前編
九月。残暑がまだ厳しい中、職業校であるこの高校では六割の三年生が就職を志望している。今はその人達が各先生達に面接練習のお願いをし、面接練習をしていた。
俺も三年生、進路は進学。音楽関係の仕事をしたい為、東京の専門学校を受けることにした。最初、親に大学行けとか言われたけど、どうしてもやりたい!と何度も何度も言った結果、今では仕方なく了解してくれた。
突然だが、俺はこの高校生活の間、ずっと好きな人がいる。
その子の名は同級生の坂倉 美夜さん。ロングヘアーで大人しい。成績は優秀で、常に学年TOP3に入る。生徒会では副会長を務める。
そんな坂倉さんを俺は初めて会った時、そう入学式から好きだった。何度も何度も坂倉さんに告白しようと試みたが、なかなか言えないまま今日まで来てしまった。
坂倉さんは常に学年トップ。その平均点は90超え。100点満点なんか何十回も取っている。そんな坂倉さんの進路は京都の超有名大学経済学部。
先程坂倉さんは大人しいと言ったが、こう見えて結構何でも積極的にする人で、クラスでは隠れた人気者。俺はそういう所に惚れてしまったのだ。
十月。就職する人達が次々と内定を貰う中、遂に進学者の試験は刻々と迫ってきた。俺らの高校で進学する人は殆どが公募制推薦。何故なら職業校と進学校じゃ勉強量が全然違う。だから一般試験なんか受かりっこないのだ。だから俺らには公募制推薦しか大学は行けないのだ。俺は大学など行ける頭では無い為、専門学校。その試験もあと二週間となった。
某日放課後、午後六時。俺は友達とゲームをしていた。
「よしっ怯んだ!攻撃攻撃!」
「わかってるって」
「おい、誰か爆弾持ってきた?」
「「いや」」
「持ってこいよバカッ」
俺ら三人がやっているのはモンスターを狩る携帯ゲーム。今回のモンスターはかなり手強く、勝率は10%未満という激ムズ。そこで三人でやっているわけだが、なかなか倒せない。
「あと10分だってよ」
画面に残り10分と表記された。
「おい、急ぐぞ!」
「わかってる!ってかおまえこそ隙を見て攻撃せいや!」
「俺は…弱いから見てるよ」
「んなの知るか!」
そんな事を言っている間に俺のキャラは死んでしまった。
「あぁー、死んじまったじゃねぇか」
「ったく」
二人の会話を聞きながらもう一人は言う。
で、結局…
「時間切れだぁ」
俺は天井を見ながら言う。
「こんだけやって涎すら垂らさないとか強すぎだろ」
茶髪で瞳が水色のコイツはアメリカ人の父と日本人の母から生まれたハーフの志原 滉大。分かりやすく言うとハーフバカって感じ…かな?
「まぁな。つか俺ら二人でやったからな」
「ちょちょちょ待てぇえええええいっ!俺も参加したじゃん!一緒に闘ったじゃん!ねぇ藤樹」
志原が俺に対して突っ込む。
「確かにこいつはほぼ参加してないな」
「藤樹ぃぃぃ」
「あんま虐めるな藤樹。志原が泣いちまうぞ」
「オイ、清水目ぇ。誰が泣いちまうだとぉ」
「ヤッベ、俺帰るわ。じゃあな藤樹」
「おぅ」
「こらっ、待たんか清水目ー!」
分かりやすく名前を付けるなら黒髪の爽やか高校生かな。名前は清水目 玲藍。まず最初に思ったのは名前覚えるのに時間がかかった事。苗字も名前も難しく、特に清水目なんか絶対読めない。本人も一発目で名前を読めた人はいないらしい。そんな清水目は清水目家第28代。お父さんは某電機メーカーの副社長。お母さんはファッション雑誌の編集長。その為、彼の家は超大豪邸。東京ドームの半分の土地を持ち、別荘が世界に三件ある。更にコイツは超イケメン。前、東京に遊びに行った時、色んな場所でスカウトされた経験を持つ。高校でも女子にモテモテ。男子から見たら羨ましい存在だ。
清水目は荷物を背負って教室を飛び出た。その後を志原が追う。
「ったくあいつ等は…」
あ、俺の名前を言うのを忘れてたね。俺の名前は藤樹 後。ごくごく普通の高校生。自分であれだけど名前を付けるなら……一般人。
「そんじゃあ、俺もそろそろ帰るか」
教室の電気を消し、校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下を歩く。
外を見ると真っ暗。街灯で照らされている枝葉が揺れている。これは寒そうだ。
階段を降りて北校舎三階。すると一室だけ電気が点いていた。こんな時間まで点いているとすれば恐らく生徒会室だ。多分そろそろ体育祭が始まるからその準備だろう。生徒会室は前にも言ったけど、北校舎三階の端、俺らがいる教室は南校舎四階。この学校は主に教室は南校舎。生物室、音楽室そしてコンピューター室などがあるのは今いる北校舎だ。この校舎は出来て30年近く経つ。なんせトイレを見れば一発で昔を感じる。例えば男子トイレは小便した後、ボタンを押して流すのが普通かと思うが、この校舎にそんな物はない。便器の上にタンクがあり、そこから一斉にその階にある便器に水が流れるのだ。大便は流石に一個ずつ流すのが付いている。
そんな事を話している間に一階に到着。靴に履き替え、スリッパを自分のロッカーに入れる。
「さみぃーーー」
玄関を開けると、外は予想以上に寒かった。
「駅まで行くのめんでぇなぁ」
手で反対側の腕を擦らしながら駅まで歩く。
駅に到着し、ホームの椅子に座る。
「早く電車来ないかなぁ」
風が異常な程強い。凍え死にそうだ。
「あれ?」
ふと右を見ると、坂倉さんが立っていた。
坂倉さん…やっぱり生徒会の仕事をしてたんだな。
暫く見ていると坂倉さんも前の俺のように、反対側の腕を掴んでいた。すると坂倉さんもこっちを見た。
「あっ」
「ふ、藤樹君!?」
互いに目と目が合った。
「坂倉さん。今日も生徒会の仕事?」
「う、うん」
「大変だね。こっちに来なよ、立ってると下から風が入って寒いよ?」
「そ、そうだね」
坂倉さんは俺の隣に座る。今駅に居るのは俺と坂倉さんだけだ。
「さ、坂倉さん大変だよね。進学もあれでしょ?○○大学だっけ?生徒会の仕事をしてて大丈夫なの?」
「…正直今、○○に行けるか分からない。勉強したいんだけど、でも生徒会の方もほっとけないから…」
「頑張り屋だね。サボっちゃえば?」
「だ、ダメだよ。あたし副会長だよ。副会長がサボっちゃ…」
「やっぱ真面目だね、坂倉さんは。でもたまには自分の事にも力入れた方がいいと思うよ。ま~こんなバカな俺が言う事でもないけどさ」
「……」
坂倉さんは下を向く。
「あーごめん。傷ついた?」
「ううん。心配してくれてありがとう」
「そういえば、今日何人で仕事してたの?」
「三人…かな」
「三人!?だって役員で就職で内定貰ったやつとかいるでしょ?」
「それがなかなか皆集まってくれなくて。きっとなんか忙しいんだよ」
「そんなわけない。あいつら今頃遊んでるって」
「でも…」
「最悪だよそいつら。俺で良かったら手伝おうか?」
「いいよ。藤樹くんだって進路で忙しいんでしょ?」
「ま、まぁね。でも受かったら手伝いに行くよ」
「ありがとう。でもその頃には終わってるから」
「そ、そうなの!?」
「うん、殆ど今仕上げに入ってるから」
「そもそも何作ってんの?」
「体育祭のアーチ作製」
「そっか。もうすぐ体育祭だもんね。結構かかったでしょ?」
「そんなかかってないよ。え~と確か…二週間くらいだったかな?」
「それかかってる!充分かかってる!」
「そうかなぁ?」
「そうだよ!」
その後も会話が続く。やっぱ好きな人と話すと楽しい。
「(メロディ)鷹江方面、電車が参ります。白線の内側までお下がりください」
「電車来たみたい。じゃああたしはここで」
「うん。また明日」
俺は坂倉さんと真逆の新田方面。電車がホームに到着し、ドアが開き、坂倉さんは入る。帰省ラッシュみたいで、多くの人が乗っていた。
プシュー
ドアが閉まり、電車は出発する。俺はその電車を見えなくなるまで見ていた。
翌日、SHR(朝の会)開始十秒前。
「ハッハッハッハッ…」
俺は階段を上がり、渡り廊下を歩く。
ガラガラガラ
キーンコーンカーンコーン
「ハァハァハァ…なんとか間に合ったぁ」
ドアに手を当て、呼吸を整える俺。
「間に合ったじゃない!はよ席に着け!」
顔を上げると、老眼鏡かけた50代後半位の担任の江島先生が俺に注意した。
「はぁい」
俺は一番後ろの窓側の席に着く。
「礼」
当番の人が言い、皆着席する。
「おまえ、たまには早く来いよ」
「るっせぇ、朝早く起きれねぇんだよ」
顔を机に着け、隣に座っている志原に小声で言う。
「それじゃあ今日の欠席者は…坂倉は風邪で休みだ」
珍しい…坂倉さんが休みなんて。
そんな事を思いながら荒い息を鎮める。
一時限目は数学。数学の今年来た25くらいの若い女の先生、桐林先生が何やらプリントを持って教室に入ってきた。
「それでは今日はテスト一週間前なので小テストを行います」
「「「えーーーー」」」
皆が同じ言葉を言う。
「えーじゃないの。ほら後ろに回して」
先生は一番前の人にプリントを配る。
俺の所にもプリントが配られた。表裏ビッシリと問題が書かれていた。
「これを解けば本番八割はいけます。終了十分前に解答用紙を配るからそれまで頑張って下さい。教科書とか見ても構わないから。それでは始めっ」
皆一斉に書き始める。その後、先生は教室を退出した。
十分後。ずっと問題を解いていた俺は辺りを見回す。
「うわぁ~殆どの奴寝てるし」
一番後ろの席からはよく見える。三割くらいの奴が明らかに寝てる。しかも全員就職内定者。そして隣の志原も。志原は整体師関係の専門学校を既に合格…というか書類提出で受かったんだけどね。
「決まったからって寝んのかよぉ」
決まってない俺にとっちゃあ何故かこういう小テストでも寝てはいられない。一問一問正確に解いていく。
「終わったぁ」
解答が配られる四分前に全ての問題を解け終えた。
時間になり、先生が解答を配る。教科書等を見たからもあって一問だけ不正解だった。いつも平均点な俺にとっては上出来だ。まっ、教科書見たから高いに決まってるか。
「コイツまだ寝てやがる」
にしても隣の志原は夢の世界へ入ったようだ。本当に呑気な奴だコイツは。
一時限目が終わり、二時限目は体育。男子が徐々に出る中、志原はまだ寝ていた。これは流石に起こさないと。
「おい、志原。起きろ!」
「ムニャムニャ…パフェが食べたい…」
パフェ!?駄目だこりゃ。
「どうしたの?」
話しかけてきたのはショートカットでスポーツ万能の巨乳なクラスメートの真留 芽吹が言う。元女子卓球部部長で全国大会に出場した事がある。
「あぁ真留さん。コイツがさぁ、見ての通り、爆睡しちゃってさ…」
「こんなクソゲーほっとけば?」
「クソゲー……ね」
クソゲーとは勿論志原の事。理由は毎日のようにエロゲーだの18禁ゲームを教室でやっているからだ。何せ休みの日は睡眠時間を削ってまでやるというある意味気持ち悪い奴。その事を俺ら男子が広げた結果、殆どの女子が志原の事を「クソゲー」と陰で呼ぶようになった。
「そうか?じゃあそうするわ。寝てるコイツが悪いんだし」
「そうそう。まぁ着替えてる最中に起きたらぶっ殺すけどね」
真留の目付きが肉食動物が獲物を捕らえるような目に豹変した。
うわぁ目が怖ぇ~
俺はさっさと教室を出て、男子の着替え室である武道場へと向かった。
「ムニャムニャ…ン?」
志原が目を覚ました。
「テスト終わったぁ~ってあれ?」
志原の目の先には女子が着替えてる最中だった。
「「「キャアァァァァァァ!!!!!」」」
女子の声が志原の鼓膜にガンガン伝わる。
「クソゲー、何してのぉ?」
既に運動着に着替えた真留が指をボキボキ鳴らしながら言う。
「えっ、ななな何?どうなってるの!?」
「このぉ…ド変態がぁあああああ!!!」
バチン
真留の掌が志原の頬にクリーンヒット。その威力は卓球で鍛えられた腕とあって、男子にビンタされるより痛い…筈。
「いってぇーじゃねぇか真留!」
「五月蝿いクソゲー、さっさと出て行けぇえええええ!!!」
志原は運動着を持って教室を急いで出た。
「おっ、来たかエロ男」
あるクラスメートが言う。
「誰がエロ男だ!」
「頬まっ赤じゃねぇか」
「っるっせぇやい!」
右頬に掌の跡がくっきりと残っている。きっと真留がやったんだな。
「おまえ嘘寝でもしてたんじゃねぇか?」
「しとらんわ!もろ爆睡してたんだよ!」
「分かった分かった。おまえの言い訳が充分だから」
「言い訳じゃなぁぁぁぁい!」
叫びながら志原は運動着に着替えた俺の所に来た。
「藤樹!おまえ隣だろ?何で起こしてくれなかったんだよ?」
「起こそうとしたけど、おまえ爆睡してたから…」
「そこはビンタとかなんかするでしょ!」
「暴力は駄目かなぁって」
「そんなの暴力に入らないって!」
「グズグズ言うな。あと一分で始めるぞ」
「ちょ、待ってや」
「はいはい」
俺はダッシュした。
「おい、藤樹!クッソ~」
志原も急いで着替えた。勿論遅刻となったけどね。
昼休み。
「今日は散々だ」
志原がぐったりと寝る。
「仕方ないだろ。寝てたおまえが悪いんだから」
俺はバッグから弁当箱を取り出し、蓋を開ける。
「今日も相変わらず冷凍食品で揃ってんな~」
俺は独り言をブツブツ言う。
「つーかあいつが悪いんだよ真留。あんな思いっきりビンタしなくたっていいじゃねぇか。見てよ!まだ若干あいつの跡が残ってんだぜ」
確かに右頬にくっきりというほど残っている。流石加減無しの真留だな。
「いいから飯食えよ。じゃねぇと新作ゲームできなくなるんじゃねぇのか?」
「おぅ!そう言えばそうだった」
志原は急に起き上がった。
「今日は新作ギャルゲーをやるために来たんだった!」
おいおい…学校を何だと思ってんだコイツ。
「藤樹もパッケージ見るか?これチョー萌えるぜ」
志原からパッケージを渡された。うん、ギャルゲー特有の絵だ。
「ま、おまえがやりそうなゲームだな」
俺はパッケージを返す。
「これチョー萌える筈だぜ?シリーズ最高傑作だってネットで騒動になってたし!」
「分かった分かった。いいから飯食うぞ」
「しかもさ今回付録がパナイんだよ。CDとか限定グッズ…くぅヤッベェ」
志原のテンションが徐々に上がっていく。こうなると処理が面倒になってくる。だからこういう時は無視が一番。
「まず、麗奈ちゃんがあーして、このはちゃんのあれがあって、そしてなんてったって珠里ちゃんの…」
あぁーうっぜぇコイツ。ガチで殺したいぐらいだ。
「藤樹」
「おぅ清水目」
丁度良い所で清水目が来た。
「どうした?」
「おまえってやっぱ凄いよな」
「あぁ、志原の事だろ?」
「こんなクズの隣でよく…」
「まぁ仕方ないさ。たまたま場所が悪かっただけさ。今は窓側だから外の景色を見てなんとかなるけど、もし廊下側だったら俺は死ぬな」
「確かに俺も死ぬな。つかそう言う事なんてどうでもいい。藤樹、先生が呼んでたぞ」
「先生?」
「あぁ、なんか重大なお知らせだとよ」
「重大な?」
俺は席を立ち、階段を降り、二階にある職員室へ向かった。
「失礼します」
「おぅ藤樹、ちょっと来てくれ」
一番奥の端にいる担任のもとへ行く。
「突然ですまないが、放課後にノートを見せてくれないか。おまえいつも真面目にノート取ってるだろ?」
「真面目かどうか分かんないすけど。俺ので良ければ」
「おまえので良い。放課後、俺の机の上に置いといてくれ」
「分かりました。失礼しました」
先生確か環境だったよな。ロッカーにあるかな?
そんな事を思いながら歩いていく。
「あ、あった」
ロッカーにあった事を確認し、教室に入る。
「おっ、どうだった?」
席に座っている清水目が喋る。
「ノート見せてくれだってさ」
「そうか。おまえ真面目だからなぁ」
「真面目じゃねぇよ」
歩きながら、俺は自分の席に向かう。
「おっ、藤樹。今やってんだけどさ、マジヤバイ」
志原は俺が座った瞬間携帯ゲームを置き、再び俺にゲームのことを喋り始めた。
さて、飯食うかな。
隣が喋っているのを耳から反対の耳へと通過させながら俺は飯を食う。
放課後。ノートを先生の机に置き、今日はゲームせずに早めに帰ることにした。
「(メロディー)新田方面、電車が参ります。白線の内側までお下がりください」
こんな早く乗るの、部活入る前以来かも。
電車に乗ると、いつも乗る18時に比べ人はあまりいなかった。
その頃坂倉家。
二階の自分の部屋で美夜は寝ていた。薄いピンクの壁の周りには色んなぬいぐるみが置いてあり、本棚には少女漫画やCDやアルバム。壁には帽子などが飾ってあった。
ピピ、ピピ、ピピ
体温計を取り出すと、三十八度一分。少し熱があるくらいだ。
「ちょっと水でも…」
家には誰もいないため、一階のキッチンまで行かなければならない。
「うっ」
起き上がり、数歩歩くと頭痛が起き、手を頭にあてる。そして時々めまいがする。何だろう…全然前がハッキリと見えない。
壁に手を当てながらゆっくりと歩き、階段も一段一段ゆっくり降りる。
いつもなら部屋を出てキッチンまでは十数秒で行ける筈が今回は二分以上かかってしまった。なんとかキッチンに到着し、コップに水を入れる。
ゴクゴク
「ハァ、ハァ、ハァ」
二杯ほど飲み、再び部屋に戻る。また階段を一段一段ゆっくり登る。足に重りを付けているようで重く感じる。
「ふぅ~」
なんとかベッドに到着し、布団に入る。
翌日も、その次の日も坂倉さんは欠席。
「大丈夫かなぁ」
授業中、俺は携帯を開き、先生にばれないように坂倉さんにメールを送った。いつメアドをゲットしたかっていうと、高校二年生の時、クラスの文化祭係になった時に連絡を取り合うという事でゲットしました。
内容は「最近学校来ないけど大丈夫?」
数十分後。
ブー、ブー、ブー
制服のポケットに入れてあった携帯電話のバイブが振動する。坂倉さんからだ。
「大丈夫。明日辺りには行けそうだから。心配してくれてありがとう」
そっか。俺は少し安心した。
「あまり無理はしないでね。じゃあ明日」
俺は送信ボタンを押す。
携帯をポケットにしまい、俺は急いでノートを執った。
その夜、坂倉家。
ガチャ
「美夜、具合はどうだ?」
父が美夜の部屋に入る。
「あ、お父さん。大丈夫だよ。薬を飲んだおかげで今は平気だよ」
ベッドに入りながら答える。
「そうか。もうじきご飯だから降りてきなさい」
「うん」
父が去った後、美夜の起き上がる。
「うっ、まただ…」
またしても激しい頭痛が襲う。しかし美夜はその内治るだろうと思っていた。しかし今回は何故か頭痛が長時間続き、一歩歩くのに数秒もかかってしまう程美夜に頭痛が襲う、時折しゃがんでしまう時もありながらなんとか階段を降り、リビングに入ったその時。
「あっ」
急に足の感覚が無くなり、美夜は倒れかけ始める。
バタン
視界が真っ暗になり、美夜は倒れた。
その様子を数メートル先で父母が見ていた。
「美夜ッ!美夜ッ!」
父が駆けつける。
「おい、美夜!目を覚ませ!美夜」
父の声に美夜は反応しない。
「救急車を呼びましょ」
母は電話機で救急車を呼ぶ。
「もしもし、娘が倒れてるんです!今すぐ来て下さい」
ピーポーピーポー
数十分後。救急車は坂倉家に到着した。
三十分後、病院。
「緊急患者です。退いてください」
通路に美夜の乗せたストレッチャーは手術室へ向かう。手術室と書かれた看板が赤く光る。
「美夜、美夜!」
母は涙を流しながら、手術室前で止まる。父は何も言葉にすることは無かった。
何十時間後。
手術室と書かれた看板の赤い光が消えた。
ガシャン
扉が開き、ストレッチャーに乗った美夜は二人の前を通り過ぎた。その後に医師が来て、二人の前で止まった。
「先生、美夜は…美夜は大丈夫なんですか」
喋った母と黙っていた父は立つ。
「お母様、お父様。美夜さんは―――――
―――――くも膜下出血です」
「く、くも膜下出血!?」
父は思わず大きい声を出す。
「そんな、美夜が…」
母は驚く。
「はい。それもかなり悪化しています」
「そんな…」
母はその場で座ってしまった。
くも膜下出血……脳の血管のトラブルが原因で起きる病気で、脳卒中の中で死亡率が高い病気。もともと脳動脈に何らかの弱い部分があり、通常の血圧そのものが血管壁を破るきっかけになる。特に脳動脈が二手に分かれているような場所で起こりやすい。三分の一は社会復帰、三分の一は回復するが重い後遺症、そして三分の一は死亡。
「一応応急処置はしましたが、別の場所で起こる可能性があるので一ヶ月は様子を見ましょう。尚今回で社会復帰は極めて難しく、重い後遺症が残るか、最悪の場合死も考えられます。しかし我々は必ず美夜さんを今まで通りの生活を送れるよう努力いたします。なのでご両親も美夜さんが助かるよう祈っといてください」
医師はそう言った後、二人の間を通り過ぎた。
翌日、美夜さんは学校に来なかった。
「おかしい。確かに今日行くって行ってたのに」
藤樹は心配になった。
放課後、坂倉さんにメールしようと試みた。しかし、無闇にメールするのも良くない。
「坂倉さんが戻るまで待つか」
携帯を閉じ、一人帰宅していった。
一方病院。
「ん…ん~」
美夜は目を覚ました。辺りは真っ暗だった。
「ここは…」
暫くあまり景色は見えなかったが時間が経つことに見えるようになり僅かながら左右首を振った。
ガラガラガラ
美夜の両親が入ってきた。
「美夜!」
美夜が目覚めた事に気付いた両親は美夜のところに駆けつける。
「美夜!大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ…お母さん」
美夜は小声で応える。
「よかったぁ」
母は涙を流す。
「美夜……よかったなぁ」
続けて父も涙を流す。
「なにさ二人そろって泣いて」
聞こえるか聞こえないかのくらいの声で言う。
「あなた、くも膜下出血で倒れたのよ」
「くも膜下…出血?」
「そうよ。お医者さんからあなたは深刻だって言われたからお母さんどうしようかと…」
「母さん。あまり美夜に負担かけさせるような事を言うな」
「あぁ…ごめんなさい。だって…生きてくれただけでも嬉しかったんですもの」
「おいおい、泣くなって」
と言いながらも父も美夜の手を握りしめる。
「心配かけて…ごめんね」
美夜の目にも涙が零れる。
一ヵ月後。
「また遅刻やぁーーーー」
相変わらずギリギリで登校する藤樹。
ガラガラガラ
「ハァ、ハァ、ハァ…セーーーフ」
キーンコーンカーンコーン
先生はまだ来ていなかったので安心して席に戻る。
「ハァハァハァハァ」
俺はいつも通り座り、机に額を付ける。
「藤樹くん」
「はい…何ですか?」
聞こえる声に顔を上げる。
「さ、坂倉さん!」
目の前には坂倉さんが立っていた。
「おはよ、藤樹くん」
「おおお、おはよう」
動揺しまくる俺。
「ちょっと用事あるから放課後屋上に来てくれない?それじゃあ」
坂倉さんは俺に耳打ちでそう言い、自分の席に戻っていった。つうか坂倉さん学校に来てたんだ……
「おい、藤樹。坂倉と何話してたんだ?おい!おい!」
俺は呆然としている。志原は藤樹の体を揺する。
「んあ?」
やっと我に帰った藤樹。
「んあ?じゃねぇよ。坂倉と何話してたんだ?」
「あ…あぁ。仕事の依頼だよ」
「おまえに仕事?じゃなくて告白だろ?」
「ギクッ!こんな俺にあるわけないだろ?」
「そうかぁ?目が泳いでるぞ」
「バカ野郎!ねぇもんはねぇよ」
「はいはい」
志原はニヤニヤしながら席に戻る。
あの話の内容は何なんだろう?
結局その事で一日中勉強に集中できなかった。
「よし、これで終わりだ」
「起立、礼」
当番が号令をかけ、放課後になった。
すると同時に。
ブーブーブー
携帯が振動する。坂倉さんだった。
「今日の午後5時に屋上で」
ヤバイ…これは告白じゃねぇか!絶対にそう!絶対にそうだ!
心拍数が上昇し始め、顔が赤くなっていく。
「藤樹、通信対戦しようぜ」
志原と清水目が来た。
「お、おぅ」
「何おまえトマトのように赤くなってんだ?」
「ちょっと熱が…でも大丈夫だ。ささ、やろうぜ」
「おまえ何か今日変だぞ。授業中ぼけーっとしてたし」
「大丈夫だって。早くやろうぜ」
「だから志原、おまえも攻撃しろって」
「俺っちは弱い。だから採掘じゃい!」
「せこやろうが」
清水目が思わず言葉を零す。
「清水目、あいつは一生独りでつまらないゲーム生活を送るだけだ。俺らだけでもやっちまうぜ」
「って言ってもな藤樹。コイツ前より強くないか?」
「そうか?これ志原のやつだからな。志原、これレベル何?」
「6」
「「6!?」」
驚く俺と清水目。
「おまえ何6って!おまえいつそんなに…」
「裏ワザ」
志原がピースサインをする。
「ふざけんじゃねぇよ!」
「そうだ!それで独りだけ採掘とか…」
二人は段々怒りへと変わっていく。
「まぁまぁ二人共、ゲームに集中集中。あ!ルドゥーラ石じゃん。超レアGETーー!」
「「志原!!!」」
二人はゲームを一時中断し、立ち上がった。
「おい、藤樹清水目……」
「清水目、これからやる事分かってる?」
「勿論さ藤樹」
「な、何するんですか…」
「ちょっと目を瞑ってな?」
「ま、待って…俺っち何にもしてないよ」
「「大人しくしてろよぉ」」
「イヤァァァアアアア!!!」
志原の声が俺ら以外いない教室内に響いた。
五分後。
「ンンンーーー」
「これで完璧。さて再びゲームやろうぜ清水目」
「OK」
志原は口をガムテープで止められ、更に両手両足を紐やガムテープで締められ、身動きが取れなくなった。
「ンンン!(助けて!)」
「さぁて、今度は何する?」
「こいつどうだ?レベル6のボス」
「マジか?まぁいいぜ」
「ンンンンーーー(無視しないでぇーーー)」
結局三十分間。志原はその状態が続いた。
「あ、こんな時間か」
一段落し、時計を見ると午後4時58分だった。
「ちょっと俺トイレ行ってくるわ」
「おぅ」
実際はトイレに行くわけでもなく、俺は渡り廊下を走り、階段を上がっていく。屋上に繋がる階段を登りきり、深呼吸をし、扉を開ける。
ガチャ
「うわっ、寒っ」
夕日が綺麗だが、そんな事より風が寒い。この高校は都会にあるため、敷地はそんなに無い。そのため屋上にプールがある。
「坂倉さんいるのかなぁ?」
プール周辺を歩いていると、端っこに誰かがいる。
「藤樹…くん?」
坂倉さんの声が聞こえる。きっと坂倉さんだ。
「坂倉さん。何?こんなところに呼んで」
「実は…藤樹くんに聞きたい事があるんだ…」
坂倉さんはその後、なかなかその先の言葉が出ない。
「ふ、藤樹くんってあたしの事!」
坂倉さんは急に大きな声を出す。やっぱりこれって…これって…告白!?俺の鼓動が最高潮になる。
そんな事を考えていると。
バタン
「え?」
妄想から現実に戻ると坂倉さんが急に倒れた。
「坂倉さん!坂倉さん!!」
俺は近寄り、坂倉さんの意識を確認する。
「意識がない。急いで保健室に連れかかなきゃ」
俺は坂倉さんを背負って、保健室に連れて行く。
「先生!」
「どうしたの?」
保健の綿内先生が振り向く。
「先生、坂倉さんが倒れたんです」
「ちょっと見せて」
坂倉さんをベッドに寝かせ、先生は聴診器で確認する。
「心臓が…動いてない」
「心臓が!?」
「君、今すぐ携帯で救急車を呼んで!」
「は、はい!」
俺は携帯で電話する。先生は人工呼吸を行う。
数十分後。
ピーポーピーポー
「何だ?」
「おい!救急車だ」
「誰か倒れたのか?」
皆窓から保健室を見る。勿論志原や清水目も。
「誰が倒れたんだろうな」
「分かんねぇ。そういや藤樹は?」
「まさかあいつじゃ…」
「そんなわけないだろ」
「おい、誰か運ばれるぞ」
保健室から坂倉が運ばれる。
「坂倉じゃん!あいつ今日登校したばっかじゃ…」
「やっぱ登校しちゃいけなかったんだよ」
二人で話し合っている間に藤樹も救急車に入る。そんな中藤樹は…
「坂倉さん!坂倉さん!」
俺は坂倉さんに声をかける。
「君は少し退いていなさい。後は私たちに任せなさい」
俺は救急車の端っこでただ坂倉さんを見ることしか出来なかった。
そして俺の頭に最悪の事態が過ぎり始める。