第八話 魔法
ジュピターワームってのは基本的に素人が相手に出来る魔物じゃないらしい。
想像するだけで恐ろしい。
こいつらは、そんな物騒な魔物でも余裕だそうだ。
ジェフとアカネは無理らしい。
非戦闘員とか言ってたしね。
ショ○カーではないらしい。
モリスは別に相手に出来るし、倒せるけど時間かかるっぽい。
ソルダット、ホワイト、セレシアの三人に関しては余裕との事だ。
ていうか、セレシアも余裕ってどういう事よ。
こいつらはユニオンとかいう、何でも屋チックな組織に所属しているという話だったが、聞いてみたところによると、魔物討伐なんていうのが結構多いらしい。
そしてユニオンに所属しているものを総合して『サーチャー』という。
もともと大昔のユニオンでは出現者の保護を積極的に行っていて、まるで出現者をサーチしてるみたいだからサーチャーと呼ばれるようになったのだとか。
今では何でも屋のサーチャーだが、やはり彼らの憧れは強大な魔物を倒すことらしい。
雑務系の依頼なんかもあるが、討伐系の仕事はユニオンの中でも花形なのだそうだ。
まあそうだよな。
近隣の民を恐怖に陥れている巨大なモンスター。
そいつの首を持って颯爽と凱旋するおれ。
おれ とったどぉぉぉぉー!
民 ウオオオォォォォォォォオ!!!
もう英雄扱いなんだろうな。
おれも男だ。
男として、そういうのには憧れてしまう。
もし鍛錬したら、おれもそういう感じになれるのだろうか。
ジュピターワームの話を聞いて尻込みしているようじゃ厳しいか。
こいつらは余裕とか言ってたし。
だが、こいつらの話では、鍛えればある程度は強くなれるという。
どれだけ強くなれるかは、そいつの魂の素質ってのが重要だとか。
「で、魂の素質って一体なんなんだ?」
「そうっすねー、才能って言ったらいいんすかね?」
「モリスにしてはなかなか良い例えだな。要点は得てるぞ」
モリスはジェフに賞賛をもらって嬉しそうにしてた。
「例えば、こいつらだが……
ソルダットとホワイトは身体系の能力に特化した魂を持ってる。
だから、こいつらが身体系の能力を鍛えようとするなら、モリスとかと違って格段に効率がいい。」
ほう。
才能ね。
魂の素質とかそんな厨二な言い回しにしなくていいだろう。
ま、呼び方なんて文化とか習慣とかみたいなモノだしな。
みんなそう呼んでるなら別にいいか。
身体系の素質を持ってるのは、この中ではこの二人か。
「そしたら他の連中は何なんだ?」
「アカネは魔法の素質がある」
おれは驚いた。
異世界には魔法とかありそうだなと予想していたが、実際にあるらしい。
マジか……
「魔法か……」
「どうした?」
「いやー、アカネも立派な異世界人になったんだなーと思って」
「……?」
最後に会ってから今年でもう七年目だもんな…
おれの言葉にアカネは首を傾げていたが、ジェフは説明を再開させた。
「それで魔法ってのは……」
魔法には日常生活で使える生活魔法、戦闘などに使われる攻撃魔法、怪我や病気を直す治癒魔法の三つに分かれているそうだ。
生活魔法はほとんどの人間がある程度使えるらしい。
小さな火を起こしたり、飲み水を出したり、風を起こして部屋を換気したりと、その名の通り生活に密着した使い方がメインだ。
これらを応用すれば、水の温度を調節して温水にしたり冷水にしたりできる。
さらに冬になると、暖炉の他に温風を起こして部屋を暖めたりもする。
一通り聞いてみたところ、相当便利なものだという事がわかった。
科学技術もそんなに発達してないのは、この生活魔法の便利さのせいなのかも知れない。
シャワーが浴びたかったら温水を出せばいいし、髪が乾かしたかったら温風をだせばいい。
人は必要性がなければ新たなものへの探究心は廃れるってことか。
確かに頷ける話だな。
残りの二つは素質に大きく左右されるらしく、素質の無いヤツは使えない。
例えば攻撃魔法。
攻撃魔法というのは生活魔法の規模を馬鹿デカくして、戦闘用に改良されたものだ。
生活魔法で火を起こすのも、攻撃魔法で火炎放射をかますのも、要は同じ『火』を使っているだけで規模の違いらしい。
素質の無いヤツがいくら頑張ったところでロウソクから松明くらいのアップグレードしか出来ない。
規模が大きくなればなるほど体力も消耗するんだそうだ。
ただ体力と言ってもちょっと違うらしく、魔法を使いすぎると頭がふらふらして、思考機能がまともに働かなくなるそうだ。
「ということなので、それは体力とは呼ばず……」
「魔力という!(ドヤッ)」
「なんだ、知っているのか?」
「うん。ゲームの知識ね」
「ゲーム? まあ魔力ってのはそんなもんだ」
魔力が多ければ多いほど魔法の素質は高いという事らしい。
それで魔法の素質が無ければ、戦闘魔法に必要な魔力を捻出する事が困難だそうだ。
そりぁそうさな。
ライターみたいな火を出すのと、火炎放射器並みの火を出すのじゃ燃料の消費量が桁違いだもんな。
エネルギー保存の法則に則ってる話だ。
そしてすべての魔法に共通していえるのはイメージ。
生活魔法でも初めての場合は難しいが、イメージをつかめば意外と簡単に使えるらしい。
ラジオのチャンネル合わせ的な?
生活魔法以上になると、より繊細なイメージと魔力の放出が必要になってくる。
「まあ攻撃魔法はボクも出来ないから教えられないが、生活魔法くらいなら練習すれば出来るようになるだろうな。
ちょっと試してみたらどうだ?」
本当かジェフ!?
やってみたい!
「どうやるんだ?」
「イメージだ。指先に小さな火が灯るのを想像するんだ」
……ボッ
「……っうわ!」
ジェフの指先から小さな火が出て、ゆらゆら揺れている。
す、すげー!
トライしてみることにする。
「……」
今気づいた。
魔力ってどう出すんだろう?
「どうした?」
「魔力ってどう出すの?」
「これもイメージだが、胸辺りに魔力があると思ってみろ」
「?」
「イメージできたら、その魔力をゆっくり移動させて右手に集めるんだ。
魔力の流れをイメージできたら、今度は火をイメージする。
自分の体から出てくるっていうイメージが重要だ」
「ほーい………っうお!」
言われた通りにしたら、ものすごくあっさり出来てしまった。
すごい!
おれの指から火が出てる!
なるほど、本当にイメージだな!
魔力がどうこうっていう実感は全くなかった。
こりゃすげーな!
……え?
……つーかこの火熱くない?
今更気づいたが火が出続けてる指が全く熱を感じていない。
「なあ、この火熱くないんだけど?」
……ん?
みんなポカンとしている。
え?
なに、おれやっちゃった?
さっきジェフも簡単とか言ってなかった?
「……まさか出現してから一日でできるとは……」
ソルダットが驚いた顔をしながら呟いた。
おっけ、わかった。
これおれの才能ね。
チートの匂いですわ、コレ。
「オーマイガ……すげえな……」
あのホワイトですらこの反応。
こりゃおれのジョブ決定なんじゃないっすかー?
「そ、その火、大きくできる?」
アカネも少し動揺してるみたいだ。
「多分簡単に出来ると思う。やってみるよ」
クールに言い放った。
おれの言葉を聞くと、みんな期待した目でおれを見てきた。
ここはおれのかっこいいところ見せてやろう。
よしっ!!
イメージする。
魔力がおれの右手に集まる。
一気に集結した魔力は右手の中を目紛しく駆け巡る。
そして大きな火の玉をイメージ。
「ハアァァァァァァ!!」
シュウゥゥゥゥゥ……
火が消えた。
「や、やっぱり大きくするのはまだ難しいよね!」
アカネの回りくどいドンマイにおれは撃沈した。
「そ、そうだな!」
「ワーハハハハハハ!」
カッコつけなきゃよかった。
ホワイトとモリスとセレシアは大爆笑だった。
ジェフは笑ってはいないが、下を向いて肩を振るわせている。
……くそう。
笑いが収まると魔法講座が再開された。
熱くないのは自分の魔法は自分に害を成さないから、といういい加減な理論があるということだった。
火出して自分の火でやけどとか目も当てられないしね。
みんなによると、おれには魔法の素質がいくらかあるらしい。
普通は一日二日で魔法を使えるようにはならないようだが、素質の高い者は魔法が使えるようになると、直ぐに応用を出来るようになるらしい。
つまり、おれの成績は可も無く不可も無くってところだろう。
ただし出現してから難なく一発で使えるようになったのを考えれば、もしかしたかなり高い素質を持ってるかもしれないという。
ただ素質があれば攻撃魔法も治癒魔法も両方使えるというものでもないという。
治癒魔法は攻撃魔法と違い、規模を大きくすれば出来るというわけではないそうだ。
要は繊細さ。
繊細な魔力コントロールが出来なければ治癒魔法は何も治癒できない。
そこで不思議な顔をしたアカネが皆に問いかける。
「治癒魔法ってそんなに難しいかな?」