Dive_14 私と私とオーク洞窟
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ありがてぇ……ありがてぇ……ッ
これからもホイホイ書き方が変わる予感がする小説ですが、どうかよろしくお願いします。
それと、前話最後に若干の加筆修正を行いました。
一応今回の話にも続いてるので先に読み直してからをオススメします。
っていうかなんで前話をあそこで切ったんだ私。
今回の話は前回に引き続き余談祭りです。なので謎設定も過去最長です。
あ、でも話はちゃんと進むので安心してくださいね!!
結局、「洞窟掘ったのモグラじゃね?っていうかどうでも良くね?」という結論を出した一行は、クエスト完了には最奥まで確認する必要がある為に仕方ないのでとりあえず行き止まりまでは進む事にした。
出来ればこの洞窟に原因なり黒幕なりあってほしいものである……とはマグナの談。
そして洞窟の奥へと脚を進めること数分、慎重に慎重を重ねている為に距離はあまり進んでいなかった。
一行は縦1列に並んでおり、先頭ではフィリアが剣を正面に構え、前方に向けて気配を殺しながら警戒するという実に精神的疲労がマッハな事をしていた。
その後ろからマグナが脚元がギリギリ見える程度まで絞った灯を魔法で付け、珍しい事に物凄い真面目な顔をしてフィリアの補佐をしていた。
最後尾にはアルマが控えており、一応背後(というか入口)から襲撃が来ないかを警戒していた。
ちなみに灯りを絞っている理由は、敵に見つかり囲まれる事を防ぐ為である。
周囲に漏れる光を極限まで減らし、その上で周辺に光を吸収する特殊粉末……通称シャドウパウダーをバリアのように漂わせているのである。もちろんコレもマグナが制御している。
完璧に余談だが、マグナが真面目な顔をしているのは灯やシャドウパウダーの制御ではない。
……いや、ある意味灯の制御なのだが、単に火力主義者であるマグナ自身が指先の灯をフラッシュグレネードさせたい衝動に耐えているだけである。
正直マグナは敵に囲まれても如何とでもなる(広域殲滅。洞窟は崩れ落ちる)と思っており、ぶっちゃけ何か問題が起こったらその都度対処するというテキトーさ加減なのだが……つい先程、フィリアに絞られた(物理的に)事がよっぽど堪えたらしく、正直頭の中は「また絞られるのはマジ勘弁」で一杯だった。
………実に長い余談である。
まぁつまり何が言いたいかというと、長い事狭くて薄暗い……ついでになんかジメジメしている洞窟の中、気配を殺して周囲を警戒しながら歩いていると
「……この奥に原因ありますかねぇ」
「さぁ、どうでしょうか……ある事を祈りますか?」
「オイノリして御利益のあるカミサマなんて居ましたっけ?」
『とりあえず武神ならココに居るよ?まぁ御利益とか言われても困るけど』
「……あれ、黒菜さん起きてたんですか?」
『フィリアが刀身に魔力流してくるから起きたのに……あれ無意識だったの?』
「そんな気は無かったんですが……起こしてしまって申し訳ないです」
「……もしかして隊長、初めての緊張って奴じゃないですか?……クククク、こりゃ今夜はお赤飯ですね」
「『マグナ、あとで絞る』」
「ちょっ」
――――要はダレるのである。
しかしダレっても警戒は解いていない。ダラダラ喋りながらも気配まで殺しているあたりがこの2人の意味不明な処である。
ちなみにAI持ちにとってダレるという事は同一処理を長時間連続して行う事による「あれ?ループ入ってんじゃね?もしかして詰んだ?」という事態への対処である。まさに余談。
対処内容としては、まず実行中の処理は『処理し続ける必要があるのか』を判断し、必要ならばそのまま実行、不要ならば『現在の情報を保持する必要があるか』を判断する。
そしてその判定を各部で行い、無駄を省いて行くのである。
その結果、2人の出した最終結論は揃って 「サーチアンド・デストロイ」であり、フィリアは構えていた剣を下ろし、マグナはシャドウパウダーの保持を止めた上で周囲がハッキリ見える程に明りを強くしていた。
突然の襲撃等も防げる様に空間干渉を用いた防御フィールドの展開も忘れて居ない。
まぁつまり、この解説の間に2人とも気配を殺す事を止めて普通に歩いていた。足音出しまくりである。
と云うか、そもそも殲滅するつもりなので敵が来てくれた方が楽なのであった。最初からそうしろ。
そんな感じで2人が超能天気な馬鹿思考理論を展開していた一方、最後尾でアルマは背後を警戒しつつも思考に埋もれていた。
(………私は付いて来た意味があるのだろうか……?)
所謂存在意義への問いかけ、一種の厨二病。
要するに「最近、私の出番が無い……」である。実にメタい。
今でこそ洞窟探検等という寄り道をしているが、本来この旅は寄り道無しで考えると『敵を蹴散らしてラスボスの所まで行けば良い』というだけのモノである。
防衛特化型であるアルマは確かに護衛に向いているが……旅の目的上、マグナを先頭にしてただ只管敵を吹き飛ばして一直線に目的地を目指せば良いだけである。つまり自分が居る必要が見当たらなかった。
これがマグナなら「まぁ良いか、仕事が少なくて済むならそれで良し。っつーか元からタダ働きだしなぁ……途中で何か売れそうなモノ落ちて無いかね?」で済むのだが、残念ながらアルマは良くも悪くも真面目思考。要するに思考の渦にスパイラルデフレでストップ安だった。国営なので破産できない辺りがリアルである……実際はどうか知らないけど。
(そもそも、今のフィリア様は全快では無いとは云え、私より遥かに強い……護衛の必要はあるのか?)
実際、アルマはフィリアよりも割り振られているリソースが少なく、存在としては完全に下位なので基本的に勝てるハズが無いのだが……体感時間にして約80年。それ程の年月を過ごすと流石に忘れる。
と言うよりも、アルマ自身も当時はそんなこと如何でも良いと思っていたので記憶の再奥にしまわれてしまったのだ。その上から何度もデフラグ(最適化)されたので基本的に思い出せない。これは情報化社会の影響か……と思いきや関係無い。極普通に人間だって忘れる事は良くある。プログラムだけど。
しかしこれだけ鬱思考『ループ』していると、先ほどフィリアとマグナにも行われた処理が自動起動し―――
(私は護衛、フィリア様の盾だ!……いやフィリア様自身が剣なのだ、ならば私はナックルガードか?)
―――と、時間が経てば鬱真っ盛りに突入していたアルマもあっさり復帰する。これも思考ループからの脱出処理のちょっとした応用である。応用どころか基礎だが。
ちなみにアルマがループ脱出時に出した結論は「どうでも良い」である。つまり思考停止で現実逃避。これからはアルマも自分の存在意義で悩む時間は少なくなるだろう……一度出した結論はログに残し、また今度同じ思考ループに陥った際に参考にするのである。
余談にマグナは一度出した結論をそのまま流用する。マグナのテキトーさ加減はこの辺りから来ていた。
(何故か心が羽の様に軽い……フィリア様ご安心下さい、貴方の背中はこの私、アルマ―――アルマート・ヴィースリートがお守りしてみせます!!)
悩みを解決(放棄)したアルマはその開放感から十全に能力を発揮した。能力は警戒と護衛、つまり異変察知と防御。
まず最初に異常な程に気温が上昇している事に気付いた。
――― 前の2人は防御フィールドを展開していて気付かない。
、床が陶器のように固まっている事に気付いた。
――― 2人は奇襲にのみ警戒していて気付かない。
前方が若干だが赤く光っている事に気付いた。
――― 手元に強力な灯がある為気付かない。
熱くて、大地を舐め、赤く光る。その条件から出される答えは超高温のナニカ。
そう認識した瞬間からアルマは膨大な思考リソースを用いてこの先の展開を予測する。
この山周辺に生息する獣や魔物の中から熱線または炎扱うモノを検索。
―――0件ヒット。
人間などがこの洞窟で炎を使っている可能性。
―――前例無し。
結果、得られた答えは『そこに熱源がある事は有り得ない』。
どう考えてもこの先には何かがある……それも危険なモノが。
しかし2人を止めるには遅すぎる。赤い光は凄まじい速さでその光を強くしていた。ソレを認識できるているのも今のアルマの思考が高速化されている為。
何がこの先にあるのか全く分からない。
対処法が全く解らず、完全に予測不能。
(だがそんな事はどうでも良い……私はフィリア様の盾だ!)
考える事を止めていたアルマは考える前に行動を起こす……やる事はただ一つ、護衛対象を背に庇い全力で防御するのみ!
「フィリア様!」
「―――アルマ?!」
飛び出した時には既に目の前は灼熱の炎で塞がれており、フィリアも流石に炎の壁に気付いて後退する。
想定外かつ急展開の状況に慌てるフィリアを背に、アルマは慌てず焦らず大盾を正面へと構え……全力で魔力を流し込んだ。
その瞬間から盾からは薄らと赤い光が漏れ始め、その光に遮られるように炎の勢いは止まり火の粉を散らした。
「マグナ、フィリア様を!」
「言われなくともだよ!」
全てを言う前にマグナは理解し、フィリアを自身の防御フィールドの効果内に引き込む。それを確認したアルマは魔力を抑え、盾から溢れていた光が収まる。それでも鋼鉄すら溶かす程の高熱を盾は防ぎ、それどころかアルマに熱すら伝えなかった。
「へぇ、アルマが遮断盾使ってるの初めて見るわ」
「正直言って私もコレを使うのは初めてですよッ」
アルマが持つ遮断盾、それは赤魔鉱石を用いて造られた盾であり魔力を流せば物理法則の大半を無視するようになる。その効果範囲には当然『熱』も含まれていた。
しかしその絶対的な防御も長くは続かない。元からアルマの魔力量は少ない為、如何にシステムの隅々まで知っているAI持ちと言えど魔石光を放出、それも純度の低い鉱石で行えば即ガス欠に陥る。
「フィリア様、申し訳ありませんが……魔力供給を代わって貰えませんか」
「すみません、何か立てなくて……これが『腰が抜けた』という事でしょうか」
「む……ではマグナ、盾への魔力供給を代われますか?」
「いや、俺って調節苦手だからその盾ブッ壊しそうだわ」
魔鉱石も過剰に魔力を流し込むと破壊されてしまう。純度が高いモノや巨大なモノならばその限界も大きい為にマグナでも扱えたのだが……いくら白魔鉱石に混ぜてあるとは云え、純度が低いモノを扱った事が無かった。
ちなみにフィリアは人間的な精神が混ざっている為に本気で驚き、人生で初めて腰が抜けていた。
「………そろそろ限界です」
「マジか、何か手は無いのか?流石に炎をフィールドで受け止めるのは無理があるし……隊長のブローチは最後の防壁だから却下……むう、いっそ天井崩すか?」
天井を崩して炎を遮断、要するに防火シャッターである。
利点は手っ取り早く炎を防げる事、欠点は先に進む必要があるので塞いだ道をまた開かなくてはいけないという事……つまり道を開通したら炎がまた襲ってくる可能性があった。
それに先程から炎は弾丸のように飛んでくるのでは無く、火炎放射のように吹きつけて来ていた。土や石の表面を溶かす事が出来、長時間炎を吐き続ける事が出来るような存在である、その保有する熱量は崩した天井すら溶かしてこちらへやってくる可能性もあった。
「赤魔鉱石ありました!!マグナ、コレを使ってください!」
「よっしゃぁ任せろ隊長!早速行って……ん?」
マグナは困惑した。フィリアが渡して来たのが黒い刀身を持つ剣……要するに黒剣だったからである。
「隊長、これ黒剣だよな?……赤魔鉱石じゃなくて黒魔鉱石じゃねえかコレ?」
「時間が無いんだから文句言わない!刀身側面の赤いラインに魔力を思いっきり注ぎなさい!」
「ハァ?!……ええいもう知らん、やるぞ!やるからな!!……何ィ?!」
考える事を止める事に定評のあるマグナが言われた通りの方法で魔力を流し込んだ瞬間に赤いラインが刀身全体へと広がり、刃部分を残して赤く輝き始める。
その光は完全に炎を抑え、盾へのアルマの魔力供給が切れても炎が盾を焼く事は無かった。
「マジでなんとかなったわ……諦めない事って大切だよな」
「その通りではありますが、マグナに言われると何かイラッとしますね」
「まぁ同感ですね……」
マグナの魔力量はアルマの比では無いので既に危機は凌いだ。お陰で冗談も言える。
しかし、一時的に防いでいるだけであり、元凶はまだ健在であった。
「で、あれが元凶ですか」
呟くフィリアは先ほどまでアルマの大盾で塞がれていた洞窟の奥へ視線を向け、呆れた様にため息を吐いた。
そこにあったのは全身から炎を吹き出している良く解らない不定形物体。
「……何でココに居るんでしょうね、ラーヴァスライム」
やはりというか何というか、ソイツは山どころかこの大陸に居ないハズの魔物だった。
~~本日の謎設定集~~
●灯魔法
魔力を光に変換する技術。簡単に言うと指先電球。
当然込めた魔力量が大きくなる程に明るさが上昇する。やろうと思えばフラッシュグレネードみたいな事も出来る。
基本的に光に熱は含まれておらず、どんなに浴びでも熱くは成らない……が、やろうと思えば熱を含む光を放つ事も可能。ただし火炎放射でもした方が早い上に魔力の無駄なので滅多に使われない。
また、指向性を持たせて一直線に放つ事でレーザーにもできる。この場合はもちろん熱を含める必要がある。浪漫魔法。
一般的にはカンテラのような形をした道具に術式を込め、魔力を流して使う。
マグナは指先に魔力を集中させて発光している。見た目的には某世界的に有名な自転車で空を飛んだ友達宇宙人のアレ。
●影粉
大抵の冒険者達が所持しているアイテム。割と安価で便利な上、自作も可能なモノ。
主に装備の金属部に付着させる事で光の反射を防ぎ、奇襲や逃走を目的として隠れる際に利用される。
その実体は大抵の場合炭の粉。時々良く解らない調合の果てに出来る高級品もある。
要するに艶消しブラックの粉末。それ故に抑えられる光量には限界がある。
●掌握魔法
自身を中心として周りの空間にある物質を操作する精神魔法。
簡単に言うとサイコキネシス……物体に触れずに操作する。
今回マグナがシャドウパウダーを周囲に固定していたのがコレ。
普通は粉末のような微細な物体を多量に保持する事は難しいというかマジダルいので誰もやらないのだが……そこはチート魔法使いマグナ。周辺空間をお纏めて掴むというちょっとした応用である。
ちなみにフィリアが空を飛ぶ時に使ってるのもコレの応用。
何はともあれ応用性が高く、何かと便利な魔法。
●空間干渉式防御フィールド
掌握魔法の応用の1つ。
周辺の大気に干渉し、敵の攻撃を反らしたり止めたりする事が可能。
簡単に言うと指定範囲内だけ空気抵抗を極端に上昇させる感じで、棍棒などの打撃系(面が大きい)攻撃が通り辛くなる。
刃物等の線が向かってくる攻撃ならば通らなくも無いが、効果範囲内で大気を対流させる事で反らす事ができる。点で向かってくる突きでも槍だと刃側面や棒部分に抵抗が掛かり流される。
対処法としては対流の流れにそって攻撃するか、抵抗が掛からない程の力と速さで強引に抜く、あるいは爆発などで大気そのものを吹き飛ばすか、別の魔法(魔力)で干渉して効果を弱める方法がある。
●アルマの解放感と能力フルドライヴ
簡単に説明すると以下のような感じ。
思考ループに陥り、その処理でリソースを喰いまくる。
→リソースが足りないので不要な処理を一時凍結、または破棄。
→思考ループ脱却処理が働き、使っていた大量のリソースが解放される。
→ものすごく頭が回転するようになり、凄い能力を発揮する。
―――――要するに賢者タイムである。
●ラーヴァスライム
マグマそのものが動いているような、そんな魔物。
詳細は次回のあとがき。