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灰色探偵ユウマの放課後事件録  作者: たくわん。
第25事件「カバンの中の偽装スイッチ」

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第1話「仕掛けられた放課後」


 放課後の教室には、静寂が落ちていた。

 冬の陽が傾き、窓際の机の上を朱色に染めている。黒板のチョーク跡だけが、今日という一日の名残を告げていた。


「なあ、これ……誰のカバンだ?」


 後ろの席で、男子が一人、奇妙な表情をしていた。

 机の上に置かれた黒いスクールバッグ。その表面には、何やら銀色の金属装置のようなものが貼りついている。


「……スイッチ?」


 思わず口に出した。

 僕――篠原一真しのはら・かずまは、クラス委員をしている。放課後の見回りを兼ねて教室に残っていたが、そんなものが机の上にあるとは思いもしなかった。


 銀色の装置は、どう見ても普通の鍵ではなかった。

 中央に赤いボタンのようなものがあり、横には「ON/OFF」の刻印。まるで、映画で見る爆弾の起動スイッチのように見える。


「やばくね、これ……? 冗談にしては悪質すぎるだろ」


「誰のカバンなんだ?」


 そう言いながら、僕はカバンの持ち主を確かめようとタグを覗き込む。そこには――


 「日向 葵」


 と、きれいな字で名前が書かれていた。


「……ヒナの?」


 日向葵。隣のクラスの女子で、写真部の部長。明るくて、誰にでも笑顔を向けるタイプだ。けれど、数日前から学校に姿を見せていない。


 ――まさか。


「おい、篠原、押すなよ? 本当に危ねぇかもしれねぇぞ」


「押すわけないだろ。けど……これは、ただの“偽装”かも」


「偽装?」


「そう。おそらく、外見だけ爆弾っぽく作ってる“ダミー”だ。だけど――なぜこんなものを、葵が?」


 手を伸ばすのをためらいながらも、僕は慎重にバッグを持ち上げた。

 その瞬間――カチリ、と音がした。


「……え?」


 教室の空気が、凍りついた。


「今、鳴ったよな!? おい、マジで爆発とか――」


「待て!」


 僕は机の下にバッグを置き、呼吸を整える。音は、わずかな“クリック音”だけ。何も起きない。

 ただ、その一瞬の静寂が、異様に長く感じられた。


「……爆発しない。多分、音だけのトリックだ」


 そう呟いて、僕は意を決してバッグの中を開いた。

 そこには、教科書とノート、ペンケース。そして――


 一枚の写真。


 雪の中で笑う少女。赤いマフラーを巻いて、こちらに手を振っている。

 背景には、見覚えのある古い踏切が写っていた。


「これ……“赤いマフラーの少女”の写真じゃないか?」


 クラスメイトの一人が震える声で言った。

 その名は、この町で昔から語られる“都市伝説”だ。

 ――雪の降る夜、踏切に現れる少女。通りかかった列車が止まり、翌朝には誰もいなくなる。

 数年前、実際に踏切で事故が起き、ひとりの女子生徒が命を落とした。以来、彼女の姿を見たという噂が絶えない。


「……まさか、日向葵がその“少女”に関係してる?」


 僕の心に、不吉な予感が走る。

 だが、それよりも奇妙だったのは――バッグの内側、ポケットの裏地に貼りついたメモだった。


 そこには、こう書かれていた。


 > “スイッチを押すな。真実が止まる。”


「真実が、止まる……?」


 意味が分からない。だが、その文には、何か意図的なメッセージを感じた。

 まるで、僕たちに“何かを仕掛けた”かのように。


 と、そのとき。


 廊下の向こうから、足音が近づいてきた。

 コツ、コツ、と硬い靴音。放課後の静まり返った校舎に、異様に響く。


「誰か、来る……!」


 慌ててバッグを閉じたその瞬間、教室の扉が――ギィ、と軋んだ音を立てて開く。


「……見つけた。」


 立っていたのは、日向葵だった。

 制服のまま、髪は乱れ、頬は少し青ざめている。

 彼女の視線は、まっすぐ僕の持つバッグに向けられていた。


「そのカバン……触ったの、篠原くん?」


「え、あ、ああ……」


 彼女は静かに頷き、そして小さく息を吐く。


「それ、“起動”しちゃったかもしれない。」


「起動って――何を!?」


 葵の瞳が、どこか遠くを見ていた。

 その目の奥に宿るのは、恐怖でも後悔でもない。まるで――“覚悟”のような光。


「……放課後の仕掛けが、動き出したの。」



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