【野次馬の正しいマナー】04
現状の問題として、ウェンディをどうするかだ。何時もは苦手な友達には気配を消してフェードアウトで、波風立てずに去って行ったんだけど、今回だけは無理そう。というか無理だ。もう考えただけで
「お腹痛い。」
「ルーナがお腹痛いって?!」
そう驚いた声を上げたのは、ユーリアスだ。因みに今は休み時間でクラスメイトの男子が壁がわりに横に並んで廊下から隠してくれている。横には、男子と話したい女子を確保済みですよ。利害一致!てか酷く無いか?私だって精神的に腹だって痛くなるわ!!
「そんなに大変なの?なんだっけ、その子」
「ウェンディよ。ルーシー。何ていうか、小動物がキャンキャン吠えてる感じ?」
凄い的確な例えを言ってきたクラスメイトのアリスに周りも確かにとうなづいた。
「ふーん。ルーナだったら冷たい一言浴びせて、無視して終わりそうなのに、何で逃げ回ってるの?」
ルーシーが不思議そうに言ってきたけど、ちゃっかり目の前にいるクラウス君に次の授業の予習見てもらってるし!!私もちょっと範囲教えてほしいけど怖くて顔を出せない、何故ならさっきガエレアが私の事を探していたから!!!
「その子のせいで乱暴者のガエレアに目つけられちゃったんだよね。ルーナは」
アリスが私の頭を優しく撫でてくれる。タレ目オットリした顔で可愛いわー!優しいわー!!
「アリス〜!!」
「それだけなら、ルーナ一人で切り抜けられんじゃないの?」
とは別の男子壁となってるチャーミー、名前は可愛いがガタイは可愛くない。クラスで1番背が高くてゴツイ男子だ。
「どんだけハイスペックに見られてるの?!流石に力では勝てないし、危険人物には近づきたく無いし!
それよりも、ウェンディだよ!お兄様の耳にまで入っててちゃんと縁を切ってこいって言われた。」
半泣きでアリスに引っ付けば、ユーリアスがうわぁっと声を上げた。
「それはヤバイね。」
「ヤバイのか?」
クラウスが不思議そうに聞けば、ユーリアスがうなづいていった。
「ルーナのお兄さんって当主だろ?学園内の事は基本口出ししないのが貴族社会のルールだけど、当主から縁を切れって言われるって事は・・・大人達の方で何かが起こってるって事だよ。」
言葉を濁して言ったが、ちゃんと伝わったらしく、クラウスは両腕をさすった。周りでお喋りしてた子達もいつの間にか聞き耳たてるのに夢中で無言になってるし。凄い注目度!!哀れみの目線が痛い!!
「うん。ルーナ早いとこ片付けた方が良いよ。」
クラウス君がめっちゃ本気な顔で言ってきた。分かって頂けたのは嬉しいけど、ますます胃が痛くなってるのは何でだろう?
「どうやって?何いっても効かないだよ?!」
思わず立ち上がって大仰に言って見たけど事態は変わらない。
「んー効かないだったら外堀から埋めなよ。とりあえず、他クラスの子達がいる前で友達じゃ無い宣言したら?」
それって今より注目されるって事?!
「ひ、人の注目浴びるの嫌い」
思わずしゃがみこんで丸くなれば、ルーシーがのっかってきた。酷い!
「いつも面倒事逃げ回ってたつけよ。」
「違う!全力で回避してただけ!!」
ていやーっと振り払えば、呆れた顔でルーシーが言った。
「あんた貴族なんだから高飛車にいってきなよ」
「貴族だからって皆高飛車になれるわけじゃ無いんだよ!むしろ打たれ弱いわ!」
立ち上がって力説すれば周りが半笑いで返してきて、次の授業の準備を始めた。
「「はいはい」」
「めっちゃ適当にあしわられたし!なんでそこハモる!」
「取り敢えず昼に一回ぶつかってけば?」
軽くいったのはアリスだ。人ごとだと思って!でもそれしか今の所早期解決の糸口が見つからない。
「う・・・最終手段で」
「今日中に動いといた方が良いわよ」
そう言ったタイミングで教師が入ってきた。皆席にバラバラ戻りつつルーナは頭を抱えた。
ただ、友達じゃない宣言してもウェンディの性格を考えると一時的な効果しか出ないと思うのだ。完全に切るには、ウェンディが友達だと思う身代わりを立てなくてはならない。だいたい自分の何が気に入ったのか謎だ。
ノートの端に人物関係図を書き始めた、こう言う時は俯瞰して見ないと。ウェンディを中心に、好き嫌いを書いていく、そして気づいたのは、貴族よりは劣るが、騎士も身分が高いのに、こいつの名前は使っていないということに。
それに本気になれば、婚約者に出来るのに手を出さないこいつ。
「匂うな」
*
何も妙案が思いつかず、昼食になる一個前の授業が始まってしまった。だが運はルーナを見捨てなかった。
今回は舞踏会の練習のため合同授業なのだ、練習に慣れた同じクラスメイトではなく、他クラスの子を相手に選ばなくてはいけないというルール付きの。そして相手のクラスにはレイバンがいた。
「ねぇ、貴方に話があるんだけど。私の練習相手になって」
「・・・。普段だったら断るけど。」
「ウェンディの事よ。」
「それなら」
笑顔で返してきたレイバンにルーナは思わず一歩引いた。いや、何て言うか寒気というか悪寒というか、自分だってこんな事態にならなければ話なんてしたく無いのだよっと心の中で呟きつつ、一応お礼をいった。
「で、話って?」
優雅にダンスへ誘うお辞儀しながら言うレイバンに、ルーナも綺麗にお辞儀しながら手を出した。
触れるか触れないかの距離で唇は止まり離れていく。サブイボが立っているのは相手にもばれてるだろうけど、しょうがない!
「僕のことが苦手なのに近づいてくるなんて」
「知ってるでしょ?勝手にウェンディが私の名前を使って暴れてるそうじゃない。迷惑なのよ」
そう言いながら、レイバンの肩に手を置いた。モチロン軽くだ!レイバンも私の腰にほんの少し触れるくらいにしか触らない、お互い密着しない様に拳2個分開けてる。
「へー」
「はっきり言うと2度と友達なんて呼ばれたくないわ」
進む方向へ顔を向けながら横目で睨む様に言えば、彼は嬉しそうな、悪どい顔をしていた。
その瞬間、頭の中でバラバラだったピースが一気に繋がった。
あぁ、こいつタチが悪いわ!!!ヤンデレじゃん!ドエムロリコンかと思ったけどこいつヤンデレ!!
あえて放置して彼女が孤立するのを待ってたんじゃない?!
「僕も君の事は目障りだったんだ」
綺麗にターンをしながらルーナは冷や汗をかきながら思わず思ったことを口にしてしまった。
「えぇ、そうでしょうね」
「君は聡いよね。だから、何もしなかったんだ」
聡くなかったらされてたってことか。てか、キャラがヤバイな!ガチで!!思わず手が浮いちゃうよ!!
引きつった笑みを浮かべながら、耐えろ!耐えるんだルーナ!!と心の中で叫びながら話を続けた。
「私もう関わりたく無いの。だから手をかしてくれないかしら?貴方にとっては目障りな私と顔を合わせなくなる。どう?」
「とても良いね。だが、どうやって?腹が立つことに、君は友達認定されている」
「えぇ、そうね。でも、友達って何時迄も続くものではないわ、ちょっとした歪で簡単に裂けてしまうこともある。
例えば、今まで興味なかった貴方が私に興味を示したら、あの子はどうでるかしら?」
その言葉に一瞬不愉快そうに顔を歪めたが、しばし無言で考えてくれた。くるりんと回りつつ様子を見れば、悪どい笑みが浮かび上がった。
「怒り狂って君を罵倒するだろうね。だが、そうすると僕に利点がない。」
「あるわ"ウェンディの友達なんだから仲良くしたほうがいいだろ"って言えば良いのよ、私の予想だと嫉妬するし、貴方を再認識する。重要なのは貴方はウェンディ次第だと言うことを強調するの。」
「なるほど。いいね。僕はずっとウェンディの持ち物だったからね。」
あえてそのポジションを手に入れただろうにと口に出しそうになってやめた。
「必死になって取り返しに来ると思うわ、といってもあくまで想像だけど。」
ぶっちゃけ卓上の論理だから、実際に相手がどう動くかなんて駒を動かさないとわからない。
「貴方はウェンディを手に入れる。私は不名誉な噂とウェンディとの関係を消したい。」
「なるほどね。ただ、俺としては一回こっきりだ。それでも良ければ」
「良いわ」
「契約成立、手を組もう。」
そういうのと同じタイミングで曲が終わった二人でお辞儀をして握手する。
「感謝するわ、それじゃー善は急げ、この後一緒に昼食にでもいかが?」
*
結果は大成功だった。
食堂に入る前に出くわし、今迄私を無視していたレイバンが私と一緒に和やか(表面上だけ)にしてるだけで、向こうから食ってかかってきた。
ちょっと良心が痛むほど、レイバンの良い方向に行った。
私のセリフは「友達なんて一回も思ってないし、人の名前を勝手に使うなら法的に訴える。」だけだ。その後は取り巻きとウェンディが大騒ぎ、私はちょっと遠くを見ながら無視。
レイバンがさっき私が言ったようなことを言って、すったもんだの据え、目出度く婚約者になりましたーパチパチ!!
ぇ?詳細?友達にお昼ご飯の確保を魔法手紙送ったり、友達から耐えろメッセージもらったりとやりとりしてて最後の締めしか聞いてなかった。
とりあえず、ウェンディ本人から言わせて言質とった感じ?周りの証人も作って・・・。
そのあとの、周りの哀れみの目線が痛かったけど。これで、怖い人から絡まれないはず!!!
若干ウェンディの取り巻きがやばそうな雰囲気だったけど、レイバンが何とかするだろう。
疲れたわー。