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28 茨

 冬が深まった。

 一年の中で最も昼が短い日のことだ。

 この日は、ロズグラシアでは悪魔が闊歩する日と信じられている。多くの者が教会で祈りを捧げる。そして夜は悪魔から身を守るため、火を絶やさないようにする。

 昔は質素に執り行われていたようだが、今では祭りとして豪華な食事が振る舞われるのが普通だ。

 他国でも、この日は祭りが行われる。

 ルシーナと兄王子たち、そしてヘイゼルは王宮の一室に会していた。

 暖炉で火がはぜる。外は昼なのにほの暗く、凍るような空気だ。

「変な夢だったのです。レンデーラ神だと思いますが、石像があるのです。その足元から、茨が、あれよという間に石像に絡みつき、トゲが刺さり、石像にヒビが入るのです。そのヒビから石像が腐っていくところで目が覚めました」

 ルシーナが伏し目がちに話す。兄王子たちは困惑顔だ。

 レンデーラ神はロズグラシア王国の暗喩か。ならば、その石像にヒビが入るということは、王国の危機ではないのか。そしてその茨は何者なのか。

 不安だけが募る。

 分かった、と口を開いたのは第一王子イライアスだった。

「国境警備の増員を考える。物資を整えよう。ルシーナ、よく知らせてくれた」

 部屋の空気が、少しだけほぐれた。

「抽象的ではあるけども、前よりはずいぶんと先見の力も強くなっているみたいだね。偉いよ、ルシーナ」

 第二王子アルモンドが微笑みかける。

「そうそう、王宮に来てからルシーナはずっと頑張っているのだから。ご褒美に、何でもあげよう。何がいい?新しいドレスは?宝石がいいかな。一流のシェフに作らせたお菓子はどう?」

 第三王子エリオットが尋ねる。

 そうだそうだと、兄王子たちが賛同する。

 ルシーナは困って笑った。ドレスは今夜のために新調したばかりだ。お菓子は魅力的だが、王宮に来てから太った気がする。

 そういえば、とアルモンドは置いてきぼりにされているヘイゼルを振り向いた。

「ヘイゼル、調べものの結果がどうとか言ってたけど」

 突如話を振られ、ヘイゼルが戸惑う。小さく咳払いして、ヘイゼルは口を開いた。

「実は、ベルガエの騎士のリアム・ハットバートについて推測ながらも分かったことがあります。どこの誰かは分かりませんでしたが、彼の出自のようなものでしょうか」

 古ぼけた本を開き、彼はテーブルにそれを置いた。

「ロズグラシア王国の前身、グレンデール王国の時代のことです。とある戦争の際、一人の下級貴族が武功を立てました。戦後、王家はその貴族の娘を王子の一人と結婚させます。二人には子どもも生まれました。その貴族自身は一代限りの地位を与えられ、執政に携わったようです。しかし欲目からか、彼は不正を働き私財を蓄え、遂には私兵を拡大し、王家にとって不穏な動きを見せます。それが露見し、娘とその子どもたちも含め、一族は追放されました。その追放には、クランバート家が王家の剣として尽力しました」

 ヘイゼルは、リアム・ハットバートが個人的にクランバート家を恨んでいるのではないかという話をした。

「ただの逆恨みじゃないか」

 エリオットが呟く。

「彼が先祖の話をどのように聞いてきたのかは分かりません。クランバート家が地位を守るため、企み、王家の血が混じった子どもでさえも追い落としたと思っていれば、簡単に説明がつきます」

 いつだって、話は都合よく曲げられる。

 この話はあくまで推測でしかないが、これ以上記録は残っていない。ヘイゼルは屋敷の本を全て漁ってみたのだ。

「追放された者たちが今どうしているのか、そこまでは分かりませんでした」

 一番知りたいことだが、仕方ない。

 イライアスは眉間にしわを寄せ、呟いた。

「雪解けとともに、いや、明日にでも事態が変わるかもしれない」

 王子たちの目つきが険しくなった。

 きっと、近いうちにまた争いが起こる。

 不穏な足音が、すぐそこまで聞こえるようだ。

 万一にもそうなれば、ルシーナは神官として務めを果たさねばならない。

 もっと力を強くーー兄王子たちの視線がルシーナに集まる。

 それに気づいて、ルシーナは緊張した。そして、焦りを覚える。

「大丈夫だ」

 イライアスが言う。

「家族のことは、必ず守る」

 兄王子たちが微笑む。

 その微笑みに、強ばりが緩む。

 外は黒雲がたちこめ、党の隙間を風が唸り声をあげて駆け抜ける。

 まるで、未来を暗示しているかのようだった。

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