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24 黄色い罠 2

 レネートモンドでは何事もなく、ルシーナたちは無事にロズグラシアとの国境を越えた。わずか三日の滞在だったが、ルシーナはとても満足したようだ。キイロカエデの他にも、鏡のように景色が映る湖やレネートモンドの美術品が紹介された。ヘイゼルはアレクシスの言葉が気掛かりでならなかったが、ルシーナに余計な心配をかけまいと顔に出さないようにしていた。

 彼らは王都に向かう途中、ある街に泊まった。レネートモンドに程近く、レネートモンドとの交易が盛んな街だ。

「明日は鉄道に乗り換えて、王都には日暮れ頃には到着できるだろう」

 街の中心部にこの街の領主の持ち家がある。彼らはそこを借りていた。その一室でヘイゼルは部下のモルトン少尉に話しかけた。

「それにしても、ルシーナ様のあの夢は一体何を暗示していたのでしょうな。何事もないに越したことはありませんが」

 キイロカエデが散るなか、白い馬が捕らえられるというあの夢。用心して警備を強めたために、敵が何もしてこなかったのかもしれない。


 そのまま何事もなく、彼らは翌日、予定通り日が沈む前に王都に着いた。ルシーナは自室でのんびりとしている。一方でヘイゼルは不安が募る中、イライアスやアルモンド、エリオットたちにアレクシスの言葉を相談していた。

「だめだだめだ!ルシーナをレネートモンドにやるなんて、冗談じゃない!ましてやあんな男になど、嫁にやれるか!」

 イライアスはそう言った。

「だいたいルシーナは神官だろう。神官はロズグラシア王国に尽くす者だ。国外に嫁に出るなど先例もない!」

 アルモンドまでも声を荒げた。それをエリオットがなだめる。

「お二人とも興奮しすぎです。なにもまだ決まったわけではありませんし、ヘイゼルだって、一武官の身でアレクシス殿に答えられるわけがないではありませんか。これは我々王族が答えるべきなのです」

 三人の王子たちはアレクシスの言葉に憤っていた。この一件は王室と王宮を取り仕切る宮務省が預かることとなった。ほんの少しざわつく心に不快感と疑問を抱きながらも、ヘイゼルはそこを後にした。

 夜遅く、ヘイゼルは王宮の人目につかないところで、ルシーナ付きの侍女に会っていた。彼女の名前はロザリィ・ブレムナーという。ヘイゼルとは幼馴染であり、ルシーナや王族に関することをよく情報交換している。王家を守るという目的のためにも必要なことだった。

 曇った夜で、月明かりはない。王宮の窓から洩れる光が唯一の光源だ。暗い中、二人は壁を背にして同じ方向を向いて立っていた。

「こちらに戻ってきてから、ルシーナ様にお変わりはないか」

「ええ、久しぶりに王宮の外に出られてお疲れになったようだけれどね」

 そうか、とヘイゼルが呟く。口元に手を当てて、彼はアレクシスの言葉を反芻していた。ねえ、とロザリィが呼び掛ける。

「一体何を気にしているの。さっきからあなたらしくもないわ。落ち着きもないし、ほら、今だって目が泳いでる。レネートモンドで何かあったの。まさかまた、ベルガエの騎士がルシーナ様を狙ってるとか…」

 そういうのとは違うんだ、とヘイゼルが遮った。実は、と彼はアレクシスの言葉を告げた。予想通り、ロザリィは大変驚いたようだった。

「ルシーナ様は何もおっしゃってなかったわ」

「王子の話では、殿下は言葉の真意にお気づきでないらしい。この件は宮務省が預かることになったが、殿下が内心何かお考えではと思うと…」

 彼は目を伏せた。その様子を横目に見ながら、どうかしらねと彼女は呟いた。ルシーナ様は本当にお気づきではないご様子だしと付け加える。

「あなたこそそんなに深刻な顔をして、何が不安なの。宮務省が預かったところで、神官が国外に出た試しはないんだから、ルシーナ様がレネートモンドへ行かれることはないわ」

 不安などない、とヘイゼルは主張した。あるとロザリィが主張する。

「当ててあげるわ。あなたはルシーナ様のことを好きなんでしょう。だからアレクシス王子がルシーナ様をお好きだと分かって、悔しがっているのよ」

「私が殿下を好いていると?馬鹿を言うなロザリィ、殿下を守るのが近衛部隊の役目だ。ルシーナ殿下を命懸けでお守りするのも、全ては役目のためだ。好きだからなどと、ただの私欲になるじゃないか!」

「だから、命懸けでお守りするうちに、恋と錯覚しているのでなくて?」

 ならアルモンド様はとヘイゼルが口調を強める。アルモンド様は男性じゃないのとロザリィは返した。

「とにかく違う!断じて違う!」

 話は終わりと言わんばかりに、ヘイゼルは歩き出した。

「ちょっと、先程の一件はルシーナ様のお耳に入れて構わないの?」

 少し不機嫌そうなロザリィが尋ねる。構わないとだけヘイゼルは答え、彼は足早にそこを去っていった。

「ふざけるな、ロザリィのやつ、勝手ばかり言って…」

 ヘイゼルが独り言を言う。全くの見当外れだ。王女はあくまでも警護の対象であり、決して色恋の対象と見たことはない。それに、ヘイゼルは今まで仕事一筋であり、家を国を守ることにだけ邁進してきたようなものだ。どうせいずれは適当な貴族の娘をあてがわれるものだと思い、色恋になど興味もない。王女はあくまでも神官であり、役目として守るべき対象だ。

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