Dive_19 これが所謂『ジャンク・ショップ』
2話連続で武器選び。
買物に時間掛かり過ぎと言わざるを得ない!
引き続き、剣を求めて2軒隣の店へ。
……入ってみて気付いたのですが、この店は『武器屋』というよりも、魔法具屋に近い気がします。
取り扱っている商品は、どれもこれも魔法具としての機構(魔術回路)が組み込まれていますし。
尖端から電撃を放つ槍、叩き付けると爆発する棍棒(使い捨て)、炎を纏う篭手(自分も火傷)などなど……一部商品は解説が無いので、術式を読み取れる程度に心得がある人でないと、マトモな代物を手に入れるのは難しいんじゃないですかね、この店。
……絶対、初心者にはオススメできない。
「すみません、こちらの店に『切れ味と強度の両立を目指した面白い剣』とやらがあると聞いたのですが」
「……? あー、その剣なら……ほれ、コレの事だろ?」
そう言って、店主が出してくれたのは……無骨な鞘に納められたシンプルな剣。
「えっと……試しに、抜いてもよろしいですか?」
「キズモノにされたら困るけど、抜いて視るくらいは良いよ」
「ありがとうございます……では」
店主に確認を取ってから剣を手に取り、鞘から抜く。
若干、白み掛かった刀身……白魔鉱石でしょうか。
「お、気付いたのかい? それは刀身が白魔鉱石を混ぜ込んだ鋼で出来ててね。柄にトリガーが2つあるだろう? 人差し指の位置のトリガーを引くと黒魔鉱石、中指の位置のトリガーを引くと赤魔鉱石の効果がセットされるんだよ」
なるほど、常時両方の効果を発揮するのではなく、必要に応じて選択するのですか。
……考えましたね、制作者。
「試しに、トリガーを引いてみても良いでしょうか」
「それくらいなら、まあ大丈夫だよ。魔力も流して良いよ?」
許可も貰いましたし……では早速。
慎重に人差し指でトリガーを引き、ガキンと音がした所で停止。どうやらこれで黒魔鉱石がセットされたようです。魔力を流してみると、確かに白かった刀身が灰色に染まっています。
続いて、中指のトリガーを、やはりガキンと音がするまで。今度は刀身が桃色に染まっていました。問題無し……っと。
最後に、人差し指と中指で交互にトリガーを引いてみましたが、中々スムーズに切り替わりますね。両方同時に引くと魔鉱石が干渉しあって何も効果が発動しないので注意が必要ですが。
何度か引いて解りましたが、ある程度力を掛けないと切り替わらないように作られているようで、トリガーは固め……ですが、振る際に握る事を考えると、これはむしろ長所ですね。
内蔵されている魔鉱石は、小さめですが……質が良いですね。一般的な魔鉱石剣よりも少し性能が良い程度でしょうか? 実用範囲内。
しかも取り外し可能になってます。より良質な魔鉱石が手に入れば、威力や強度を上げる事も可能でしょう。これも長所。
総合評価すると、『中々良い剣』ですね。
防御用と強度確保の為か、少々幅広で厚みのある刃ではありますが、十分に及第点でしょう。むしろ、元々買おうと思っていたモノ(理想)と比較すれば、130点程の評価です。勿論、100点満点で。
「これ、いくらです?」
「ん、買うのかい? それ38,000pxだけど」
まあ、魔鉱石を使った長剣は15,000px程度なので、妥当でしょう。
というか、先程のマンゴーシュが安すぎなんですよ、何ですか4,800pxって、在庫セールですか。……ああ、この街は魔法使いばかりですから、ずっと売れ残ってたのですかね? 今更ながら納得しました。
「お預かりーっと……4万とちょいくらいかコレ、はい2,000pxのお返しだよ」
「……っと、確かに。どうもです」
余剰分の紫魔鉱石を店主から受け取り、小袋の中へ。そしてその小袋はインベントリへと格納。
値札を剥がされた剣は腰のベルトに固定。黒剣と並び、私の右腰あたりから柄が2本覗いてる感じですね。
ちなみに先程買ったマンゴーシュは左腰に提げています。左手用ですしね、素早く抜くためにも左側です。
毎度どうもー、という店主の声を背に店の外へ。
そんなに時間は掛かって無いでしょうけど、他3人をあまり待たせるのも悪いですしね。
剣を買った店を出て……ふと空を見上げると、既に赤く染まり始めていました。
プリムラ村を出たのが今日の昼過ぎ―――それから4時間くらいですか。
本来ならば丸一日掛かる距離なのですが、私達が身体強化で全力疾走すれば2時間程で踏破する事が可能―――我ながら反則染みてますね。
目的だった剣も手に入りましたし……そろそろゲートへ向かいますか。
……マグナは先に着いてますかね?
そんな事を思いつつ、北東へ向かおうとした時の事でした。
「な、なああんた、剣を持ってるって事は剣士か?!」
「おっ、落ちついて下さい!」
息を切らせながら話しかけて来たのは、全身どこを見ても「どうも、私は魔法使いです」といった感じの男性でした。ローブを羽織り、メガネを掛け、魔法杖を右手に、左手には本(おそらく魔道書)、背中にはガシャガシャと音を立てる袋を背負っています……おそらく、薬瓶。
この見た目です、十中八九魔法使いでしょう。
逆に魔法使いじゃなかったら何なのか。もはや詐欺と言って良いでしょう。
「あ、ああ……ごめん」
「いえ、大丈夫です……それで、何があったのですか?」
何でも、彼はこの魔術都市の西部にある魔法学院の学生だそうで。大がかりな魔法実験の為に、人が多い西の平原では無く、東の平原へ出ていたそうです。
そして、彼はその東の平原で見た事も聞いた事も無い、ゴーレムらしき魔物に遭遇したとか。
驚くべき事に、魔法が全然通用しないとか。魔法的な熱量や雷が効かず、油を撒いて火を放っても効かなかったそうで……更地で良かった。草原だったら火事になるところです。
「……それで、魔法が通用しないから、剣を持っていた私に話しかけたのですか」
「そうなんだよ……頼まれてくれないか? この街は魔法使いばかりだから、偶然見かけたアンタ以外に戦士なんて知らないんだよ」
……ふむ、確かに。
この街は魔法について研究する為の都市ですから、剣や斧を持った戦士なんて殆ど居ないでしょうし。
そうですね、そのゴーレム(仮)の正体も気になりますし。せっかくなので先程購入した白剣(今命名)の試し切りでもしましょう。
あの店はやはり武器屋というよりも魔法具屋寄りの様で、試し切りできるようなスペースが無かったんですよね。
「解りました、私が向かいましょう」
「おお、頼まれてくれるか! なら、私は学院に報告や増援を頼んでくるよ。研究者達の新作魔法なら通じるかもしれない」
「ああ、すみません……貴方には学院の前に行って貰いたい所があるのです」
「何? ……もしかして、連れでも居るのか?」
「その通りです。街の北西部、ゲート付近に白髪の騎士と黒髪の少女が居るハズです、或いは、濃紺色の髪を持つ魔法使いも。彼らに、私が出撃した事を伝えて下さい。恐らく私1人でも十分ですが……待ち合わせをしていたので。心配させる訳にもいきませんしね」
それに、魔法が効かないとの事なのでアルマは戦力になるでしょうし。
……マグナも魔法と言いながら殴る蹴るするので、普通に通用する可能性もありますが。
「そうか、待ち合わせしてたのか……解った、無断で居なくなるのはマズいもんな。じゃあ私はその騎士と魔法使いと少女を探して、アンタが東に行ったって伝えとくよ」
そう言って彼は、掛けて行きました。
……さて、頼まれた以上は実行しなければ。
これは依頼では無いので報酬等も出ませんが、人助けは大切です。
それに、そのゴーレムが真実魔法が通用しないのならば、魔法使いばかりであるこの街が危ないですし。
そして何より、魔法無効化などというスキルを持つ魔物は存在しないハズ。
何せそんな魔物がいれば、既にこの街は滅んでいるのですから。
―――その魔法無効効果の秘密、探らせて頂きます!
東広場から北東外通りを通って北広場。
さらにそこから北西外通りを通ってゲートへ。
……そんな感じの道筋を辿ってゲートへとたどり着いた男。先程フィリアにゴーレム撃退を依頼した者だ。名は、アリカム。
その彼は今、辿ってきた道筋を倍以上の速度で逆戻りしていた。否、させられていた。
なんというか、とてつもないピンチに見舞われている。
正直、魔法が効かなかったが逃げるのは容易だった件のゴーレムより、現状の方が余程危機だった。
……具体的に言おう。
濃紺色のツンツン髪を持ち、「魔法使いです」と言いたげなローブを纏い、ちょっと眼つきの悪い男が彼を担いでいた。さらにその状態で濃紺色の(中略)目つきの悪い男が全力疾走しているのである。
走る男の肩から衝撃が腹へと伝わり、走る勢いで身体が大きく揺すられる。
物凄く気持ち悪い。顔面は青く、そろそろ吐きそうである―――というより、時々呻いているので、既に吐きかけている。
今日は朝食を食べてから東の平原で実験を開始し、夢中になっていたので昼飯を食べ損ねていたので、なんとか吐いていない。人生何が役立つか解らないモノである。
「―――う、うぇ……ぉぅふ」
「ねえマグナ……その人死にそうだよ、揺れ抑えてあげてよ―――っていうかそんな揺れてたら、舌噛むから喋れないよ?」
「……あー、通りで返事が無い訳だ」
走る男――改め、マグナは隣を走る黒菜に言われ、漸く気付いた。
今までギャーギャー喚く様に話しかけていたのだが、全く返事が無かったのだが、どうやら気持ち悪すぎてグロッキー状態である。マグナ反省、てへぺろ。
数秒考えた後、地面から数センチ浮遊して滑るような移動へと切り替える。超高密度の圧縮空気を足裏と地面の間に展開――つまり、ホバリング移動である。もちろん推進力も足裏の圧縮空気。これならば揺れ無いので喋りやすいだろう。
ちなみに、普通の魔法使いはこんな事しない、というか難しすぎて出来ない。
事実、通り過ぎていくマグナを見た街の魔法使い達は、死後硬直のように全身が固まり、動かなくなっていた。思考回路がショートしているのである。暫く放っておけば治るので、放置で問題無い。
また、喫茶店のオープンテラスに居た人々は、次々と口から飲み物を吹いていた。店先に虹が出来る……キレイダナー?
「で、さっき言ってたのは本当なんだろうな?」
「……ああ、名前を訊くのは忘れたが。剣士の少女に討伐を頼んだんだよ……げほっ」
ようやく揺れが収まり、アリカムは嘔吐感を抑える様に口を押さえ、咳き込みながらも返答を返す。
彼が連れられている理由は、出来るだけ早くフィリアを見つける為だ。彼がゴーレムを見た場所に真っ直ぐ向かう事が最短ルートだとマグナは判断した。
「……まあ、確かに待ち合わせしてたアンタらの連れに魔物撃退を頼んだのは俺が悪かったけどさ。あのゴーレムが街まで来ちまったら皆混乱して街が滅茶苦茶になるかもしれなかったんだ。だからそんなに怒らないでくれよ、報酬だってちゃんと後で出すからさ。学院に報告すれば結構貰えるはずだし」
「そんな事はどうでも良い。出来るだけ早く、可能ならゴーレム遭遇前に追いつく事を最優先だ――報酬とか、そんなものはどうでも良い!」
何を隠そう、このアリカム。かれこれ30年程も学生しているのである。
……別に留年している訳ではない。この街の魔法学院では学ぶ意志さえあれば何年でも滞在できるのである。学校というより、研究機関に近い。
彼の30年分の知識や実力は中々のモノであり、学院内でも上位である。ちなみに60年近く学生やっているジジイも居たりする。
「なあ、何をそんなに焦ってるんだ? あの娘だけでも何とかなるんだろ、実際どうだかは知らんが、本人は大丈夫だって言ってたし……強いんだろ?」
「ああ強いよ、間違いなく皇国最強だよ……だがな、あのアホは自分で気付いて無いが、今のコンディションは最悪なんだよ!」
そうマグナが叫ぶ。
彼の懸念はただ1つ。現在不調でありながら、本人は全く自覚していないフィリアが戦闘で負ける事である。
ただ負けるだけなら良い、単に死んだ後、城まで戻されて蘇生するだけだからだ。
マグナ……いや、白埜ネットワークに繋がる全員がが恐れているのは、その前に起こりうる事態。それは、本来あり得ない事態が起こる事で『彼女』が驚き、意識が強くなったりなどしたら。以前、城の地下で白埜が『彼』にした様に。
―――即ち、現在フィリアに混ざっている『彼』としての意識の消滅。
(クソッ……無事で居ろよ、『隊長』さんよォ!)
目指す東の空の果ては既に暗く。彼らの頭上に広がる空は、夕日で真紅に染まっていた。
それは、まるで血の色の様で。
……マグナは『嫌な予感』というモノを初めて感じた。
~ちょっとした用語集~
『インベントリ』
所謂アイテム欄。キャンプ地や街中など、安全域以外では物を出し入れ出来ない。
どちらかと言うと倉庫。
『魔法』(マホウ)
魔力法術の略称。魔力を使って発動させる様々な減少を指す。
『術式』(ジュツシキ)
魔法術式の略称。魔法を行使する際のプロセスの事。場合によっては魔術と略す。
『魔法使い』(マホウツカイ)
魔法を使う人の事。マジックユーザー。
『魔術師』(マジュツシ)
術式を読みとり、構築できる人の事。マジックエンジニア。
『魔法技師』(マホウギシ)
緑魔鉱石に術式を刻む技術を持つ人。大抵の場合は魔術師。
『魔鉱化合合金』(マコウカゴウゴウキン)
溶解させると劣化する魔鉱石を、粉末状に砕いて低温で金属に錬りこむ加工法。
魔法的な効果は高いままに自由な形が作れるが、金属として不純物が混ざっている上、低温で融ける金属は大体柔らかい。
……とか書いてみたが、今回登場した『白い剣』も、前話で登場した『赤い短剣』も普通に融かして混ぜているので関係無い。