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廃公園。
最近はめっきり暖かくなった。
春の木漏れ日が、木陰に金色のコインのような陽光を落としている。遠くで川が流れているのか、水のせせらぎが聞こえる。今は有象無象になっているが、管理されていた頃は綺麗な景観だったに違いない。
カーキ色のパーカーにユルユルの作業着のような格好で、彼女は絵を描いていた。しばしその姿に見とれてしまう。こうして遠くから眺めている分には、別に怖いとは感じない。普通の女の子だ。
彼女の隣に座る。
「よぉ」
「…………」
返事はない。
代わりに、彼女がチラリとこちらを見やった。
「またあんたかよ…、みたいな顔しないでよ」
「…………」
キーンッと鋭い音が鳴り響く。続けて突風が吹き抜ける。ザワリザワリと枝葉達が騒がしくなる。軍事用レディエスだ。
ちなみにパイロットテストは補欠で通過した。ミサキが、またもや遅刻してきた俺を見て「馬鹿じゃないの!?」と何度も怒鳴り散らしていたが。結局ミサキも合格していて、まぁそれで有耶無耶になった。
一週間後に、別の適性テストがあるそうだ。最終合格まで幾つもテストがあり、それをクリアしなければ晴れてLDSのパイロットになることは出来ない。一回目で補欠とか、俺は大丈夫だろうか。心配になる。
絵を描く彼女は、突風にさらわれた髪を必死に抑えていて、ちょっと笑ってしまった。笑ったら睨まれた。それにしても、黒髪なんて珍しい。
「絵、見してよ?」
「ヤダ」
「即答かよ」
「……」
「じゃあ、なまe」
「ヤダ」
「はえーよ」
「……ヤダ」
「フライングだよ」
「………」
キッと彼女が俺を睨む。絵筆が取り出された。
「うおっ、落ち着けっっ、分かったからっ、筆は駄目だっ、ワイシャツのクリーニング代がっ!」
「………」
「ふっふ、危ない危ない。これだけ距離を取れば…」
「………」
「ま、ちょっ、おまっ、落ち着けっ! パレットを投げるなぁ! うわっ、ぐはあっ!」
その日の夜、パレットがブーメランのように飛んでくる悪夢を見た。