」

「やっぱり気になるよねー。ハルは朱里に告白しないの?」


さらりと言う莉音に、ハルはうろたえることもなく


「したいとは思ってるんだけどねー莉音ちゃんは?」


と言ってのける。莉音は勿論うろたえて言う。


「あ、あたし!?別に!?」


顔も真っ赤だ。さすがに助け船を出すべきか悩んでいると、下校時刻を告げる放送が流れた。


「帰ろっ」


逃げるように教室を出る莉音。同じ方向の悠希もその後を追った。


「また明日ね!」

「またな」


**


残った僕とハルは、ゆっくりと階段を降りていく。

先を歩いていたハルが突然僕の方に振り返った。


「悠希の好きな人、教えてあげよっか。」


にやりとするハルに、こくこくとうなずく。


「知りたがるのは、莉音ちゃんの差し金かな?」

「えっ」


差し金と言うわけではないけれど、莉音が関係しているのに違いはない。僕の動揺をハルが見逃さないわけもなく、納得したように肩を叩いてきた。


「楓子」


その言葉を聞いて、僕はすぐに理解できなかった。しばらくしてあぁ悠希の好きな人の話か、と理解して、なんとも言えない複雑な気分になる。莉音でなかったからだろうか。


「そっか、秋月…」


だからハルは悠希の前で、僕の好きな人が秋月だとか言ったのだろう。悠希のあのリアクションもうなずける。


「心くんは?」

「ん?」

「やっぱり楓子?」


なんでそんな、と笑いながら否定しようとした。ハルの声は軽かったけれど、表情は少し真面目だった。

秋月楓子。きっと僕はまだ、本当の彼女を知らない…そんな気がした。


「うーん、どうなのかな。わかんない」


僕はそう曖昧な返事をした。けれどハルは、なぜか満足そうに笑っていた。


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