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俺と私と”魔法の世界”  作者: ながも~
セアルクニーグ皇国編
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Dive_18 薄紅色のマンゴーシュ


 街の出入り口である南広場から外大通り沿いに東へ。

 南広場付近は王都から輸入した品等が多く並んでいましたが、東方面には回復薬や魔法具、また魔術都市なので少ないですが武器等を扱っている店があるそうです。逆に、西側は研究施設や図書館等が多くあるようですが……そちらに用事は無いので行く必要は無いでしょう。


 ちなみに、この魔術都市は奇麗な円形をした都市で、円形の防壁の中に二重の円形大通り『外大通り』『内大通り』があり、東西南北中央の5カ所に円形の広場があるそうです。ちなみに出入口は東西南の3方向。

 何故円形ばかりか、と言うとサークルには数学的、魔術的に大きな意味を持つとかなんとか。まあ、実際は特に意味なんて無いのでしょうが……閑話休題。

 

 

「着いたぜ隊長、この一角が数少ないこの街の武器屋だ」


「案内ご苦労様です……しかし、本当に少ないですね」



 マグナが案内してくれた東広場の一角、確かに武器屋がありました。

 あったのですが……3店しか無いというのは流石に予想外です。やはり魔術都市、主に扱っている武器は魔法具ばかりという事でしょうか。



「まあ、倉庫がデカいから在庫数は凄いぜ? んじゃ、俺は各種消耗品とやらを見繕って来ますよっと」



 そう言うマグナは、肩のあたりで手を振りながら、さっさと行ってしまいました。どうやら消耗品等はココより北の方で扱っている様ですね。

 

 ……さて、私も彼の為に武器を探さないと。

 

 




 最初は3軒並んだ武器屋(正確には武具屋)の内、向かって左に位置する店に入りました。

 どうやらこの店は赤魔鉱石を使った強度を重視した武器を扱っているようです。

 要は敵の攻撃を受け止める為のマンゴーシュと呼ばれる短剣などが多く扱われているのですが……なんで防具は扱って無いんでしょうね。武器しか探していないのでどうでも良いのですが。

 

 し、しかし……店主に「お嬢ちゃん」などと呼ばれるとは思いませんでした。王都では「陛下」、もしくは様付けでしたから……新鮮です。



「で、お嬢ちゃんはどんな武器を探してるんだい?」


「ええと……振りやすくて丈夫な剣、ですかね」


「剣はちょっと置いてねえなぁ……メイスならあるんだが。ご覧の通り、ウチで扱ってる武器は防御用ばかりでな……刃物は精々、お嬢ちゃんがさっき見てたマンゴーシュくらいしか扱って無いんだわ」


「そうですか……」



 確かに、この店で扱っている武器は先程も上げたマンゴーシュを始め、棒や槍などの『払う』事に向いているモノばかりです。数少ない例外がメイスでしょか?



「丈夫って言えば赤魔鉱石だが……ソレを使った武器を扱ってる店はココじゃあウチだけだしなぁ。―――おお! そういやこの間、二軒隣の魔法具屋が面白い剣を仕入れたって言ってたな、行ってみたらどうだ?」


「面白い剣……ですか?」


「おう、何でも切れ味と強度の両立を目指した武器らしいぜ」



 切れ味と強度の両立?

 それを聞いて最初に浮かぶのは、今も私の腰に下がっている『黒剣』です……が、これは黒菜さんという一種の『神』としての知識、そして権限や加工技能(物質構築)があるからこそ生み出せるモノです。

 

 それを人としての技術範囲で目指した……と。

 興味ありますね、それに黒剣を扱う上での彼の為の練習用に丁度良さそうです。



「ありがとうございます、その店に行ってみますね」


「おうよ、お嬢ちゃんのご期待通りの剣だと良いな!」


「えぇ……あ、情報料代わりに、そこのマンゴーシュを1本買わせていただきますね?」


「ハハッ、結構わかってるじゃねぇかお嬢ちゃん、情報は大事だよな! 世間知らずのボンボンかと思ったが、この手の話も通じるもんだなァ―――ちなみに4,800pxなそれ」



 ……約5千ですか、かなり安いのですが……やはり長剣より刃が短い分、短剣の方が安いのでしょうか?

 どうやら赤魔鉱石の使用量を抑えつつも強度を落とさない様に、良質な鋼を使ってい、魔力を流していない際の『素の強度』も高め―――と、解説に書いてありますが。それが真実ならば、もう少し高くても良いような……?


 まあ最悪、不良品を掴まされても、あまり使う予定も無いので大丈夫でしょう。




「情報は時により剣をも超える武器になりますし―――はい、4,800px分です。足りてますよね」



 そう言って、出すのは比較的大粒な、しかし純度の低い紫魔鉱石をいくつか。

 EWでの通貨単位はpxパープル・クリスタルと言い、紫魔鉱石の含有エネルギー量を価値として取引されます。誰でも魔力エネルギー感知は相応に出来るからこそ使える通貨ですね。

 つまり、魔物を倒せばお金が手に入る……という訳で、態々魔物討伐隊などを作らなくとも、お金稼ぎに魔物を狩りに行ってくれる人が現れるので理に適って(?)います。

 

 まあ、割と大雑把な測定なので50px分くらい余分に払う事も多々あるのですが。

 ……お、お釣りが手持ちで無い時に、紫魔鉱石を砕いて余剰分を返すという事も出来て、結構便利なんですよ?

 

 むう、やはり通貨換金システムを実装するべきでしょうか?

 でも、無くても困らないんですよね……偽造とかされないですし。



「ハハッ、違ぇねぇや。―――ああ、足りてるよ……まいど!」


「ありがとうございます、大切に、かつ存分に使わせて頂きますね?―――あ、今更ですけども。少し試し振りさせてもらっても?」


「おう、良いぜ……そうだな、その辺のちょっと空いてる場所でやってくれや。別に商品傷付けなきゃ何処でやってくれても構わねぇが、そこが一番広い」


「ありがとうございます……あ、ここですね? 確かに振れる程度のスペースはありますね……では」



 店主から受け取った、値札を剥がされた短剣を鞘から抜く。

 ―――グリップを握り締め、意識を短剣へ……鑑定、開始。

 

 武器種……刺突短剣

 用途……近接補助用

 効果……赤魔鉱石を刀身と鍔に使用。魔力供給により強度上昇。

 

 握り心地も悪くないですね、よく手に馴染みますし。

 手に吸い付く様な……確りと握り込めますし、攻撃を受けた際に、そう簡単には弾き飛ばされませんね。



「……あの、すみません。試し切りできるようなモノは無いですか?」


「ん、試し切りか。だったらその辺に転がってる木片とか金属片使ってくれ。前は試し切り用の木偶があったんだが、あんまり人が来ないんで直すのが面倒でな。切り刻まれた破片しか残って無えんだ」



 ……確かに、隅の方に大小様々な塊が転がってますね―――では、この木片で。

 見た所、芯材のようですから……木材としては強度は十分高いでしょう。


 では続いて、刀身へと魔力を流し込み、赤魔鉱石の効果『硬度上昇』を発動。

 先程の材木に、短剣の先端が掠る程度の位置で振り抜き……短剣の先端チェック。


 刃先健在、刃毀れ無し。材木にはちゃんと深さ1センチ程の溝が出来てるので、短剣は確りと材木に直撃したようです……ちょっと深すぎました。

 まあ、これだけやって折れないのですから、ゴーレムのような硬い相手に突き立てなければ基本的に折れない程度の強度上昇はあるようですね。



「凄まじく扱いやすいですね、軽くて取り回しも良い……掘り出し物、という奴ですかね。むしろ5千程度の値段というのが信じられないです」


「……驚いた、護衛にでも持たせるのかと思ってたんだが。お嬢ちゃん、中々の使い手っぽいじゃねえか……いや、中々なんてモンじゃ無ぇな、この街にもある程度の戦士は居るが、お嬢ちゃん程の使い手は居ないぜ? ―――アンタ、一体何者なんだ?」



 ……軽く2、3回振っただけなのに、そこまで解りますか。

 この店主の見る目も中々ありますね。

 でも、流石に「皇女です」なんて教える訳にもいかないですし。ココはアレでしょう。


 

「ふふっ、『情報は大事』……ですよね?」


「ハッ、そうだったな。……まあ何だ、また近くにでも寄ったら見に来てくれよな」


「ええ、では、また―――」



 店主との会話もそこそこに切り上げて、店の外へ。

 目指すは2軒先、3軒並んだ武具屋の向かって右側。

 

 ……あぁ、でも少しくらいなら教えてあげても良いかもしれませんね。

 


「―――そう、これは『とても良い品』を格安で売って頂いた事へのお礼です」


「あん?」


「私は……王都から来た、皇国最強の剣士、とでも名乗って置きましょう。どうです、カッコ良いでしょう?」


「ハッ、最強ね……中々言うじゃねえか。まあ、さっきのをお嬢ちゃんの剣の腕なら、相当強くはあるんだろ……じゃあまたな、皇国最強の剣士様」


「ええ、また会いましょう。北の街『最硬』の武器屋さん」



 挨拶を交わし、今度こそ私は次の店へ……というか、先程の会話はドア付近でしていたのですが。

 まあ、あまり時間を掛けてもマグナ達を待たせるだけですから、ささっと件の剣を買って行きましょうか。

 









 ―――― バタン。

 扉の閉まる音が部屋に響く。



「ふん、『最硬』の武器屋か……良いじゃねえか、その名前」



 自称『皇国最強の剣士』が出て行き、客が居なくなった店の中。

 店主は先程の女性の事を考えていた。



「ったく、皇国最強の魔法使いを名乗るならまだ良いが、剣士はマズいだろ。この国最強の剣士と言えば、我らが皇女様じゃねえか………俺以外が聞いてたら、民衆に袋叩きだったんじゃねーか?」



 カウンターに座る店主は、彼女が出て行った店の入り口へと視線を向け、溜息を吐く。



「……ん? そういやさっきのお嬢ちゃんは金髪碧眼だったが………そういや皇女様もそんな容姿だとか聞いたな、実際に拝見してねえから知らんが―――まさかな」



 男は脳裏に過ぎった可能性を捨てる。

 別に良いじゃないか。さっきの客は、ただの皇国最強の剣士のお嬢ちゃんだったのだから。




 ――― あー、不敬罪になったりしねえよな?


●通貨単位:px(PurpleCristal)

紫水晶の意味。つまり紫魔鉱石の事。

EWでは魔物を倒す事で得られるエネルギー結晶=紫魔鉱石をお金として利用可能。

ただし、国によっては紙幣に換金しないと使えない地域も存在する。


●『鑑定』

 対象へ意識を向ける事で、その詳細データを閲覧するスキル。

 詳細と言っても、某剣製さんみたいに「歴代の使い手」「製造方法」「詳細な材料」といったようなモノは解る訳が無い。精々、「どの魔鉱石が使われているか」だとかその程度。鑑定慣れしている人だと質の良さ等も判断可能にはなる。

 また、魔法の術式を読み取る際にも利用可能。

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