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「あんた馬鹿じゃないのっ? 馬鹿なんでしょっ? 馬鹿っ!」
上空でV字型に編隊する飛行物体。
「ネクスト社製のジャベリンだぜ、見ろよミサキ」
「あんた死にたいの?」
「ごめんなさい」
窓から視線を外し、鬼の形相で「馬鹿」を連呼している本題の方に顔を向ける。今回の本題であるミサキはその道の達人かと思うほど一部の隙もなく、怒っていた。
「だいたい、適正テストに遅刻してくることが馬鹿なのよっ、私ちゃんとメールしたし、事前に場所の確認だってしたじゃないっ。しかも、朝あんたに電話までして起こしたでしょっ? どこに遅刻の要素があるのよっ!」
「わりぃ、二度寝」
ドンッと添え付きのテーブルに拳が振り下ろされた。「なんだ?」「どうした?」喫茶店内の視線が集まる。やべえよ。こえぇよ。
まぁまぁ、ミサキを宥め落ち着かせる。
「俺が悪かったって。近道しようとしたら迷ったんだ。ごめんな」
「ホントありえないっ」
「悪かったよ」
こうなってしまったら、ミサキは手がつけられない。平謝りするのが一番だ。
そうして、二十回もの「ごめん」を言うと、ようやくミサキは鬼から人間へと降格してきた。
「…もうほんと、馬鹿は変わらないんだから」
ミサキ。かれこれ十年近い付き合い。腐れ縁。基本プロフィールはそんな感じ。
今日は二人で、LDSパイロット訓練学校の適正テストを受けに行く予定だったのだが、ご察しの通り俺が遅刻。全面的に俺が悪い。ミサキの機嫌直しのためだ。少しくらい財布の紐を緩めよう。
「侘びだと思ってさ、なんか奢るから」
「ケーキ」
「太るぞ」
「ばっか、死ねっ!」
「ごめんなさい。死にたくないです」
「…パンケーキ」
「変えんのかよ」
「うっさい」
「じゃあ、俺はケーキで」
「死ねっ!」
彼女は理不尽だ。