Dive_1E 北街お祭りフェスティバル
気付いたら前更新から1ヶ月経ってました(土下座)。
それから、PV137,000、UV20,000突破しました。
ありがとうございますー。
ゴーレムを倒し、土砂に埋まったフィリアを回収。そして黒菜が合流し、4人パーティ(?)の内のアルマを除いた3人が揃った。
そして黒菜は笑顔で、こう言い放った―――じゃあ、剣の欠片を回収しようか。
黒剣に使われていた魔鉱石。それは刀身の大部分である火力を担う黒魔鉱石、それと刃を寝かせて攻撃を受ける為の赤魔鉱石、この2種類だ。
どちらも管理者である黒菜が自重せずに作っただけあって純度が高いのだが……特に、黒魔鉱石の方が凄まじく高い純度を誇るらしく。ヘタに人の手に渡ると、それだけで一山財産を築ける程らしい。
たった小さな、1センチ四方の結晶ですら、数十万の価格が付く―――とは黒菜の談だが。マグナ曰く、それは黒魔鉱石を用いた武器が主流だった頃の話らしい。青魔鉱石を用いた魔法武器が主流な現在では、数万が精々だとか。
……それでも、そんな小粒で数万なのだから、剣一本分ならいくらになるのやら―――正直気が遠くなる話だ。
(しかし、フィリアはこの世界に入って日が浅い為、金銭感覚がさっぱり解らない。価格を言われても、それ程価値が解らなかった)
兎も角、それを聞いたフィリアは、ゴーレムを切った際の手応えを思い返し、呟いた。
「掌サイズの破片1つで、アレだけの切れ味出たもんなぁ………まあ、そりゃすっごい高いのも納得だわ」
そんなこんなで破片回収も終わり、黒菜から回収完了のお墨付きを得た一行は、それぞれ自由に休憩していた。
フィリアは白剣に搭載された2つのトリガーを、何が面白いのかそれぞれ交互にガキンガキンと切り換え、マグナは平坦な岩の上で仰向けに転がっている。
また黒菜は、集めた黒剣の破片を粘土のように捏ね繰り回し、引き延ばしたり、押しつぶして小さくしたりと、どのような原理かは不明だが何所か物理法則を無視したような事をしていた。
(これを見たフィリアは「GMだし、気にしたら負けかな」と、見なかった事にした)
そんな時だった。
突然西の空が明るくなったかと思うと、街の中から巨大な火柱が上がり、直後に炸裂音が鳴り響くのを聞いた。恐らく、爆発。
現在居る場所は、街から数キロメートル程は離れた位置だ。そこからハッキリと確認できるという事から考えても、その規模がよく解る。
驚いて立ち上がったフィリアは、その勢いのまま白剣を握り直して、
「クソッ……まさか、他にも魔物が居たってのか?!」
「あ、おい隊長!?」
止めようとするマグナの声を振り払い、街を救う為に西へと疾走した。
ついさっき、街へと向かっていた強大な魔物を苦労して倒したのだ。だと言うのに、その護ったハズの街がやられてしまっては何の為に頑張ったというのか。
魔力切れに加え、戦闘経験も殆ど無く。『フィリア』では無い今の自分では何が出来るか解らないが、それでもフィリアは走った。
「なんでこう……一難去って、また一難みたいな状況なんだ畜生……ッ!!
――――――――― って思ってたのに。なんだこれ?」
「……だから待てって言ったのに」
魔術都市セプテントゥリオ。
その東門へとたどり着いたフィリアは疲れ切った表情で壁際に座り込んでいた。いくら疲れないと言っても、それは身体的な事に限る。精神的な部分は範囲外だ。
フィリアが向ける視線の先、街の中心へと延びる中央大通りは確かに、昼間とは比べ物にならない程の大勢の人が居り、賑やかというか、いっそ騒がしいと表現する事が正しいと感じる状態だった。
とは云えその人々達に悲劇的な表情―――要は、魔物に襲われたりなどした混乱などは見られない。むしろ笑顔だ。
東門付近に集まっていた(黒菜が解散させた)、この街の魔法使いと思われる人々も壁に盾や杖を立て掛け、酒盛りをしていた。警戒や緊張といった空気は皆無である。
相変わらず疲れた表情でフィリアは、
「いや、うん……ホント、何でこんな事になってんの。ってか何これ?」
「今この街ではお祭やってるんだよ」
「………祭? さっきまで警戒態勢だったんだろ?」
それに対し、黒菜が苦笑いしつつ、説明を始めた。
「それが、この街を出る時に私が街の人達が混乱したり、暴走が起きたりしないように、青葉の名前使って警戒解除させたんだよね……で、青葉は基本的に多忙で中々都合合わないから、これから会いに行くんだしその時事後承諾すれば良いかなって思ってたんだけど―――なんか、ほんの少しの時間だけど、態々この街に来て皆に説明というか……落ち着く様に言ってくれたんだよ」
「へえ、その青葉って……人(?)は、良い奴なんだな。しかし、それとこの祭に何の関係があるんだ?」
「初めて会った頃に説明したけど、青葉は魔法関係の担当なんだ。つまり、私が『武器神』である様に、青葉は『魔法神』――――この魔術都市は、名前の通り住人の殆どが魔法使いだから………『魔法神』である青葉への信仰が凄く強いんだ」
なるほど、とフィリアは納得した。
言ってしまえば、信仰している神様が降臨したって事なんだろう。それなら当然、祭にもなるだろう。
これが祭だと認識して改めて視線を向けてみれば確かに、それは祭だった。
歩く人々には笑顔が溢れ、至る所から人の声が上がる。露天商も出ていて、綿菓子や林檎飴なども売っていた。
……しかしそういった極普通なお祭の風景に混じって、大きなイモリの黒焼き(食べ歩いている人がいる、美味いのか?)だとか、妖しく光る薬品(一応、飲料らしい)だのが視界に入る所為で、どうしても黒ミサというか、暗黒的魔術な印象を受けてしまう。
極普通の露天が蝋燭などの火を灯りにしている事に対し、そういった妖しげな露天は魔法を使った灯りでも用いているのか、青だの緑だのといった妙な色である為に余計に目立つ。
ちょっと不安になる光景に、フィリアは口端を若干引き攣らせながら黒菜とマグナに視線を向けると、2人も苦笑いで返した。
「ああ、うん。私もアレはどうかなって思うよ? というか、あの妖しい飲食物を買う人、勇気あるよね」
「メジャーじゃないんだが、結構食えるヤツは―――そうそう、ウーズ核とか、コリコリして結構美味いんだぜ」
食った事あるのかよ!、とマグナに突っ込みをかました処で、ふと気付いた。
―――――あれ、そういや以前フレイムウーズ倒した時にウーズ核を回収してたよなコイツ。
(まさか、あの時の奴をコイツ食ったのか?!)
(もしかして、ゴーレムの核を回収しなかったのは、泥まみれで食指が動かなかったから?!)
フィリアと黒菜は2人揃って戦慄し、マグナから半歩離れて背中を向け、肩を寄せ合ってコソコソし始めた。
一方でそんな2人をスルーし、マグナはおーい、と手を伸ばして人を呼ぶ。それに気付き近付いて来たのは、街から出る前に別れたアルマだ。
「……おい、御二方がお前を『見てはいけないモノを見てしまった』様な顔で見ているのだが―――貴様、一体何をした?」
「ちょっと、食文化の違いについてな」
何を言っているんだコイツ……と思いつつ、マグナの視線を追い、妖しい食品の屋台を確認したアルマは「ああ……」と一泊息を付いた。
「結構美味いよなアレ―――確かお前、ウーズ酒とか結構好きだったろ」
「毎日口にしたいというモノでは無いが……まあ珍味というか、食感が癖になる感じではあるな」
マグナに同意した。
その光景に信じられない、といった表情をした黒と金の2人はより一層離れ、壁際で「アイツはマトモだと思ってた」だの「もしかして、アルマも……?」などと口々に呟き、戦々恐々としていた。
「これは……うん、ふぁんたじーだな」
今、俺達が居るのは東門から真直ぐ西へ進んだ位置、つまり街の中央広場に来ていた。
その広場の中央、円形に並べられたベンチの1つに俺と黒菜が座り、斜め前にアルマが突っ立っている。
アルマ曰く、本来なら祭に参加などせず今晩には街を経つ予定だったらしいんだが、予定時間まで少し余裕があるから、折角なので祭を楽しんで行こう……という事になった。
……まあ、ついでに俺が今迄大変な目に遭っていたので、気分転換も兼ねているらしい。
確かに、システム異常に巻き込まれてNPCに憑依したり、RPGの主人公のように突然「魔王を倒せ」とか言われたりと、結構大変な事態だったのだと気付いた。とは言え、ココ暫くは『フィリア』に行動権が移っていた為に俺はそんなに大変だった気がしないのだが。
それから予定時間というのは、青葉の所へ行く時間らしい。何でも青葉の予定が中々空いていないらしく、魔法について色々訊く為の時間が取り辛いとか。そういえば元々魔法を使えるようにして貰う事が第一目標だった。
アルマが何とか頑張ってその貴重な時間を確保してくれたらしく、それを逃すと次は何時になるのか解らないらしい。
だから、今晩には街を経つ予定だとかなんとか。でもその前に、予定まで少し時間があるから、折角なので祭を楽しんで行こう……という事になったのだ。
現在地である中央広場は、学院方面(西)と平原方面(東)、そして皇国方面(南)へと延びる3本の大通りが集中する円形の広場であり、中々広い。また北の湖から水を引いている池が中央に作られている。
この池というのも、まあ噴水程度のサイズではあるのだが……北の湖の複製というか、写し身というか、そんな感じのモノらしい。北の湖の中心には絶対不可侵の『魔法神の神殿』がある。その神殿を模したモノが池の中心には設置されている。まあ、神社の分社みたいなモノなんだろう。
………ただ、昔は北の湖まで出向いて礼拝などの宗教的行為をしていたのに、その湖から直接水を引いているとは云え……ミニチュアに向けて礼拝などをしていると聞いて、それはどうなんだろうか、と思ってしまった俺は悪く無いはずだ。
また、そんな訳で沢山人が集まれるように、この広場は結構広く作られているのだ。
それから、ココは主に日常生活に関係する商店が集まった地区だとか。
アルマが教えてくれたのだが、言われてみれば確かに、店先には幌が広げられ、オープンテラスの様な趣の飲食店が多く確認できた。
他にも食料だとか生活用品を売る店もあるらしいのだが、この祭の中では閉店中らしい。きっと、朝の礼拝などに来た人達が帰りに買っていったり、ココで食べて行ったりするのだろう。
「この脚元の光ってるのは……何か良く解らんが、綺麗だな」
「だよね、何か魔法学院のどっかの研究室が開発した粉末らしいよ。なんでも極小量の魔力で発光するとかで、付近を歩く人から漏れる魔力に反応して薄らと光を放つんだってさ。確か聞いた話だと………赤緑青の3色だったかな?」
「―――つまり、光の三原色です」
「へぇー」
この広場では、膝下くらいの高さまで淡い緑色の光で覆われている。
本当に薄らとなので、脚元が見えなくなる事は無く、石畳の模様も確りと確認できる。
……むしろ、少し明るくなってる分、月明かりや露天から届く光だけよりも落し物とか探しやすいんじゃないか?
人が通りを歩く度に、その衝撃や風で舞い上がり、緑色の光の雲が漂い、そして消えていく。
ある意味、俺がこのEWを始めて、最初に見る『幻想的』な光景とも言える。ファンタジーなモノなら結構沢山あったが。
……これが見れただけでも十分参加した意義はあるな。
脚をパタパタさせて光を蹴り上げる―――ふむ、中々面白い。(そんなフィリアを、アルマと黒菜は微笑ましいモノを見た、という表情で眺めていた)
そうして時間を潰していると、全員分の飲み物を買いに行ったマグナが戻って来た。
「テキトーに飲みもの買ってきたぜー。隊長、甘いのと酸っぱいの、どっちが良い?」
「あ、サンキュー……ん?」
そう言うマグナの手に握られているモノは、2本の試験管と1つの三角フラスコ、そして小さなスポイトだった。どれも液体が入っている。
……………入っているのだが、試験管の中身はどちらも科学発光というか、所謂ルミノール反応やサイリュームの様な光を放っていた。夜で周囲が暗い為に、余計に光って見える。正直アレは飲みたく無い。
フラスコに入れられている液体も、気泡をコポコポと浮かべる泥のように濁った液体だ。これもまた、飲みたく無い。
最後のスポイトだが、少量の黄色い液体が中に入っている、オレンジジュースか?……しかし、何故か一番ヤバい気がする。他の奴に比べて、マトモすぎるからだ。分量が少ない辺りから不安を感じる。
「………なあ、何でマトモなヤツを買ってこなかったんだ?」
「いや、無かったからさ」
「嘘言ってんじゃねえ、そこにも……あとそっちにも有るだろうが! 普通にオレンジジュースだとか、ミルクティーとかあっただろ!?」
「だから無かったんだって―――――俺の視界に」
「手前主観かよ!」
なんてこった。こいつに行かせたのは間違いだったか。
………まあ、「飲み物買ってくる。ちゃんと全員分、適当に選んで買ってくるぜ」とか、笑顔で言ってた時点で止めるべきだった気がしなくもない。
「―――ったく、お前の常識とかどうなってんだよ。いや俺が言うのも何だけどさ」
「ふふん、良く聞け隊長。ココは魔術都市、つまり魔法使いと魔術師の街だ」
……こいつは、一体何を言いたいのだろうか?
とりあえず、頷いておく。
「で、俺は魔術師だ。つまり、この街は俺達魔術師が基準……つまり、俺が常識だ!!」
「やべぇ、ツッコミ所満載だけど、どこから突っ込んで良いのか解らないし頭痛い」
「あと、コップよりもこっちの方が持ちやすい。片手で4つ持てるし」
「……そこだけは凄い納得するわ」
凄まじいドヤ顔をしつつ、2本の試験管を突き出してくる。
しかも何所からともなく「ドヤァ……」という音(声?)が響く。コイツ、また無駄に魔法で音響効果してやがる。
「……ん、そっちのフラスコとスポイトは違うのか?」
「ああ、このフラスコは俺の、スポイトはアルマの分だな」
それを聞いたアルマがほんの一瞬、愕然とした表情をしてからマグナに喰らい付いた。
「貴様、それを私に飲ませるだと?! 嫌がらせか!」
「ククククク……お前が拒否すれば、俺はコイツを隊長に飲ませる―――お前に、拒否権は無いのだよ」
「ぐっ、卑怯な……解った、飲めば良いのだろう、飲めば!!」
悔しそうな表情をしてマグナの手から奪い取り、スポイトを口に咥える。
良く解らないが大丈夫なのだろうか、と心配になって声を掛けようとしたが、黒菜に手で止められた。
……なぜそんな辛そうな顔で首を振る。そんなにヤバいのかアレ。
飲まされるアルマを可哀そうに……と思う一方で、俺の為に飲んでくれたっぽいので感謝しておく。
それを視界の隅で確認できたのか、目線をこちらに向け、アルマはグッと親指を立てた拳を俺に向けた。サムズアップってやつだが。……お前、普段とキャラ違くね?
「で、ほら。どっち飲むんだ。選んでくれよ隊長」
そして、眼の前には試験管を付き付けてくる馬鹿。
隣を見ても、黒菜は苦笑しているだけだ。……助けてくれても、良くね?
「はあ……何だっけ、酸っぱいのと甘いの?」
「そうそう、どっち? リンゴ味とブドウ味」
ニコニコ笑顔と共に試験管が揺らされる。
目の前にあるのは、赤と緑、2色の液体だ。……っていうか、林檎味と葡萄味だったのか。色からじゃ判別付かないというか、言われてもどっちがどっちだか解らないぞコレ。
甘いのが林檎で、酸っぱいのが葡萄だろうか? いや、逆かもしれない。まあ別にどっちでも良いけど。
「………人体に害は無いんだよな?」
「無い無い。流石に仲間に毒盛る程落ちちゃいないって(――――そもそも、隊長に毒とか効かねーし)」
何かボソっと言っているが……まあ、一応は態々買ってきてくれたモノであるし、これまでの旅を通して信用できる奴である事は解ってる。
…………腹を括るしか無いか。
「………解った、じゃあ酸っぱいのをくれ。……疲れた時には、酸っぱいものが良いって言うしな」
「その身体、疲れないけどな。……ほれ、リンゴ味」
「うっせ、精神的な問題だ」
「はいはい精神的精神的。……んでもって、ブドウ味が黒神様な」
一応、黒菜と2人で礼を言ってから受け取る。結局、俺に渡されたのは赤い方の液体だ。
酸っぱくて林檎味、赤く光る液体。色は味をイメージしてるんだろうか。緑色のブドウもあるし。
……だとすると、色は単純に味を解りやすくする為の着色か。良く考えたら、この夜の暗い中で飲み物そのものが光っているのは、中に入っているのが何味だったか解りやすいなあ。それ以前にキモいが。
匂いを嗅いでみても、特に臭いとかも無い。案外、見た目がアレなだけで味は普通なのか。
………いや待て、コレは酸っぱい飲料だ。マグナはそう言った。そこは信用できる。しかしどれ位酸っぱいのかは言及していない。
―――まさか、レモン果汁100%くらい酸っぱいのか?!
脳裏に過ぎった可能性に、視線を上げてみる……が、マグナはニヤニヤしながらこちらを見ているだけだ。いやその時点で十分怪しいんだが。
「隊長、折角買ってきたんだから飲めよー。黒神様はもう飲んでるぜ?」
「………何だって?」
言われて隣を見れば、確かに。黒菜は緑色に光る液体に口を付け、舐める様に飲んでいた。
「黒菜、味は大丈夫なのか?」
「ん? 問題無いよ。甘い」
「そうか、甘いのか」
やはり、マグナは味に関して嘘は言っていない。
とりあえず、黒菜を真似て舐めるように、試験管を少し傾けて飲む事にしよう。……っていうか、一気に飲み干そうと考えていた事が間違いだな。
……………後は野と成れ山と成れ!!
………ぺろり。
「――――思ってたより酸っぱく無いな。何ていうか、レモン水みたいな感じ」
「そりゃ、飲料として販売してるんだから極端に飲めないモノなんて売らねーだろ」
御尤もで。
しかし、ずっとニヤニヤしてたマグナが腹立たしいのは事実である。
………コイツ、俺の反応見て楽しんでやがったな。
「しかし、これ単に酸っぱいだけで……何所が林檎味なんだ? むしろレモン味で良いだろ」
「ん、それはリンゴ味で合ってるよ。こっちの、ブドウ味飲んでみたら解ると思うよ」
そう言って黒菜が差し出すのは、緑色の方、葡萄味の薬品飲料だ。
渡された試験管を傾け、少しだけ飲んでみる。
「……甘い。砂糖水?」
ちょっと「これって間接キスじゃね?」とか「いや、身体は女性同士、ならセーフじゃね」とか「そもそも相手はAIだからノーカン」「むしろ女性体に憑依してる現状の俺って、普通のキスより深いんじゃね」とか考えてしまった気がしなくもないが、そんな事は無かった。無いのだ。
「そう、砂糖水だ。それでブドウ味。まあつまり、ブドウ糖水溶液だな」
「果実の葡萄じゃなくてそっちかよ。じゃあ、こっちのリンゴ味ってのは………」
「リンゴ酸水溶液」
………普通に林檎酢売れよ、と思った俺は悪く無い。
せっかくなので、今回の作中に登場したり、しなかったりした露天商品などの解説。
ちなみに、マグナは試験管を選ばせる辺りから口を付けるまで、フィリアの百面相を見て楽しんでました。
●イモリの黒焼き
所謂、魔女が嗤いながら掻き回している大鍋に入れる、魔法の薬の材料的な何か。イモリを串刺しにして、そのまま丸焼きにしたもの。
徹底的にじっくりしっかり焼き上げてあるので、殆ど炭の塊と化している。つまり、超苦い。
「美味いのか?」と訊かれれば100人中99人は「苦い」と答える苦さ。ただし、甘いモノの前に1つ食べておくと、苦味と甘味のギャップでより甘く感じるとか何とか。人々は「これも1つの等価交換」と意味不明な供述をしている。
若干の殺菌効果アリ(炭的な意味で)。
ちなみに、惚れ薬の材料では無いし、そもそもEWに惚れ薬は存在しない。
●ウーズ酒
生きたウーズの核を、飲用液体に落とした飲料。この場合、酒。
液体を身体として用いていた、水場に住む中でも比較的小型の、弱いウーズを捕獲し、暴れられない程度に魔力を奪ってから食す。
ウーズが身体を形成する為に浸蝕した飲料はゼリーや寒天、外郎などの中間のような不思議な食感となり、別に美味いという訳ではなく、強いて言うなら「面白い」。
ちなみに、ウーズ殺してしまったり、放置しすぎて成長しない限り何度でも楽しめるので、割とお財布に優しい珍味。
●『まじかるみねどりんく』
試験管に入れられた、発酵飲料ならぬ、『発光飲料』。光り輝くその見た目は、食欲を減少させる事がある。
見た目がイメージ出来ない人は、イメージ検索で「サイリューム」と入力してみよう。一目でフィリアがどれくらい「うわ、飲みたくねー」って思ったのか解るぞ!
今回登場したリンゴ味やブドウ味以外にも複数種類の味がある。実際の味については、本編参照。
一応、微量ではあるが体力・魔力回復効果があるらしい。
●『深淵より来るモノ』
フラスコに入れられた、常温でコポコポ気泡を上げる黒く濁った炭酸飲料。正式名称は『合成香料クエン化合糖液』らしい。
嫌な幻想的外見をしているが、意外と人気。というか、フラスコに入っているから見た目がヤバいだけで、外見そのものは炭酸の濁った泥水である。とりあえず見た目はヤバい。
……ちなみに味は、ちょっとレモン果汁を搾ったコーラである。4人が飲んだ中で、一番マトモな飲料。
●『超高密度圧縮ジュース』
一時的に空間圧縮を掛け、コップ一杯分の液体をビー玉サイズまで小さくし、それをスポイト状の容器に入れた飲料。
飲んでいる人の魔力力場が干渉し、圧縮が解凍されていく。それによってスポイト口から徐々に溢れてくる液体を飲む。どこか、チュー○ットに似た商品。チューペッ○との最大の違いは、圧縮魔法に下手に干渉すると暴発し、中身の液体が全て自分にブチ撒けられるということ。低出力の魔力力場ですら暴発するので、自身の魔力制御を完璧にしなければ飲むことが出来ない。
魔力制御など一切出来ないフィリアは当然として、戦士系に技能が偏っているアルマも制御が若干苦手。だから、アルマはコオレを飲むのが嫌だった。
要するに、コレを最後まで安定して飲む事が出来る人は優秀な魔法使いである。なので、コレを無造作に口に咥えて飲みながら作業をする……というのは、魔法学院の人々の中で凄まじくカッコイイという認識になっている(ただし、うっかりすると実験中の代物にジュースがブチ撒けられる)。
今回アルマが飲んでいたモノの中身は極普通の柑橘系飲料であり、ある意味4人の中で一番マトモな味の飲料。
●『ブレッシングライト』
その昔、魔法学院の生徒が作りだしたジョークグッズ。
外見は紙巻き煙草であり、火を付ける代わりに口に咥えたまま魔力を流す事で楽しむ。すっきりミント風味で、眠気リフレッシュ。
コレを吸うと、暫く吐息や鼻息が光り輝くようになる。つまり名称は『祝福の光』では無く、『光の吐息』という意味らしい。
一応人体に害は無いらしいのだが、発売当初子供達の間で大流行し、一度に多量に吸ったのか光が強く、就寝時に目の前が明る過ぎて眠れないといった被害が続出した。
ちなみにEWでは煙草による健康被害等が皆無なので、子供でも煙草を吸える。というか、現実で言うとガムのような扱いがされている。
本編中登場しなかったが、青葉への土産としてマグナが購入している無駄設定。何の伏線でも無い。