【残酷な魔法】01
キーワード【バットエンド、魔法、軍人】
人々が何かしら魔法が使える世界。ミシェルは全てを捨てて、一人強く生きようと足掻いていた。
大きな体格の男性が腰にも背が届かない子供に向かい合っていた。
「力は鍛えれば鍛えるほど磨かれ強くなる。逆に使わなければ錆び付き、力はなくなる」
そう言った男性に子供は小さく頷いた、頭高くに結ばれたポニーテールが揺れた。
「お前の力は錆び付かせてしまいなさい。」
そう言われ、子供は握っていた木刀を強く握りしめた。
「賢いお前ならわかるはずだ。」
そう言われて初めて子供は声を出した。
「はい、父上。」
その声は子供特有の高い声。
「だがな、もしも・・・」
********
ざわざわとざわめく建物は軍部、その中でも魔道具保守科の看板が掲げられる室内は時々怒号が聞こえてきていた。
「どうしたらこんなに壊れるんだよ!」
「うっせぇーな!脆すぎるんだよ!」
「はい、ここに壊れた理由と所属を書いてください」
「あーだりよ!ネェちゃんがかけよ暇だろうが」
「はぁ?暇じゃないわよ。出さないなら直せないわ」
「んだとぉ」
受付のカウンターでのやり取りとは裏腹に、カウンター後ろの衝立の裏では大きな長い机に何人も並んで座り、壊れた魔道具を直している人々がいる。
その中で所長席の前に座る女性が手元を見ながら後ろをゆっくり歩く男性に声をかけた。
「遅ようございます。所長、すでに時刻はお昼を過ぎていますよ。」
その言葉に、後ろを歩いていた小太りの男性は体を震わせた、その様子を回りで動き回る人々はすっと避けながら、目線まで合わせないようにそそくさと離れていく。
「お、おはようミシェル君、今日も麗しい」
そう言う前に、くるりと体を反転した。ふわりとポニーテールが揺れるが端がとんがった眼鏡の下は眼光鋭く、ひと睨みすると所長は黙ってしまった。
「本日は午後10時より所長会議がありましたよね。午後からは予算案の会議があり絶対出席するようにとお達しがきてましたよね?フロイアさんが探しにこられてましたよ、あとこないだ発注した材料がまだこないです。あと修理が滞っている班があり苦情がきています。
で、私は所長の秘書じゃないんですけどね!契約社員なんですけど、どうして私に皆さん言伝されるんですか?スケージュルをいってくるんですか?
そして、どうして所長の行動に対して私が怒られるんですかね?貴方が来ていない事に対して!」
そう言いながらミシェル書類の束を所長の前にどさりとおき、はげた所長の頭にゴンと修理した魔道具が入った箱をぶつけた。
「あうっ!す、すまないね。頼りにしてるよー」
「あぁ?」
所長の言葉に思わずドスの利いた声で返せば、ひぃっと所長が飛び上がった。だがこんなのは日常的にあるの風景とかしているのでミシェルも気にしない。
ただ一部の女性陣を除いて。
「こわーい」
「流石契約社員のお局様ね何様~」
くすくす笑い声と共に言われた言葉はミシェルの耳にも届いていた。正社員の癖して働かない奴らがっと心の中で罵倒するくらいミシェルは気が強い。
「では、私は伝えましたので修理した物を保管科に持っていきます。そして、そのままお昼にさせていただきますから。」
ていうか、補修科で一番若いの私なんだけどね、あの厚塗り婆が!!そう心の中でいいながら廊下の壁をがっと蹴った。
周りを歩く軍人の人々がびくりっと驚くも、”あ、あの子か”と納得して通り過ぎていく。その様子に気づきながらもミシェルはため息をついた。
おかしい、私まだ17歳よ。確かになめられないためにキッチリした服装よ。でも、派遣社員は服装指定があるじゃない!いつも白いブラウスにスーツだし、その下は紺のカーデガン。でも女子を忘れないためにスカートははいてるわ!
理不尽だと思いながらミシェルは怒りながら歩いていた、同じ派遣社員仲間は可愛い子が多く同じ服装でもちょっとおしゃれなデザインであったりするので、完全に受付担当ばかりしているのだ。
ミシェルは17歳という年齢で、お金を稼ぐのに派遣しかなかった。といっても普通の派遣じゃなく技術職なので給料もいい、ぶっちゃけ給料目当てでわざわざ魔道具の修理技術を取得した、男女年齢関係なく長く働けるというのもいい、だからこのまま正社員になれるならと思いながら真面目キャラを作って働いてたのだが、最近違う仕事をさせられてる気がしてきていた。
顔パスで保管科に入れば慣れた手つきで書類を書き、戸棚に修理した魔道具をしまっていった。
「お疲れ~ミシェルちゃん。ランチはもうすんだの?」
声をかけられ振り返るとそこには、保管科の所長がたっていた。きっちりと内勤用の軍服を着こなしている30代のおじさんだ。ミシェルにとってはおじさんだが周りの女性陣にとってはまだ売り手市場ど真ん中。優しい風貌と出世コースにちょっと乗っているため人気が高い。
「まだです。これからとります。」
「あーじゃ、サンドイッチの売店はもう売り切れてて閉まってるよ」
このおじさんは何かとミシェルに声をかけて内部のちょっとした情報を渡してくれる人だ。どうやら年の離れた妹とだぶって、ついつい世話を焼きたくなるというのは本人談。もちろん他の女性に気を使って、人があまり居ないときにしか話しかけてこない。
「ぇ、本当ですか。情報ありがとうございます。じゃー近くのカフェですましてきます。」
「おう、いってらっしゃい」
そう言って手を振って分かれた。
建物からでて、道路を渡れば目的のカフェがある。中に入ればサボリ中の軍人や打ち合わせをしている人々がいる。店内はそんなに込んでなく、すぐに座れた。
コーヒーとサンドイッチを頼めば外のテラスにパステルカラーの服装の女性たちがいた。あれは補修科の女性達だ、ミシェルよりも早く昼に出てたはずなのにまだ戻っていない様子にいらっとしつつも、きたコーヒを口に含んだ。
おかしいな、技術職で選んだはずなのに同僚の女性はみな出会いの場として身綺麗でかつ美人が多い、そのため仕事量もそんなに多くない。派遣の自分はまぁ、地味だし色気ないし、こき使われるし。
「私の人生って」
思わずつぶやいてしまった。いかんいかん!私が選んだ道だ!お金のため!手に職をつけるために技術職にしたんだから!そう心の中で奮起し、きたサンドイッチを頬張った。
午後の作業も問題なく終わらせて家に帰るころには外は真っ暗になっていた。家の明かりをつけて、ただいまと小さく言っても帰ってくる声はない。
小さいアパートの一室には不釣り合いな大きな額縁がついた肖像画が壁に立て掛けられていた。そこには貴族らしい服を着た男女の姿がある。
その二人はミシェルの両親だ。両親は貴族だった、もちろんミシェルも。だが父親が他界したあと母親はその事実に耐えられず精神をきたし、後を追うように亡くなったのだ。
本来なら女学校に通っていたミシェルだったが、父が亡くなったときに帰省しそのまま母親がおかしくなってしまってから女学校は退学した。結果としては良かったと本人は思っている。
遺産相続は揉めたがなんとか守り通したが、男児がいない家系だったため貴族の称号は捨てなければならかった。
今まで屋敷に勤めていた人達にお給金を支払ったらかなりの額がなくなったし女学校への支払いもすませれば、今後の生活費はカツカツだった。それに屋敷や土地の維持費を考えてすべてを売り払った。
残ったお金で、王都にあるそこそこのアパートに移り住んだ。生活してればお金はどんどん減っていく、考えた末でミシェルは技術職に就こうと思ったのだ。結婚願望はない、貴族な母親を見ていたせいかミシェルは最近でてきた自立した女性起業家に憧れを持っている。
父親が亡くなったとたんにどうしたらよいか分からないと泣き叫ぶ母親にミシェルは自分の親なのに期待外れだなと思ってしまった。そして、そんな薄情な感想を持った自分に苦笑した。何を期待してたのだろう、今更。貴族の母親はいつも父親が中心、楽しく暮らせる事だけが重要なのだったのだから。
父親一人分だけの絵姿だけでもと思ったが、それは大きすぎて持って来れなかった。一番小さい絵が両親の寝室にあったこの二人の絵姿のみ。それでも自分の胸元くらいまでもある大きな絵だ。
「・・・・」
男児を欲しがった父親にはよく、お前はじつは男の子なんだっと冗談めかして言いながら剣や乗馬を教えてくれていた。母親は自分の美しさと父親の愛にしか興味なかったので、殆ど愛情が無かった気がする。
「ただいま。父上。・・・今日も一日よく働いた!私えらい!」
そう自分に言い聞かせてミシェルの一日は終わる。