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ウエストダーレン中央区。
中央区は、比較的機械化が進んだ近代地区で、町の栄えを象徴するかのように日夜人の往来で騒がしい。街はオフィスビルや高級商品店、大手レディエス社が立ち並んでいる。お金に余裕のある大人達のデートスポットとして人気だそうだ。 学生を卒業したばかりの俺には少し居心地が悪い。
ふと街中の設置テレビに目をやると、抑揚のない声でニュースを読み上げるアナウンサーが目に留まった。
「ネクスト社が新型機の試見会を開くそうだとよ」
「それ、朝一のニュースでやってたわ」
「情報通ですね」
「あんたが遅すぎるのっ」
ポニーテールに、似合わないスーツを着たミサキが睨んでくる。反射的に、俺はミサキから視線を外した。
「あんた自覚、足りないんじゃないの?」
また小言だ。それをいち早く察して話を逸らす。
「いこうぜ」
「はっ?」
「試見会」
「なんでいきなり?」
「だめか?」
「…わたし、バイトもあるし」
「試見会、一週間後だろ? 風邪でも何でも言って、いくらでも空けられるって」
「まぁいいけど…」
「じゃ、決まり」
「まったくもう」
とかいって、ミサキもまんざらでもなさそうだった。よかった。これで少しは気を紛らわせただろう。
「で、あんた今日のテスト、できたんでしょうねっ?」
紛らわせられなかった。
「す、スーツ姿かわいいなっ、ミサキっ!」
「あんた朝は、ぜんぜん似合ってないって言ってたよねっ?」
「それは…」
「ごまかそうたって、そうはいかないわよっ、テストの出来はどうなのっ?」
「ケーキ奢るからっ、ゆるしてっ」
「ケーキ!? あんたねぇっ、まぁ…ケーキは奢ってもらうんだけど…」
「もらうんかい!!」