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思いつくままに ー短編集ー  作者: siro
残酷な魔法

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【残酷な魔法】02

ある日、所内が騒がしかった。

特に女性陣が浮き足たっているように見える。ミシェルは何か行事でもあったかなーと思いながら給湯室へと飲み物を入れに向かった。


「ねぇねぇ!聞いた?!」

「何?何?」

「やっぱりあの噂本当みたい」

「ぇ!やっぱり!!」

「明後日の試具会に軍のエリートが来るって!!」

「きゃー!もしかしてモルエディア様やブルタス様もいらっしゃるのかしらー」

「いや~ん楽しみ~。あ、お手伝いするって所長にお願いしないと!」


そんなやり取りを給湯室の入り口で聞いてしまい、大きなため息が漏れそうになった。手には飲み物用のカップがある、飲み物を入れにきたのだが女性陣が占領していた中に入れない、それにまだまだ話は終わりそうになかった。

なんだろう、副音声で玉の輿って聞こえた気がしたわ。そう思いなが下の階の給湯室を使う事に決めた。

そそくさと飲み物を入れて戻ってくれば、所長に明後日のお手伝いの件を話している女性達がいた。いつもそのくらい仕事早いと助かるんですけどっと心の中で突っ込みつつ。

「邪魔なんでどいてください。」と自分の席を塞ぐ女性を睨んだ。優しく言っても無視されるのでいつも強く大きな声で言わないといけない。

「何よ。言い方があるでしょ」

と言われても無視してミシェルは作業を始めた。今まで普通に言ってどいた事が無い癖にと心の中で罵倒しながら、効率がいい方法しかとらない。それが女性陣に嫌われている事だと本人も分かっているのだが、今更仲良くしようとも溝を埋める気もない為放置中だ。

だが作業はすぐに中断する事になる。

「所長~明後日の試具会っ決行大掛かりだそうですね。」

「そうなんだよ~もう困っちゃうよね。僕たちも手伝わないといけないからね」

「そうなんですね、私、お手伝いします~」

「「私も!」」

「そうだね、確かに女性が居た方が華やかだからね~」

「ですよね~」

「てか、忙しくなるから全員出だよ☆」



 は?!

 えぇええええええ!


思わず振り返って所長をみてしまったミシェルは心の中で絶叫した。嫌だ絶対に参加したくない。これは明後日腹痛で休もう!そう心の中で計画を立て、作業にもどれば所長がミシェルの肩をぽんと叩いた。

「ミシェル君、腹痛での休みはだめだからね?ちゃんと君も来るように」

「寒気がするので早退」

「だーめ!」

ルンルンと鼻歌でも歌いだしそうなほどご機嫌な所長はそのまま去っていってしまった。

何故ばれたし!!てか、なんで派遣の私まで強制なんだ?嫌な予感がする。

胃がきりきりする中ミシェルは一日を過ごした。だが次の日には、途中でサボればいい事に気づいたミシェルはいつも通りに戻っていた。

直った魔道具の点検をすまして、持ち主に連絡をする。今日は運がいい事にすぐに取りにきてくれた。

「壊れた原因は、セットする魔力量のオーバーによるヒートアップ現象により術式が焦げたせいです。これからは装填するときは魔力量に気をつけてください。」

「おう、流石嬢ちゃん!ありがとうな。」

**

「壊れた原因は、2点あります。1つは、グリップの中にも術が内蔵されていまして、そこから魔力が補給される仕組みなのですが、このグリップが想定内以上に強く握られたせいでヒビが入ってしまってます。ですので今回はグリップの強度をあげました。2つめは、攻撃による内部破損が起きていました。土属性の攻撃にはこの魔道具は弱いので気をつけてください。」

「ふーん。噂に違わずってやつだね。」

「?」

「いや、こっちの話」

**


手持ちの修理が終わってミシェルは次の補修待ちの棚に向かった。

これがミシェルの日常だ。淡々とこなしていく、平和で味気ない日常。でも、贅沢をしなければ好きな物が買えて、好きな物が食べれて、安定したお金がもらえる。それは貴族として小作人の管理や税の徴収やら親族の腹の探りあいやら、人脈やらと精神をすり減らす前の生活よりかなり喜楽で気に入っていた。

こちらの生活の方が自分には合っていたのだと納得できる程になっていた。

だがそれも見えないところで綻び始めている事に本人は気づいてなかった。



試具会当日

ダンスフロアの部屋に机が並べられ、新しい魔道具が並べられていた。属性ごとに仕切りが設けられて分かれて置かれている。誤作動が無いように職員の男性陣はピリピリしている。

それとはちがい、浮き足たつ女性陣はみな身だしなみのチェックに余念がない。

そんな中ミシェルは新しい魔道具の仕様書を所長から読んどくように渡され、必死に読みあさっていた。派遣社員のため一番最後の当日その冊子が回ってきたため覚え切れていないかった。

補修科は開発科とは別だが、新たに開発したものは補修科にもお披露目されるし手伝わされるのだ。直す人が内部を知らないとならないと困るだろ、という事だ。

ミシェルは面倒だなーと思いながら、必要そうな項目を眺めた。ふーん、腕につける筋力増加装置の改良版か。魔石の消費量を少なくして威力も倍増ね、でも肉体にかかる負担が多そうだわ。

そう自分で分析しながらミシェルは一つずつ魔道具と仕様書を見比べていった。

試具会が始まれば女性陣が気張って前に出て行く、わからない仕様部分は近くに居る男性が説明するが、ミシェルの場合はすでに自分が、そのまま冊子をもたされていた為に一人でこなしていた。


「きゃーあの人超かっこいい!」

「ぁ、みてみてモルエディア様よ!超ラッキーだわ!」

そういって鼻息荒い女性の様子にミシェルは、そんなにレアキャラなのか?と思い女性達の視線の先を見れば見れば確かに鼻息が荒くなるのがよくわかる美丈夫が隣のスペースに居た。

劇団に入ればトップスターになれそうな整った顔立ちに栗毛色の柔らかい髪の毛、アメジスト色の瞳、笑えば甘いマスクに女性陣はめろめろになるに違いない。きっちりと着込まれた軍服の腕章を見れば将校である事がわかった。

明らかに若すぎる将校に、ミシェルはかなりの魔力量があるんだろうなっと思っただけだった。

「ということは!ブルタス様もきてるはず!あ、いた~あの男らしい感じいいわよね~」

「わかるー」

ブルタスは色黒な肌の上からでもわかる目尻にクマができていたが、それでもきりりとした顔立ちは威圧感たっぷりだまさしく体育会系の男という感じだ、腕章から副将校なのがわかった。

美丈夫2人組はワンセットらしい。ブルタスの方は女性陣を鬱陶しそうに見ている。

たしかに目の保養だわ~と心の中でいいながら、このチャンスを見逃さなかった。

お偉いさんがきて、皆がそっちに視線が行っている間にミシェルは休憩はいりますっと小さく隣の人に言って後ろにあるバルコニーの窓から逃げ出した。


そそくさと抜け出した先は、中庭に出るための階段。地上から最上階までをつなぐ階段は非常用のために作られているため普段だれも人が近づかないのだ。しかもバルコニーと繋がった作りのため、気をつけていれば人の目につかないという穴場

「やったー脱出成功!」

今居る2Fから少し降りた所で腰を落ち着かせると、ミシェルは髪の毛をおろした。


「あーもう、朝からこき使われて髪が埃臭いわー、しかもボサボサー。なんであの人達の髪の毛は乱れないの?不思議だわ〜」

バサバサと髪の毛を乱暴にとかすと、お行儀悪く足を広げ柱に寄りかかった。

「何時までやるのかなー、予定表だと締めの時間書いてなかったんだけど。おなかすいたー」

今日の食堂のメニューは何かなーとか食堂混んでるかなーとかうつらうつら考えながら、雲の流れをぼーっと眺めていると男性の声が聞こえた。


「お嬢さん、一緒にお昼でもいかかですか?」


はっきり聞こえるなーとミシェルは思いながら。誰か窓開けっ放しなのか、独り言はやめておこうと思っていると。肩を叩かれ驚いて振り返った。


「そこのお嬢さん、一緒にお昼でもいかかですか?」


女性陣を虜にする甘いマスクをつけた男は、先ほど女性陣に持て囃されていた。モルエディアだった。

ミシェルはあまりの出来事にぽかんと、口を開けて惚けてしまった。

「おーい、君だよ?」

手を振られて、ミシェルは幻聴でなかったのかと驚きつつ。急いで居住まいを正して立ち上がった。

「あの、誰かと勘違いされてませんか?」

これはヤバいとミシェルは思った。本能的にこの現場を同僚の女性にでも見られ様なら何をされるか分かった物ではない。ぎこちない笑顔を貼付けながら伺えば、モルエディアは笑顔で返した。

「いえ、君であっています。」

これで、春がきた!って思えればいいのになーっと思いながら引きつった笑みしかミシェルには出来なかった。遊びとかではないとは思うが何をもってして、隠れていた自分を見つけ出したのかと無い頭をフル回転させながら一歩後ろの段に下がると、肩を掴まれてしまった。

しかも麗しい顔が近づき耳元で囁かれた。

「ミシェル・ドゥ・アワード君で間違いない。」

「っ?!」

一瞬呼吸を忘れてミシェルは固まった。まるで逃がさないように強く掴まれた肩が痛んみ、これが現実だと伝えてくる。

「ひ、人違いです。私、庶民です。家名なんてもって「元貴族だろ?」」

言葉は遮られ、今度は眼鏡を取られてしまった。

「あっ!」

だが、その一瞬の肩から手が外れた瞬間を逃さずにミシェルは動いた。逃れるように身を翻し階段を駆け下りた。

「まてっ!!」

ミシェルは焦った。ドゥが名前につくとそれは貴族を指すのだ、爵位返却時に消えたため今の職場でその事を知っている物は居ないし。ましてや、家名も捨てて庶民となったため登録証にも名までしか記載されていないのだ。

何故、そこまでしたのか。それは。

「追え!ブルタス!!」

「おうよ」

一階について中庭に飛び出せば目の前に男が落ちてきた。それは先ほど見たブルタス。ミシェルはブルタスの手を間一髪でよけて走り出した。

だがいかんせん鍛えられた軍人と一般人の体力と運動量ではすぐに捕まるのは目に見えている。ミシェルは、走りながら靴を叩いて叫んだ。

「解除!」

パンという音と共に地を蹴ればバネのように弾かれ前に体が進む。髪の毛の端が触れる感覚を感じたが振り払うように腕を振るいそのまま大きく飛躍した。

「なっ!」

いきなり速度を上げたミシェルにブルタスは驚きの声を上げたが、すぐに後ろを振り返った。見ればモルエディアが銃を構えている。

大きく飛躍したミシェルはそのまま渡り廊下の屋根へと乗ろうとしているようすだったが、それは大きな破裂音と共に叶わなかった。肩を打ち抜いた魔弾によってバランスを崩し上半身を屋根に打ち付け、そのまま落ちてきた。それをすかさずブルタスが受け止めれた。

周りの物達が、何だと騒ぎ中庭を覗きはじめていた。

ミシェルはぶつけた衝撃で気を失っている、ブルタスは魔道具の靴の術を止めて抱き直せばちょうどモルエディアが此方にたどり着いた。

「撃つ事はないだろ?」

「穏便に済まそうと思ったのに、逃げたのが悪い。それに、手っ取り早いだろこの方が。」

冷たく言い放つ上司にブルタスは肩をいさめた。

「人が集まってきたな。さっさと戻るぞ。」

「はいはい。説明はどうする?」

「適当に誤摩化しとけ」

さっさと歩き出したモルエディアにブルタスは、適当には誤摩化せないだろうなっと思いながらもついて行った。


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