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不確定異世界トリップ  作者: 提灯鮟鱇
第二章 異世界での出会い
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第七話 食事と会話

 ブオォォォォォォォォ!!


 ブオオオォォォォォォォォ!!




 突然響き渡る爆音。

 おれは驚いて目を開けた。


 目の前には丸いブラス製の筒がおれの目の前に二つ並んでいた。


「先輩、起きないっすね」

「おっしゃ、もっかい!」


 ブオオオォォォォォォ!!


「うるせえ!!」

「ブオォ?」


 起こしてくれはと言ったが、何で普通に起こしてくれないんだろう。

 モリスとホワイトはゲラゲラ笑いながらハイタッチをしている。

 ぶっちゃけ爆音で起こされるのって一気に疲れるんだよね。

 睡眠で癒した疲れをもう一度引っ張りだされるみたいな?


 上体を起こして周りを見てみた。

 まだ明るい。おそらく昼を少し回ったくらいだろうか。

 馬車は止まっているようだ。

 ベッドにはすでにジェフとソルダットの姿はなかった。

ふう。

 寝たりない感じがする。

 二度寝するつもりはないが、もう一度だけ横になった。

 だるいな。


「二度寝か?

 一回起こしたんだからもう起こさねえからな! ハハハハハ!」


 外から話し声と楽器の音が聞こえてくる。

 モリスとホワイトは持ってたラッパをジェフが寝てたベッドの上に放り投げて、再び寝そべったおれの頭を跨いで外に出てった。

 頭上を彼らの靴が通過する際、砂がおれの顔に落ちてきた。

 ぺっぺっ!

 おれは馬車の後ろの出口あたりを頭にして寝てたから、ポジション的に仕方ないとはいえ、人の頭を跨ぐなよ。

 おれはのそっと起き上がり、手で顔に落ちた砂を払う。


 外に出てみると、ソルダットは地面に折り畳み椅子みたいなのを広げてギターを弾いていた。

 管楽器とか打楽器系いいとして、ギターってこの世界でもあるんだ。

 ソルダット意外に上手。


 セレシアは腕を組んで、地面に向かって何やらごにょごにょ言っていた。

 何してるんだ?

 まさか痛い子だったのか?


 さっき出て行ったモリスは、何やら怪しい壷の中から野菜みたいなものを取り出している。

 それを横に置かれた木の箱の上でトントンとリズミカルに刻んでいた。

 なるほど、簡易的な調理台か。

 彼は手慣れた手つきで、刻んだものを木のお椀に入れてる。


 物知り少年のジェフは、たき火の上に吊るされた鍋をかき回してながら、ホワイトと何か喋っている。

 たき火の上に木の棒で作った支柱があり、鍋はそこに吊るされている。

 野外炊飯か……なんか良いな。


 アカネは草を馬に与えてる。

 荒野にポツポツと生えてるヤツだ。

 草は結構な量だった。

 これだけ集めるのはとても大変そうだな。


 アカネを見て、さっきまでのやり取りを思い出した。

 先ほどのおれはアカネとのタメ口条約を結んだ。

 というより、結ばせた。


 その前にもなんかあったような……


 あー、そうだ。

 アクシデントからのアカネの水色パンツ……

 思い出したら、なんだか恥ずかしくなってしまった。

 今はアカネにはノータッチで行こう。


 モリスが木のお椀と木のスプーンを持ってやってきた。

「出来たっす! 飯にしましょう!」


 お椀の中は刻んだネギみたいなのと、酒粕みたいな匂いのする黄色い固形物(たくあんを細かく刻んだみたいなヤツ)が入ってた。

 でもお椀の三分の一も入ってない。

 え?

 飯ってまさかこんな感じ?

 ちょ、粗末すぎるっしょ。


「早く来いよ」


 ジェフが鍋をかき混ぜながら言う。


「これを入れてから混ぜて食うんだよ」


 まあそうだよな。

 これだけとかないよな。


 でも二品あると思ってたんだが、混ぜて食うってことは一品か。

 荒野の旅の飯はこんなもんか。

 贅沢は出来ないわな。


「もぐもぐ! 結構おいしいのよ!」


 いつの間にかセレシアが地面に腰を下ろして食い始めてた。

 ジェフとホワイトは腰掛けに座ってるのに、セレシア地面って……綺麗な御べべが汚れちゃうぞ。




「アカネさーん! 出来ましたよー!」


 モリスがお椀を持ってアカネの方に向かう。

 なるほど、モリスは飯当番なのか。




 おれはジェフのところまで行くとお椀にスープを注いでもらった。

 スープってかお粥っぽい感じだ。

 見た目はクリームシチューだな。

 白いトロトロのスープはジャガイモ的なごろっとした具材と、ニンジン的な赤い根菜と一緒に煮込まれていた。

 具材は結構ゴロゴロ入っている。


「下の薬味と混ぜて食べろ。じゃないと味が薄いからな」

 

 薄味か。

 試しに注いだばかりのスープをかき混ぜずに飲んでみた。

 プレーンの味も味わわないとね。


 うーん……

 正直そんなにうまくない。

 味が薄い。

 病院の飯でももうちょっとうまい気がするな。


「へえ、薄味なんだな」

「だから混ぜろってば。お前は僕の話を聞いていたのか?」

 

 言われた通りにしてみる。


 そしたらびっくり!

 めちゃくちゃうまくなった!


 なんだろう?

 あの酒粕みたいな匂いがするヤツがこの味を出してるのか?

 なんというか、洋食風なんだけどオリエンタルな味わい。

 具のジャガイモみたいなのは、ほくほくで口の中でくずれた。

 っていうか、まるっきりジャガイモだった。

 異世界にもジャガイモあるんだな。

 

「なあ、これって何て言うんだ?」


 気になったので聞いてみる。

 言語は勝手に異世界語を喋れてるとはいえ、流石に固有名詞は違うだろう。

 カンクエッド王国とかサヤバーン地方とかわけわからん名前出てきたもんな。

 きっと名前は違うだろう。

 そんなまるっきり地球と同じ名前だったら異世界感ゼロだし。


 ジェフ少年はもぐもぐはふはふしながら喋った。


「はふはふ! ほへはははいほあ」

「ほへはははいほあ? 変な名前だな」

「もぐもぐ…ごくっ、食ってる時に聞くなよ。

 話づらいだろうが、まったく。

 それはジャガイモってやつだ。……はむっ! もぐもぐ」


 なんと!

 同じ名前だった!

 これは偶然!


「へえ、おれのいた世界でもジャガイモって呼ばれてたぞ。

 じゃあこっちはもしかしてニンジンか?」

「もぐもぐ、ほふは。……ごっくん、そうだ」


 マジでそうなのか!

 これはすごい!


 ……でもここまで同じだと何だか奇妙だな。

 このゲートワールドでも固有名詞が地球と同じっぽい。

 もしかしたら、勝手に喋れてる異世界語と何か関係があるのかもしれない。


「というか、なんで知ってんだ? それも魂の記憶か?」


 ギターを弾き終わったソルダットが自分のスープをよそいながら聞いてきた。

 その横ではモリスとアカネが木製の腰掛けに腰を下ろして食べ始めた。


「ああ、おれは元の世界でこのジャガイモをよく食ったもんだ。

 マッ○に行ったらポテトは必ずLサイズ注文してたし」

「マ○ク? 食堂の名前か?」

「ああ、世界最大のな。世界中何万店舗もある」


 ソルダットはふむ、そんなにあるのか、とか言いながらスープをすすり始めた。


 しかしソルダットの淡々とした感じとは対照的に、ジェフ少年は目を見開いて反応した。

「もぐもぐ、ふごひな!(すごいな!)」



 今思ったんだが、ジェフは食いしん坊キャラなのか?

 

「ごっくん、おほん!

 しかしながら、お前の記憶はすごいな。

 そんな詳細なところまで覚えているのか。

 その様子だと本当に賢者かもしれないな」

「ハハハ! 賢者だったら本当にスゲーぜ!」


「賢者! すごいわね!

 あ! そういえば、わたしあんたの名前知らないわ!」

 

 おっと、そうだ。

 セレシアが指摘しなかったら全く忘れてた。


 おれの自己紹介は全くしてなかった。

 こいつらの名前は覚えたけど、こいつらおれの名前知らないままだ。

 昨日の晩にジェフとソルダットと語ってた時、過去の話でちょいちょい自分の名前出したから油断してた。


「ああ、そうだったな。

 おれの名前は山田シゲルだ。

 なぜかはわからんが記憶を持ってこっちに出てきた。

 だから突然変な事を言い出すかも知れないが、それはおれの過去関係の事だと思ってくれ」


 みんな揃ってはーいって締まりのない返事が返ってきた。


「おれ自身は過去の事が鮮明なので、どうもこっちに飛ばされてきたって感覚がある。

 だから、もし出来たら帰りたいんだがジェフとソルダットの言うには、そんな方法はないそうだ。

 でもおれは諦めたくない」


「……これからこの世界の事について色々聞いて自分で調べて、帰れるように努力しようと思う。

 でも実際のところ、そんなに簡単な話じゃないと思ってる。

 記憶を持ってるヤツがいたら、一緒に協力して調べたり出来るかもしれないけど、そういう奴らってかなり少ないって話しだし、そいつらが帰還方法を考えてるって保証もない。

 最低でも次の街まで一緒に行かせてもらうよ」



 そうそう、まだこの世界についてレクチャーされてなかった。

 そっちの方が大切だ。

 これからの事を考えなくてはならないし。


「そんなことよりこの世界の話の続きを頼む」


 そう言いながら、二杯目をよそおうとしたら鍋はすでに空っぽだった。

 ……まさか一杯だけ?


 ソルダットが、おれを見て肩をすくめてみせた。


「おう、悪いなシゲル。食料が足りなそうだから節約してるんだ」

「こいつのせいでね!」


 さっきまで黙っていたアカネが、ギロリをホワイトを睨んだ。

 そのホワイトというと、もういいだろーと顔に固い笑みを貼付けた。

 

「まさかこんな何にもない場所で、ジュピターワームが出てくるなんて思わねーじゃん?

 咄嗟に手元にあったもん投げたら、それが食料袋だったんだな! ハッハッハ!」

「いやー、ホワイト先輩のせいで空腹の旅ってのもキツいっすけどねー!」


 どうやらホワイトのせいで食料が足りないらしい。

 てか多分おれのせいで一人分消費量が増えたよな。

 ちょっと責任を感じる。


 ……てか、今の会話、何か変な単語が出てきたな…



「ジュピターワームぐらいお前なら撃退出来るだろうが。なんでダミーシュートなんだよ?」


 ジェフは食い終わったようで、口の周りをシャツの袖でゴシゴシ乱暴に拭いながらホワイトに問いかけた。


「ガハハハハ! おりゃあの見た目が気持ち悪くて近づきたくねーんだよ!」

「それにしたって、撃退するならソルダットもセレシアもモリスもいるだろ?

 ぼくも腹ぺこは勘弁願いたかったな。」

「しょうがねーだろ、ありゃおれの生理反応だ! 条件反射だ! フハハハ!」


 ジュピターワーム?

 なんだそりゃ?

 もしかして、異世界には付き物のモンスターさん?


「ジェフ少年、質問だ」

「なんだよ?」

「ジュピターワームってなんだ?」


 するとジェフは当たり前なことのように答えた。


「魔物だ。でかいミミズだよ」


 魔物!

 いんのかよ!

 いない事を願っていたんだがな。

 うわー、すげー異世界っぽくなってきたじゃん。

 てか、この世界の話を聞くにも、こういう風に手当たり次第聞いて行くのが良いのかも知れないな。


「えっと、そのジュピターワームってやつは危ないの?」

「まあ、こいつらは平気だけど、僕とかアカネみたいな非戦闘員は危ないな」


 非戦闘員って……

 じゃあジェフとアカネ以外は戦闘員なん?


「ちなみに、お前も扉から出てきたばかりで何も出来ないから非戦闘員だな」

「待った。そのなんとかワーム出てきたら戦わないとマズい感じ?」


 おれの同様を察したのか、ソルダットが口を開く。


「お前は戦わなくていいぞ。

 普段はそんなに出ないけど、出たらおれらが何とかするから大丈夫だ」


 何だか頼もしい。


 この後ソルダット教えてくれたが、この世界には普通に魔物がいるらしい。

 人里の近くは割と安全で、離れると魔物との遭遇率が高くなるらしい。

 ゲームの世界みたいだな。



 ちなみに魔物の危険度は最低ランクのFから最も危険とされてるSSSランクまでいるらしい。

 SSSって……

 

 ジュピターワームは危険度Cクラスの魔物だ。

 全長は約八メートルから十メートルほど。

 デカい図体の割に動きが俊敏で、頭には大きな口があり、その周りには口腔内に獲物を押し込むための鋭い牙がびっしり並んでる。

 表皮は鮫肌のようにザラザラで、なまくらな刃物では傷すら与えられないそうだ。

 こいつが高速でのたうち回る際は、気をつけなければ腕でも脚でも簡単に持って行かれるらしい。



 めっちゃ危ないじゃん。

 それを余裕ってこいつら実はめっちゃ強いんじゃないか……?



「一発でしとめられるわ! あんなのザコよ!」


 セレシアが何か物騒な事を口走った気がした。

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※本作品は全編改稿を経て『死んでないおれの不確定な死亡説(仮)』になりました。

今までのご愛顧、心より御礼申し上げます!
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