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灰色探偵ユウマの放課後事件録  作者: たくわん。
第26事件『記録と現実の狭間で』

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第1話「歪む証言」


午後五時、放課後の学園は、いつもの静寂に包まれていた。

夕焼けの光が理科準備室の窓を斜めに差し込み、埃の粒を金色に染める。


ユウマは机の上に散らばる紙束を整理していた。

それは、今まで自分たちが関わってきた二十五件の事件記録。

表紙には、それぞれの事件名が手書きで記されている。


「……こうして並べると、ずいぶんやってきたんだな」

「うん。どれも一筋縄じゃいかない事件ばっかりだったよね」


隣でファイルをめくるミナトが、穏やかに笑う。

しかしその笑みは、どこか寂しげでもあった。


ユウマは一枚の紙に目を止めた。

ナンバーが記されていない。

代わりに、黒く塗りつぶされたタイトル欄と、日付のない記録。


「……ミナト、これ、知ってるか?」

「ん? なにそれ」


ユウマはその紙を差し出す。

そこには、淡いインクでかすれた文字が一行だけ残っていた。


“第0事件 被害者:ユウマ・カザミ”


ミナトの手が止まる。

部屋の時計が、カチ、カチ、と音を刻んだ。

その音がやけに耳に響いた。


「……悪い冗談だな。俺が、被害者……?」

「でも、記録は本物だよ。学園の公式アーカイブに入ってる形式だ」


ユウマは唇を噛みしめた。

ありえない。自分はここにいる。

なのに、“被害者”と記されている。


「日付が……ない。発生場所も記録されていない」

「情報が意図的に消されてるみたいだね。……でも、削除の痕跡がない」


ミナトが眉をひそめる。

まるで、最初から“存在しなかった事件”のように。


窓の外、グラウンドに沈む太陽。

オレンジの光がゆっくりと途切れ、教室の隅に影が伸びる。


その瞬間、

——ジジジ、とノイズ音が響いた。


壁際のモニターが勝手に点滅し、画面に文字が浮かぶ。


《アクセス:アーカイブ・ノード》

《未承認ユーザー・カザミユウマ》


ユウマの名が、そこに表示されていた。


「……誰がこんな――」

「違う、ユウマ。これ、君の指紋認証で動いてる」


ミナトが青ざめた顔で画面を指す。

まるで、彼らが触れる前から装置が“待っていた”かのようだった。


映し出されたのは、古い映像データ。

暗い部屋の中に、机と記録装置、そして白衣を着た人物が座っている。

顔は影になって見えない。

だが、その声は――。


『……ユウマ・カザミ、観測実験、開始。』


自分の名前。

そして、自分の声。


ユウマは息を呑んだ。

確かに、これは自分の声だ。

だが記憶にない。


「……なあ、ミナト。これ、なんだ?」

「分からない。でも、どうやら“君自身の記録”みたいだ」


ノイズが走り、画面の中の人物が顔を上げた。

光の中から現れたのは、ユウマと瓜二つの少年。


『——もし、これを見ているのが“俺”なら。』

『記録は、もう一度、壊されるだろう。』


映像が途切れる。

沈黙が、部屋を満たした。


ユウマは小さく息を吐き、机に手をついた。

掌が震えていた。


「俺は……一体、なんなんだ?」

「落ち着いて。これ、きっと何かの実験データだよ。ほら、科学部がやってた観測記録とか……」


ミナトの声も震えている。

だが、目の奥に浮かぶのは“探偵”としての光だった。


「ユウマ。この“第0事件”……調べよう。全部、確かめよう」

「……ああ。そうしないと、終われない気がする」


夕焼けが完全に沈み、部屋が闇に沈む。

モニターの微光だけが、彼らの顔を照らした。


その光の中で、ユウマは確かに感じていた。

——何かが、この世界の根幹からずれている。

まるで、**自分自身が“観測されている側”**であるかのように。


そしてその夜、学園の中で“時間が一瞬止まる”異常が発生した。

時計の針は、午後五時を指したまま動かない。


“記録”が、再び再生を始めた。

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