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灰色探偵ユウマの放課後事件録  作者: たくわん。
第3事件 消えた主役と舞台裏の影

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第2話 舞台裏の残響



 講堂の幕が下りたのは、午後一時三十分。

 客席はざわめきながらも、「新しい演出だ」と勘違いした観客たちは拍手を送っていた。

 けれど、舞台袖の空気はまったく違った。


 スタッフの顔は蒼白で、顧問の田嶋先生は声を荒げていた。


「七瀬はどこだ!? どこへ行ったんだ!」


 照明係の小坂トモヤが答える。

「さ、さっきまで舞台にいたんです! 暗転の直前までちゃんと見えてました!」


 ユウマは舞台の中央に立ち、静かに周囲を見渡した。

 ドレスの裾がかすかに引きずった跡。

 その先には、点々と水滴が続いている。


「……やっぱり」


 ユウマは指先でその水をすくった。

 ほんの少し、甘い香りがする。


「香料入りのドライアイス用リキッドだな。舞台効果で使うやつだ」


 ミナトが背後で首を傾げた。

「それが、どう関係あるんだ?」


「この床の模様を見ろ」

 ユウマは指で舞台奥のラインをなぞる。

 白いテープが二重に貼られており、内側の線がわずかにずれている。


「つまり――この舞台には“もう一枚の床”があるんだ」



 舞台裏。

 ユウマは木製のパネルを持ち上げた。

 下には小さな空洞。照明コードと配線が走っている。


「可動式の舞台装置だ。演出上、床を下げて雪崩のシーンを再現する仕掛けがある」


「つまり、レイカはこの下に……!?」

 ミナトが身を乗り出した。


「それならすぐ見つかる。けど――」

 ユウマは首を振る。

「センサーが動いてない。仕掛けは作動していない」


 その瞬間、舞台奥の幕の裏から声がした。


「……それ、私が止めました」


 現れたのは、演劇部副部長の白鳥カレン。

 長い黒髪を揺らし、どこか挑むような目をしていた。


「安全確認が取れなかったから。リハでパネルが少し歪んで、危ないと思って」


「つまり、本番では床の仕掛けは動かない状態だった?」


「ええ。でも、照明を落としたのは私じゃないわ」


 カレンは腕を組み、舞台奥を見た。

「暗転の合図は、先生からトモヤくんへ、そして照明卓に。

 でもその間に、誰かが“もう一度スイッチを入れた”」



 ユウマは照明室へ向かう。

 狭い通路の先、薄暗い部屋。

 卓のランプがまだ微かに光っていた。


 小坂トモヤが追ってくる。

「俺、本当に知らないんです! いつも通り操作しただけで――」


「いや、君じゃない」

 ユウマはパネルの裏に指を差し入れた。

 そこには、小さなリモコンの受信機が取り付けられていた。


「外部操作用のスイッチ。これで照明を落とせる。

 本来は緊急時に使うものだが……コードが新しい」


 トモヤが青ざめる。

「誰が、こんな――」


 ユウマはリモコンの裏をめくり、小さなシールを見せた。


 そこにはマジックで書かれた文字。


 “KAREN”。



 舞台に戻ると、カレンは落ち着いた声で言った。

「……そう、それは私のです。

 でも、それで七瀬を消したなんて言うつもり?」


 ユウマは静かに首を振った。


「いや。君が“消した”んじゃない。

 彼女が自分で消えたんだ。」


 カレンの目がわずかに揺れる。


「どういう意味?」


「暗転の瞬間、照明は完全に落ちたわけじゃなかった。

 一瞬、残光があった。

 その光で、鏡面パネルが“背景と同化”したんだ」


「鏡面パネル?」


「雪山の場面を再現するための反射パネル。

 彼女はその裏へ滑り込み、観客から見えない位置に隠れた」


 ミナトが驚く。

「まさか、そんな狭いとこに!?」


「ドレスの裾に防寒素材が仕込まれていた。

 つまり、計画的だったんだ」



 田嶋先生が息をのむ。

「じゃあ、七瀬は……自分から舞台を降りた?」


「ええ。でも問題は、その“理由”です」

 ユウマはドレスの裾から見つかった細いリボンを掲げた。

 端には、焦げ跡。


「照明リモコンの受信部の上に、このリボンがかかっていた。

 誰かがわざとそこに置いたなら……彼女を“消す演出”を利用した可能性がある」


 カレンは息を止める。

 その目に、初めて恐れが宿った。


「……まさか、あの映像も?」


 ユウマはうなずいた。

「放送部のカメラ。照明が落ちた瞬間、映像だけが途切れた。

 つまり――“見られたくない瞬間”があった」



 講堂の外から、騒がしい声が近づく。


「レイカが……! 見つかったって!」


 ミナトが顔を上げた。

「どこで!?」


「屋上の非常階段下。気を失ってたけど、命に別状はない!」


 田嶋先生が胸を撫で下ろす中、ユウマはただ空を見上げた。


「……舞台の幕が上がるたび、人は仮面を被る。

 でも、本当に怖いのは“幕が下りたあとの沈黙”だ」



次回 第3話「幕の裏の真実」

――主役は、なぜ自ら舞台を去ったのか。

 その“消失劇”の裏で、もう一人の誰かが笑っていた。


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