【野次馬の正しいマナー】03
今日の夕飯は珍しく家族全員が集まって居た。
甥っ子姪っ子は、大好きな父親に会えて大興奮。矢継ぎ早に今日の出来事を全部話している。その様子を笑顔で見る家族は、正に理想的な家族だ。そんな事を思いながら、お肉を口に運ぶ。
子供達が話終えれば姉の番、よくそんなに自分の事話せるな〜と思いながら適度に相槌を打っていれば、最後の締めのデザート。
口の中がさっぱりするシャーベットは確か最近流行ってる聞いたな〜と思いつつ完食した。
お休みの挨拶を済ました甥っ子達は既に船を漕ぎ始めている。母と姉に抱っこされて子供部屋へ連れてかれた。
「ルーナ、一杯どうだい?」
ワインを掲げて義兄がウィンクする。流石イケメン絵になるわ〜と思いながら笑顔でうなづいた。
「是非に」
我が国は14歳から飲酒可能なのだが、姉も母も酒が全く飲めない。亡くなった父に似た私だけが飲むことが出来る。
その為よく義兄の晩酌に付き合うのだ。
「最近学校はどうだい?」
ワイングラスに注ぎながら問いかける姿は本当隙がないなーとか、報告って面倒〜とかいう思いを飲み込んで笑顔で答えた。
「つつがなく」
「変な学友に絡まれていると風の噂で聞いたが?」
被せるように言われ、心のなかでわぉっと言っておこう。まってまって義兄まで心配されるって結構ヤバイ案件?この人基本的に私に興味無いのよね〜、姉と家の事に関わる事案の時だけ声かけて来るし。って事は家か。なんて自己分析しつつ注がれたワインを揺らしながら苦笑した。
「まぁ、選択授業で絡まれるだけです。移動の時はなるべく鉢合わせしないように気をつけてます。」
「だが相手はそう思ってないらしい。特に親は」
「・・・」
一瞬固まってから思わず素の表情が出てしまった。げぇぇーーそう言うことか、まーそうだよね。周りの人間にも貴族の友達が居るって牽制するくらいなんだから、親にも言うわよね。しかも金貸屋なんだから調べれば分かるだろうし。
「学園内でも揉め事を起こしている様だし。中途半端な優しさは足を掬われるぞ」
「その様ですね。善処します。」
小さなため息と共に吐き出した。苦手なタイプなんだよね〜自分が悪いと思ってないのがまたね、自覚がない子ほど面倒だ、人の話を聞かないだもんなー。相当嫌な顔をしていたらしく苦笑されてしまった。
「苦手なタイプか」
「とても。勝手に話しかけて勝手に決めて行くタイプでしょうか?何より取り巻きが最悪です。どんな冷たい態度も効かないです。」
ワインを口に含めば渋味と甘みが絶妙な味わいだ。何も考えずお酒に酔いたいがそうも行かない。
「そんな状態の君に絡むなんて相当だね」
酷いなーと思いつつ、確かにと頷く自分がいる。
「・・・あの鈍感さには勝てません」
思わず本音が出たが、まぁいいや。事実だし、不愉快な目で見られているのに気づかないで、良いい物だけしか見えないあの性格は羨ましいわ。かなり冷たい態度で接してるのに親友って言うだもん。どうかしている。むしろ嫌がらせか?
「揉め事さえ起こさなければ良いよ。」
苦笑しながら義兄はワインを煽った。それが本音ですね。まぁ、野心溢れて姉を大切にしてくれる男を選んだのは私だけどさ。結構冷たい&腹黒いよねこの人、よく見つけられたなと思う、いや見つけさせて貰えたのかもしれないけど。
程よくついた筋肉に整った顔立ち、男女共に魅了した男を見ても綺麗だなって思うだけの自分はちょっとおかしい。
「私も当事者になるのは嫌なので全力で回避しますよ。日数とかありますか?」
問いかければ、2杯目を注ぐ義兄が苦笑しながら言った。
「最低でも、ロイヤル学園合同の舞踏会の時には完全に綺麗な状態が良いが。・・・そうだな、学園内に退学者が出る前には疎遠にしといた方が良いだろう。」
あら舞踏会の時期か〜懐かしいとか思いつつうなづいた。退学者ってあいつかしら?そうすると2週間かな〜、やっぱり私の行動はお見通しなのかーどうやって監視してるのか謎だけど。本当、義兄には筒抜けなのよね、報告なんて必要無いのよね全部知ってるんだもん、只の確認。
しかも綺麗な状態と言うのが難しいわ〜と思いつつ、注がれたワインを飲みほした。
「分かりました。アルバイン伯爵。」
現在の義兄の地位を言えば、艶やかな悪い笑顔を向けてきた。怖い怖い、でも味方であれば頼もしい義兄だ。綺麗に一礼すれば、さっさと部屋を退出したいが、ちょうど姉が扉を開けて入ってきてしまった。
「ルーナ!私の旦那様を独り占めとはどう言うこと?」
「学校内のとこで相談してたんです。」
肩を竦めて言えば、姉が眉間にシワを寄せた。綺麗な顔立ちの人がすると絵になるなーと思っていると、そそくさと義兄の横に座って、向かいに座る様に机を叩いた。
また、その場所に逆戻りかーと思いながらも素直に座る。
「ルーナ!嫌な人には嫌って言わないと駄目よ!!すぐ流されるんだから!貴方っていっつもそうよ!それが良いこともあるけど!ちゃんと自己主張して、ちゃんとしたお友達作りなさい!!」
わかってるけど、親しい友達を作るの苦手なのよね〜とは言えない。そして、相談ってやっぱりそっちだと思うのね。ちょっと落ち込むわ。
「はい、お姉ちゃん」
「貴方も来年は社交デビューの年になったのよ!何時迄もお遊び気分で友達と付き合っては駄目よ?未来を考えて、ちゃんと自覚を持って友達とお付き合いしなさい!」
「はーい」
そんな事言われても、いろいろ野次馬してきてしまったせいで、誰と付き合えば良いか分からなくなってきている。安全なお友達は無害だし、権力は弱いからきっと姉が言う友達の枠には入らないと思うし。
「ルーナ!お姉ちゃんは心配していっているんですよ!」
生返事で返したのがバレたのか、頰を膨らまして怒ってしまった。いや、それ義兄の前でしたら危ないよ?お姉ちゃん。ほらほら目が蕩けるじゃないかってくらい、お姉ちゃんの事見てるでしょ。気づいてよ。
しかも、見えない位置で手を振って出てけって催促してるしね!義兄が!誰のおかげでお姉ちゃんと結婚できたと思ってるんだよ!!それにこの状況で出て行ったらお姉ちゃん怒るしね!
「別に少ないけど、ちゃんとした友達は居るし。」
「片手で数えられるくらいでしょ。ルーナ。貴方ね、もうちょっと人と関わりなさい。休日も友達と遊ばずにずっとルシウスとキャシーと遊んでるでしょ。私が貴方位の頃は」
「こらこら、あんまり妹を苛めないの。ルーナちゃんは、ちょっと人付き合いが苦手な子なんだから、無理にさせて変な子に絡まれたら大変だろ?今もちょっと絡まれてるみたいだし。ルーナちゃんにはルーナちゃんのスピードがあるんだしね」
「それは・・・そうだけど。貴方はルーナに甘いわ。」
「そんな事ないよ。」
はいはい、ごちそうさまですーさっさと去らせて頂きます!もう周りの空気が甘くて砂はきますー!ってことで、私はそそくさと脱出した。
義兄の手がしっかりと姉の腰に固定されいたので、追いかけてくる事はない。
自室に戻れば、寝間着に着替えて明日の準備。
「昔は私だって友達がいっぱい居たんだよ。お姉ちゃんが心配しなくても」
親の家とか気にしない子供の頃は。ぽつりと呟いた言葉は自分の心に突き刺さった。いつからだっけ、友達と距離を置き始めたのは、深く入り込まれるのが嫌になったのは。
「汚いは奇麗。奇麗は汚い。」
ふと何かで聞いたフレーズを口ずさんだ。大人は汚くて奇麗。だって大人の貴族はドロドロだ、野心があってずる賢く美しくないと生き残れない。
優しいだけじゃあっという間に踏みつけられてしまう。弱みは見せちゃいけない。
あぁ、そうだった。父親の葬儀の時だ。親戚や本家の人達がきて、勝手にうちの事を決めようとしてた。奇麗な姉を手に入れようと画策したり、未亡人の母を手に入れようとしたり、優しかった友達の親が欲望をこめた顔で来たり。
私の母だと名乗る女が来たり。
「大人って汚い。」
そんな私も、もうすぐ大人の仲間入り。気持ち悪くなり胸元を抑えて呼吸を整える。
「ダメダメ、はぁ。過去は振り返らない!未来に向かって気張って行こう!よし!」