表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色探偵ユウマの放課後事件録  作者: たくわん。
第26事件『記録と現実の狭間で』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/78

第2話「記録室の亡霊」



翌朝。

学園はいつも通りの喧騒を取り戻していた。

けれど、ユウマの心は静かに波立っていた。


あの映像。

“自分自身”が“実験を開始した”という記録。

そして、存在しないはずの「第0事件」。


それが意味することを、まだ誰も説明できなかった。


「ねぇユウマ……昨日のこと、先生に報告した方がいいんじゃない?」

「……いや、まだだ」


ミナトの提案を、ユウマは首を横に振って拒んだ。


「証拠が足りない。何より――確証がない。俺があの映像の“本人”なのかも分からない」


その声には、迷いと冷静さが混ざっていた。

まるで、自分自身を“容疑者”として推理しているかのように。



放課後、二人は旧校舎の地下にある記録保管室へと足を踏み入れる。

そこは十年前に閉鎖された“実験棟”の一部で、今は立ち入り禁止区域。

けれど、ユウマは以前の事件でこのエリアの鍵を手に入れていた。


「……ここが、“記録”の原点か」

「うん。でも、すごいね。ホコリの匂いと……金属の焦げた匂い?」


壁には、古いサーバーラックが並び、

中央には停止した大型モニターと録音装置。

床には、焦げたようなケーブルの跡が残っている。


ユウマは慎重に装置を調べ、

一つだけ、電源がまだ通っている端末を見つけた。


「動く……ログファイルが残ってるな」

「待って、これ……ロックされてるよ。“観測制限:ユウマ・カザミ”」


ミナトが目を見開く。

ユウマは無言で端末に手を置いた。

ピッ――指紋認証が通る。


画面に映し出されたのは、昨日と同じ暗い部屋。

ただ、今度は“続き”があった。


『——被験体No.01、意識記録安定。観測実験、第二段階へ移行。』


声が響く。

白衣の人物が立ち上がる。

その目には疲労の影。

そして机の上には、“灰色のバッジ”が置かれていた。


『……記憶を保つためには、もう一つの“自己”が必要だ。』

『もし片方が消えた時、もう一方が記録を再生する。』

『それが、この観測システムの完成形——』


映像が途切れる。

そして、背後で小さな物音がした。


「……誰か、いるのか?」

「ユウマ、後ろ!」


振り向いた瞬間、

廊下の奥、暗闇の中に人影が立っていた。

白衣を着た青年――その顔は、ユウマと同じだった。


「……やっと、来たか」


静かな声。

それはまるで、遠い昔から待っていたような響き。


「お前……誰だ?」

「俺は、お前だよ。記録の中に置き去りにされた“もう一人のユウマ”。」


ミナトが息を呑む。

ユウマの指先が震えた。


「冗談だろ。そんな……」

「冗談じゃないさ。俺は、お前が“探偵”として存在できるように生まれた観測者だ。」


もう一人のユウマが、薄く笑う。


「この学園で起きた全ての事件は、“観測”の実験だったんだ。

人間が“真実”をどう見抜くか、その記録を残すための。

そして――お前はその観測対象に過ぎなかった。」


「そんな……全部、嘘だというのか?」

「違う。“全部、本物”だ。だが、それを見ていた“視点”が偽物なんだ。」


ユウマの脳裏に、これまでの事件が走馬灯のように流れる。

鐘の音、硝子の破片、雪の記憶、動く標本、そして……最初の“謎の声”。


「……全部、仕組まれてたっていうのか」

「ああ。だが、最後の選択は“お前”にしかできない」


もう一人のユウマが、懐から灰色の装置を取り出す。

それは、かつて“第25事件”で見た「偽装スイッチ」と同型のもの。


「このスイッチを押せば、“記録”は全て消える。

お前が自由になる代わりに、“真実”も失われる。」


「……消さなければ?」

「この世界は、永遠に“観測”を繰り返す。俺も、お前も。」


ミナトが一歩、ユウマに近づく。

その声は震えていた。


「ユウマ……どうするの?」


ユウマはしばらく沈黙した。

そして、深く息を吸い込み――微かに笑った。


「……探偵の役目は、“終わらせる”ことじゃない。

真実を、見届けることだ。」


手の中のスイッチが静かに光を失う。

その瞬間、記録室の照明が一斉に消え、暗闇が二人を包んだ。


「これが……観測の、終わりか」

「いや。ここからが、現実の始まりだ」


光の残滓が揺れ、

もう一人のユウマの姿がゆっくりと溶けていく。


「ありがとう、“俺”」


その声が最後に残り、闇が全てを飲み込んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ