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思いつくままに ー短編集ー  作者: siro
残酷な魔法
5/30

【残酷な魔法】05


扉を開ければ、その向こう側にある格子も開いていた。まるで自分を導くようにうっすらと。

ミシェルはそれを疑問にすら思わず歩みを進める。廊下に出ればひんやりとした石が足の裏に伝わる。人の気配はなく、ペタペタと歩みを進めながら渡り廊下を歩く、小さな小川を挟むように建てられた離れは狭く、渡り切った先に下りの螺旋階段が一つ。ゆっくりと降りて行けば、そこは1階の廊下に着いた。やはりココにも人の気配はなく、玄関横にある警備の為の騎士の間の扉も開きっぱなしで誰もいなかった。

外へと通じる扉も、まるで糸のように細い光を廊下に差し入れていた。

重い木の扉を押せば、きしむ音と共に開いた。

開け放たれた外は、石畳の階段があり、その先に井戸、その先には小さな庭園があった。ゆっくり風に誘われるままにミシェルは歩みを進める。

石畳がとぎれ土と石だらけの道になって初めて鈍い痛みを感じた。見れば足は室内履きの薄い布の靴のままだ、外を歩くには適していない。それでもミシェルは歩き続けた、広い貴族の敷地は遠目に本低が見える。

ミシェルはそちらには向かわず、小川沿いにそって歩き出した。まるで誘うように柔らかな風が舞う、林を抜け、緩やかな道の先には大きな東屋が建っていた。

そこには、淡い緑色のドレスを着た女主人と侍女がたたずんでいた。


「いらっしゃい。ミシェル。上手く出れたみたいね」


女主人は満面の笑みを浮かべてミシェルの腕を掴み、そのまま東屋に案内した。入ればお茶が用意されている。ミシェルは何故笑顔で迎え入れられてるのだろうと疑問に思うも誘われるがまま、椅子に座らされてた。


「もうマリオネットになっちゃったかしら?」

優しくミシェルの頰を撫でながら、女主人は笑顔で訪ねた。言われた意味が分からず小首をかしげながら、言葉を心の中で反芻させて気づいた。何故この女性は自分の病気を知っているのだろうかと思っていると、女主人は首筋を丹念になでて笑みを浮かべた。

「あら、いい感じに仕上がっているのね。あの男、気に食わなかったけど良い仕事するじゃない。魔力を少しづつ放出させて、使わせる事で調節してたのね。ふふふ、あいつが貴方を連れて帰ってきたときには驚いたわ。もう手に入らないと思っていたのに、私の元に来たんですもの!まぁ、あいつが独占しているっていうのが気に食わないけど。」

そう言いながら、女主人はお茶を飲んだ。

「でも、まだ所有権は決まっていないわ。何度も離れの使用人に術をかけといて正解だったわ。誰にも邪魔をされずに出て来れたでしょ?私だって操作系の魔術師ですもの。貴方を所有する権利があるわ。ねぇミシェル。私のお人形さん。」

ミシェルは一生懸命女主人の言葉を理解しようとしていた。何故か上手く理解できない自分に焦っている。分からない事が分からない。私のお人形さん。どこかで聞いたフレーズだと思いながらミシェルは女主人を見つめた。


「あの男が求婚してこなければ、貴方を私の侍女に迎いれてからお人形さんにしようと思ってたのよ?それなのに、貴方のお父様が亡くなった時にあいつが押し掛けてきて本当腹ただしい。他の貴族達も皆足の引っ張り合いしてる間に貴方は何処かに居なくなってしまったし。

もう見つからないと思ってたのに、ふふふ。あ〜素敵だわ。あ、安心して今日はあいつは帰ってこないの。私のブルタスが言っていたの。ほら、飲みなさい。」

そう言って、女主人はミシェルにおままごとのようにお茶を差し出し、飲ませた。ミシェルは何故か言われるがままお茶を飲んでいる自分を不思議に思いながらも何処か遠くの出来事のように感じた。


「私が降嫁する前だったら、王族の権限で手に入れられたのに。悔しい。あいつの妻だなんて本当に最悪よ。」

王族という言葉でミシェルは思い出した。王女の名でミシェルが欲しいと書いてあった手紙を思い出したのだ、その文章の中に”私のお人形さん”とあった事も。

やっと女主人の言っている事が理解できたミシェルは愕然とした。この女からも逃げなければと思い立ち上がるも、椅子から崩れ落ちてしまった。テーブルクロスと共に食器が甲高い音を立てながら落ちて行く。

「あら、どうしたの?立ち上がって良いなんて命令していないのに、もしかしてまだ意識が残ってるのかしら?」

大きなため息をつきながら女主人がミシェルを抱き起こそうとした時。

「なぁっ・・・」

女主人の胸元には銀色のナイフが突き刺さっていた。ミシェルは呆然としながらも自分が握りしめているナイフと見比べた。何故か勝手に体が動いたのだ、倒れ込んだ自分のよこにあるはずの無い銀色のナイフ、そして近づいてきた女主人に吸い込まれるように手が動いて刺さった。

その感触は無く。まるでただ動かしただけだ。

女主人はさっと横目で自分の侍女を見れば、冷静にただ立っているだけだった。その後ろには自分の夫が笑顔で歩いてくるのが見える。

「・・・ば・・かな・・」

ブルタスから聞き出した情報なのにと思いながらも、踊らされていた事実に歯ぎしりをした。

「私の部下が、貴方に味方するなんてあり得ないでしょ?元王女の貴方に。まぁ、何かこそこそされてるので、ちょっと泳がせたら。まさか私のマリオネットに手を出すとはね。」

そう言って、モルエディアはミシェルを抱き上げた。ミシェルの手からするりとナイフは離れ、まるで定位置のようにモルエディアの首へと移動した。

「私を・・・殺したら・・どう・・なるか」

「おや、まだ喋れましたか。大丈夫ですよ。ココで亡くなるのは妾のミシェルです。そしてこの子が今日から私の妻、オリヴィアです。」

「?!」

「ねぇ、オリヴィア。返事をしてごらん。」

優しい笑みを浮かべてモルエディアはミシェルに言った。ミシェルの口からはするりと言葉が出た。

「はい、旦那様」

「よく出来ました。」

そう言って、モルエディアはミシェルに口づけた。

「さぁ、着替えようかオリヴィア。妾の暴挙で君はちょっと心を病んでしまったから社交界に出る必要は無いんだよ。もともと体も弱い設定をしていたしね。」

そう言って浅い息をする本物のオリヴィアに向かって言った。

「か弱い王女様。さようなら。」

そう言うとともに、側に控えていた侍女がオリヴィアに突き刺さっていたナイフを引き抜いた。


「?!・・・きゃああああ!!」

ミシェルはあまりの出来事に悲鳴を上げた。

「おや、刺激が強すぎたかな?」

モルエディアは優しくミシェルの頭を撫でながら歩き始めると、林からブルタスが現れた。

「屋敷の使用人の術は解除しといたぞ。」

「そうか、最後のお別れをするかい?」

ブルタスにモルエディアは顎で示せば、興味無さげに首を振った。

「貴方が近づけと言ったから近づいただけだ。」

「君と俺の前ではかなり態度が違うみたいだったしね。」

そう話しながら歩けば、使用人達がちらほらと現れて片付けを始めた。ガウンがミシェルにに渡されミシェルの肩にかけられるも、恐怖で震え泣き続めてしまったミシェルにモルエディアは困った顔して言った。

「君はいい子だから、酷くはしないよ。あの王女はちょっと度がすぎたんだよ。私の者を奪おうとするからね」

「あああ!あああ」

モルエディアは優しくミシェルの目尻に口づけ、涙を舐めた。


「大丈夫、君の事は本当に欲しかったから大切にするよ。」


笑顔を向けながら歩く姿にブルタスは身震いをした。アワード家の直系の貴重な魔力を保持する子孫を残さなければならないという上からの指示があったが、まさか少女がマリオネット症候群だったとは誤算だった。といってもそれは自分達だけで上司は既に知っていたようだが、子を生す為に上司が囲ったかと思えば症状が悪化したと報告したかと思えばこの状況。

この上司も操作系の魔力を操る男だった事に気づけば理由は簡単だが、まさか少女の存在を抹消させるとは。この極秘任務に自分まで関わらせるとは本当に怖い男だとブルタスは思った。


そして、あんな笑顔をするモルエディアを見たのは2回目だ、昔警護でいった女学校以来。そしてふと気づいてしまった。


「やっと手に入れたよ。俺のマリオネット」




【残酷な魔法】 END

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