【野次馬の正しいマナー】02
我が校は午前中はクラスごとの授業のカリキュラムがあり、午後は全て選択授業となっている。
もちろんその中には魔術の授業がある、と言っても適正のある生徒のみ強制参加なんだけどね。モチロン私もその一人。
無くても、魔石を使って受けられるため、興味のある子は受けている。
この授業で一緒になるウェンディとその仲間達は魔石を使っているんだけど、何故か私も魔石グループだと思われている。
いや、魔力のある子は空の石を入れてそれを自力で魔石にする所からやるから、もう一個の魔力保持者だけの授業とってないと分からないとは思うんだけどね。
で、ちょっと面倒な理由が。
「親友の私が教えてあげるんだから、ちゃんと聞きなさい!お前はとろいんだから!」
そう言ってきて、魔石が埋め込まれたロッドを持ちながら術を空中に描いて行く。
この子に絡まれるようになってから、ミーナちゃんと授業中話せなくなるわ、魔力保持者の他の友達もこの授業の時は離れている。というのもこの子の取り巻きもうざい。
「流石ウェンディ!!!上手だわ!!」
「君はとっても器用だね」
「ルーナも見習ったら?」
見習うも何も、魔力持ってるから術なんて描かなくても発動できるんだよね。と言っても言葉が通じないのでもう言わない。
「そうねー」
適当に相槌を打ちながら、なんで私このグループに入れられてるんだろうと遠い目をした。ちなみにウェンディは金貸しやの娘。貴族とかにも貸してるから、借りてる家の子はゴマスリ状態なのが彼女を歪ませてると思うのよね。金貸しやという職業のせいで、まともな貴族の子達からおもいっきし距離をとられている。
黙ってれば幼女な、まーまー可愛い子なんだけど、しゃべるとアウト。声が可愛くないわ、上から目線で人の話聞かない、変な正義感で他者を詰る。それも結構嘘に惑わされてる事が多い。あとガサツだし服のセンスが悪い、高いブランドの服を着てるはずなのに、まるで市井で売ってる安物のドレスのように派手なレースが地味に見えるのだ、そんな子初めて見た。というのは私の周りの貴族の子達談。でも、確かに凄い地味に見える、何でだろう?体型?
本人は”服に着せられないのよ、私の美しさに服が負けてるの!”っとおっしゃってるので、なんか、もう、はい。
同じ服を着ているミカエラちゃんは正しく成金なゴテゴテ衣装に見えるのに、不思議だ。
噂によると、市井にあった学校に通ってた時は苛められてたらしい。まぁ、金貸しやって自分で言っちゃうからなんだろうけど。黙っとこうよと思う。確かに出会った時はちょっと苛められてるような雰囲気はあったけどね、目の前で倒れたら人として介助はするじゃない?なんかそれ以来懐かれてる?懐かれてるのか?下に見られてる?思考の振り幅が極端すぎて怖いのよね。
しかも、彼女の取り巻きの一人は、絵に描いたような成金のお家出身のミカエラちゃん、ちょっとやばい記事を親が書いてるらしいだけど、ストーカー並にウェンディにくっつき回ってる。ウェンディはこの子の事が嫌いらしいだけど自分を持ち上げてくれるし、なんだかんだ自分が欲しい物をくれるから切れないでいる。こいつ男だったらくっつくのにとか思ってるのは秘密だ。
そして、私が適当にウェンディと話すのが憎いらしく、いっつも睨んでくる。一応ウェンディが居る時は私達お友達よね!って言ってくる面倒な子だ。全然思ってないだろうが括弧笑い括弧閉じって感じ。ちなみに頭はめっちゃ悪いので、仕掛ける前に全部潰している。
もう一人が、彼女の事が大好きなレイバン君。私は心の中でドMロリコン野郎と呼んでいる。だってどんな酷い言葉をかけられるようと彼女にくっつき回っているのだ。周りの人は気づいてないのだが、酷い言葉をかけられた後困った顔はするけど目はキラキラと輝いてるのを知っているし、殴られた後にうつむいた頬が蒸気しているのを見てしまってから全力で距離を置かして頂いてる。
王宮騎士をずっと排出している騎士の家柄の3男坊だ。知識的な頭は良いんだけど、他の事が全く持ってアホとか言うちょっと残念な青年だ、無害だと思ったけどド変態だった。私の事はアウトオブ眼中。興味が全くないらしく殆ど無視状態、世界はウェンディ中心で回っているって感じ。
もう一人がエリーだ。この子もミカエラと似たような感じだ。なんか色々に過ぎてて双子じゃね?とか思う、違う所はいちいち私を馬鹿にした言葉を足して言うくらい?まるっと無視してるんだけど、わーわー言ってくる。面倒だから全然聞いてない。
この授業は殆ど実技なせいで、離れても近づいて来られるのだ。しかも他のグループの子が逃げてしまうから、もうね。本当止めて欲しい。遠目から他の子が光魔法でがんばれって応援文字書いてくれてるけど、その前に助けて欲しい。
小さく、サボって良い?って文字を書けば、単位落とすわよとミーナちゃんが光文字で返してくれる。ちなみのこの文字、魔力を持っていないと見えないので、一緒に居る4人には見えていない。
そんなやり取りをしているのに気づいてるはずの先生は、さらっと授業を進めて行く。訴えた事もあるんだけど、うまくかわされたというか。
「あの子達面倒なのよ。色々。あなたがいるだけでウェンディは暴走しないし、うまく貴方が勇めてくれるからいいじゃない?乗り切ってくれたら日常点あげるわよ。断っても別に良いけど・・・」
「・・・わかりました。」
成績大事。なんてったってコレでお見合い時や就職への評価がきまるからね。って、くそっ!私の性格よくご存知で!若干脅し入ってたよね?!
「ルーナ!!またボウッとして!頭の悪いお前は私がいないとダメなんだから!」
いえ、実は貴方より成績上なんだけどね?テスト後に上位30名だけ紙に張り出されてる30番をがんばってキープしてるんですよ。まー普通の人は上位5名あたりにしか興味ないから見てないだろうけど。因に私は30人全部の名前を見ている。いや、お勉強教えてもらうのに大事でしょ?因に、ミーナちゃんは25番だ。
「はいはい。聞いてます。」
適当に術をかいて、ウェンディより小さい炎を出しておく、何で小さめかって?なんか自分より下に見てる子が自分より上手くやるのが気に食わないらしくって、ずっと絡まれるのが面倒だからだよ。出し方が汚いとか、文字が汚いとか服のセンスが悪いとか、これだから没らく貴族はとか詰ってくるの、一回切れそうになったのは経験談です。はい。
我が家は、貴族だけど没落寸前といっても男子がいないせいでね、もう姉が婿養子とったし貴族の位は低くても、甥っ子も産まれたから安泰なんだけど、たぶんこの子は分かってないのよねー。噂だけで判断している。
因に私の貴族友達は、うちの事情を分かっているし。波風たてたくない温和な貴族友達しか作ってないので皆黙っている。あぁいう気の強い人苦手っていうタイプばっかりだ。
実力があって、のし上がってきた平民上がりの友達も居るが。やっぱりちょっと相容れないらしい、価値観のずれとか、考え方が根本的に違うのもあるんだけど、表面的なおつきあいで済ましている。私的にはめっちゃ親しくしたいだけどなー。
そんな感じで現実逃避しながら授業が終われば、私はそそくさと教室を後にした。まーウェンディが後から着いてきてるけど。
「ちょっと待ちなさいよ!ルーナ。貴方本当にお友達が居ないんだから。私と一緒に移動しなさい!」
違うっつうの誰のせいだ誰の!なんで分からんのか!と心の中で罵倒しとく。
「ごめんなさい、化粧室に急いでるの」
「あら、じゃー一緒につきあってあげるわ。」
「結構よ。」
笑顔でお分かれてして、階段を一つ飛ばしに駆け下りて行き、渡り廊下を渡ってさっさと教員用の裏通路に入り込んだ。騒いでる声が聞こえたが無視だ無視。
一応元王宮だった校舎なので、召使い達が使う通路があるのだ、今は教員が使う通路となっており生徒は一応入っては行けない事になっているし、殆どの生徒はこの通路の事を知らない。
そそくさと、次の授業場所の教室まで裏通路で移動し出れば、さっさと席に着いた。
「今日も、逃げるのが早かったね、一番乗りだ。」
気配もなく唐突に話しかけてくるのは、ユーリアスだ。同じクラスメイトで、先ほどの授業でもいた男子生徒。爵位はなんだっけ?貴族だったのは覚えているけど、特に権力を傘にたてるわけでもなく危険度が無く、めっちゃ普通の人なのであんまり興味が無い。
「えぇ、逃げ足には自身があるの。」
「そのようだね。君が去ったあと・・・凄かったよ。」
でしょうね。と心の中で相槌を打ちながら適当に笑っとく。ああいうトラブルメーカーとはお付き合いしたくないんだけど、絡まれるのは本当辛い。
勝手に親友認定は止めて欲しい、そのせいで彼女が喧嘩吹っかけた他の貴族に絡まれるのよね。誰のせいで一人で移動してると思ってるのよ。私の大切な友達を巻き込まない為だし。
「察っせられる子は、分かってくれてるけど。ちょっと考えが足りない子はまだ危険だから男子生徒と移動したらどう?一人で移動は危険だと思うんだ。」
そう、心配そうに声をかけられてびっくりした。
いつもは言ってこない言葉に、思わず振り返ってしまった。ちょうど他の生徒も教室に入ってきて、居た居たと声をかけてくる。
「また、変な子があの子に絡んだらしいよ。で、貴族の友達がいるって自慢したらしいよ」
その言葉に頭が痛くなる。
「はぁ、最悪ね。自慢するためのアクセサリーじゃないんだけど」
「ご愁傷様、で僕たちと次の授業移動するのはどう?」
そう言ってきたのは、委員長のクラウス君だ。我がクラスの成績トップの男子生徒、平民出だけど貴族の養子縁組の話が出てくる程見た目も性格も良い男だ。女子生徒にも人気が高い。女子友達から恨まれたくはない。
「うぐぐぐ。」
悩んでるとクラスメイトの女子から後押しがあった。
「ルーナ、今日はクラウス様の言う通りにした方が良いわよ。あの子が喧嘩売った相手、乱暴者のガエレアよ。」
「え・・・」
何つう所に喧嘩売ったんだよ!あの子は!本当に!あと2週間くらいで穏便に居なくなる予定だったあいつに手を出したのかい!
頭を抱えて机の上に突っ伏した私に皆、御愁傷様って声をかけて行く。
「と、言う事だよ。ルーナ。」
「よろしくお願いします。」
ここは、素直について行った方が良い。ウェンディには護衛騎士みたいにレイバンが護ってるけどね、見た目に反して普通の男子よりちゃんと強いからね、てか諌めろよと思う!ニーナちゃんは取り巻き達の中で騎士の家の奴がいるし、無茶はしないからいいんだけど!私はいない!つまり真っ先に狙われる!
クラスメイトの助太刀のおかげで、今日は無事に学園を出る事ができた。若干痛い視線とヤバい視線を感じたけどね!
市井に出てしまえばこっちの物、カフェ屋に入って化粧室で変装だ。髪の毛をおろして三つ編みに結い直し、ドレスの上からエプロンを羽織れば。ちょっと金持ちの家の召使いの出来上がり。
カフェから出れば、後を着けていたガエレアを横目で見つつ、今日は市井にある国立図書館に向かった。
人があまり入ってこない、美術書の場所に行けばもう既に先客が居た。足音をたてず、気配を消して近くの柱の裏にある椅子に座った。耳を澄ませば静かな図書館では話し声がよく聞こえる。といっても私の耳が良すぎるから聞こえるだけらしいけど。
「・・・でやっぱり。」
「そうか。やはり脅されて?」
「みたいだね。今度は、ミーナ嬢を手に入れて貴族位を手に入れたいらしい。」
「なんて奴だ」
本当だよ!思わず気配が乱れてしまったよ。はぁ?!ミーナちゃんと貴族位を手に入れるだとあんにゃろう!許すまじ!ミーナちゃんは物じゃないし!
イライラを誤摩化す為に指を噛んで痛みで冷静になろうと思うも、続く会話で思わず爪を噛み切ってしまった。
「まったくだ、しかも金貸しやの娘を誑かして、借金をしている貴族を聞き出そうとしたらしいが、失敗したらしいしな。」
「あぁ、ウェンディとかいう娘か。まぁ、あの娘に顧客の情報は言えないだろう。まともな親だったら。」
頭が痛くなってきた。そう言う事か、そう言う事ね!あの二人がなんで接点持ったのかと思ったら!
「だが、早い所片付けないとミーナ嬢が危ないな。」
「そうだな。お前の麗しのミーナ嬢がな。」
「おい!」
片方が笑いながらさって行き、その後を走って追いかける音を聞きながら、ルーナはため息をついた。
先ほど話していた二人は、先日のムコダイン公爵とアストン伯爵の二人だ。彼らがここら辺でちょくちょく会っては会話しているのは、偶然見つけたのだ。基本ココで決めて、他の場所で待ち合わせてたりしてるみたいだけどね。学校内の待ち合わせ場所はあのピアノの練習室は盗み聞きして何度か当たりを付けてるうちに見つけた。だって”じゃーいつもの場所で”とか”鍵よろしく”とかばっかなんだもん、苦労したわー遊びの連絡はココできめたりしてるから、だいたいの交友関係も分かってきたけど。
ガチで上位貴族って怖いわー何処がどう繋がってるのか本当恐ろしい。
それに何より。
「やっぱり、ミーナちゃん狙っていたか。」
何となく、そうっぽい気はしてたんだけどね。ミーナちゃんモテるし、ただ結構サバサバしているし、やっぱり伯爵家の令嬢だから貴族的な考えが強い。釣り合う男は自分より同等かその上っていうね。アストン伯爵なら家格も釣り合うし、きっと大切にしてくれると思う。ミーナちゃんが気に入れば、ねー・・・。ミーナちゃんの男のタイプがいまいち分からないのよねー。
「つきあう男性がバラバラすぎて分からない。困った。」
アストン伯爵と付き合ってくれたら絶対幸せになれると思うんだよ、自分の感がそう言ってる。ただねーただ、ミーナちゃんの男性のタイプがさっぱり読めない。親しい友達は幸せになって欲しいだけど。しかもそろそろ社交デビューの年齢になってきたからね私たちも。
最近は友達の良縁を探すのが日課になってきてる気がする。ちょっと姉の縁組みが成功したからね。図に乗らせてくれ。
「野次馬では空き足らず、世話焼きおばさんにまでなったんですか?」
そう声をかけてきたのは、黒ぶち眼鏡のださい髪型をした青年だ。私よりも頭二個分でかいひょろっとした男性。薄汚れたローブを着た。怪しげな男だ。
「黒めがねさん、今日は」
「今日は、おさげさん」
お互い名前は名乗っていない、何でかって?そりゃーお互い聞き耳たててる者同士だからね。こいつも明らかに変装してきている、ちらっと見ただけで薄汚くしてるけど顔は整ってるし、何より臭くない。石けんの香りがしてくるのだ。
本当は会いたくない謎な人物なんだなー。待ち合わせもしていないのに私が居る場所にひょろっと現れるだもん。調べようと思えばもしかしたら調べられるかもしれないけど、私の本能が調べるなって言ってる。本能大事!
薮蛇を突く事になる事間違いない。そもそも気配けしてくるし、足音もしないんだよ!怖いわ!
それに、私の行動を読む数少ない切れ者だ。
「ふーん。今回はファリエスト伯爵家のご令嬢の為に動いてるのかな?君がミーナ嬢と友達だったとはねー」
ほらな。何でミーナちゃんがファリエスト伯爵家の令嬢だって知ってるんだよ。この会話だけでだ!貴族の位は学校側の方針で隠せないから分かるとしてもだよ。女子は社交でビューするまで秘匿されてるから名前でしか呼ばれないから調べない限りわからないのにね。接点無い奴がさらっと出してくる事が恐ろしいわ。
「相変わらずお耳が早いですね。」
「ふふふ、君程の地獄耳は持っていないからね。」
やばい、鳥肌が立つわー。なんて言うか同族嫌悪っていうやつ?怖いよー怖いよー。私よりも良いお耳お持ちですね!くそぉ!
どさりと横の椅子に腰掛けた黒めがねさんは、内緒話するように口元に持っていた本で遮り声が響かないようにしてから話し始めた。
「かの商会はちょっと悪どい事をしすぎたようだね。恐喝、賄賂、詐欺だったかな。市井の憲兵が今大変らしい。」
「へぇー・・・」
言われなくても知ってるわ。警備隊が利用している飲み屋に働いてる子から聞いたからね!口が裂けても言えないけど!
「おや、知っていたか。残念。じゃー、かの金貸しのお嬢さんがある令嬢の名前を使っていじめをしているっていうのは?」
「は?」
思わず振り返ってしまった。この話の流れからして金貸しの娘ってウェンディよね?!
「どうやら知らないみたいだね。まー、周りの良識ある人物達が言うには、その令嬢は一方的に絡まれて逃げ回っているって言う話なんだけど。その金貸しの娘は大親友とのたまわっているそうじゃないか。」
くすくす笑いながら言う男は、私の正体を知っていて言っているのか。はたまた学園に通うものとして言っているから言っているのか謎だ。しらを切るのはまずい。
「その令嬢なら知っているわ。生け贄状態で相手をさせられていたわ。一部の人間以外は、あの子と付き合いたがらないもの。」
嘘と本当を混ぜながら言えば。黒めがねさんが楽しげに笑みを浮かべた。
「ほう、生け贄ね。じゃーその令嬢に伝えといてくれ。そろそろ手を切らないと危ないよってね。」
「危ない?」
「金貸しっていうのは恨みを買いやすい。そうだろ?」
「・・・伝えとくわ。」
そう返せば、ぱたんと本を閉じて小さくありがとうって言ってから黒めがねさんは去って行った。
あの男が言う程だからガチでヤバいんだろう。はぁ、人とぶつかるのは苦手なんだよなー。と心の中でぐちぐちと言いながら、また大きなため息をついた。時々、違う生徒に忠告をしてこいという男だから、私がその令嬢だって言う事に気づいているかは不明だけど。
大抵、忠告する時は憲兵が動く時だ。市井の憲兵ならそんなにやばくないとは思うけど、軍の憲兵が動いた時もあるからシャレにならない。公爵家の令嬢に忠告しに行けって言うから行ったら。大尉の息子が振られた腹いせに公爵家の令嬢を拐そうと計画してたのよね。しかも連続通り魔事件の犯人でもあったし。あれは凄かった。
あと、姉の元恋人とかもね。頭が痛くなってきた。
「はぁ。帰ろう。」