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灰色探偵ユウマの放課後事件録  作者: たくわん。
第24事件『赤いマフラーの少女』

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第2話 雪の向こうの視線



 雪が降りしきる放課後。

 ユウマとミナトは、写真に写っていた坂道――校舎裏の旧通学路へと向かっていた。

 街灯が等間隔に並び、白い雪を淡く照らす。


「ここが、あの写真の場所だな」

 ユウマがそう呟くと、ミナトはマフラーを首に巻き直しながら頷いた。


「三年前の事故、確かこの辺りで起きたんだ。坂の上から自転車で下ってきた子が、ブレーキが利かなくなって……」

「そして、雪の街灯にぶつかって倒れた。即死だったと聞いた」


 その事故で亡くなった少女――椎名アオイ。

 ユウマはポケットから例の写真を取り出し、雪の景色と照らし合わせる。


「なるほどな。写真の構図は一致している。ただ……」


 ユウマの視線が一点に止まる。

 街灯の根元に、誰かが置いたらしい小さな花束があった。

 雪に半ば埋もれていたが、そこに赤いリボンが結ばれている。


「これ、まだ新しい。誰かが最近、ここに来ているな」


「まさか、アオイの家族か?」

「もしかすると……“彼女を撮った人物”かもしれない」


 ミナトは息を呑む。

 「でもユウマ、あの写真、オレが撮ったんだぞ? 俺以外に誰が……」


「そう思い込ませるのがトリックだ」


 ユウマは写真を裏返す。そこには、誰かが鉛筆で書いたような小さな文字があった。

 「1/7・15:03」


「撮影した日付……じゃないのか?」


「お前が撮ったのは14:30だ。つまり、これはお前の文字じゃない」

「じゃあ……誰が?」


 そのとき、風が吹き、雪の向こうに古びた校舎の影が見えた。

 廃部となった音楽室の窓が、かすかに光を反射している。


「見たか? あそこだ。彼女が写真の中で見つめていた方向」


 ユウマの声に、ミナトは思わず息をのんだ。

 写真の少女――赤いマフラーのアオイは、まさにその窓を見ていたのだ。


 二人は雪を踏みしめ、静まり返った廊下を進む。

 古い木の床が軋むたび、どこか遠くで風の音が笛のように鳴った。


「……ここが音楽室」

 ミナトが扉を押し開けると、冷たい空気とともに、懐かしいピアノの匂いが漂った。


 部屋の奥には、カバーのかかったグランドピアノ。

 そして、その隣に――写真と同じ赤いマフラーが置かれていた。


「……!」

 ミナトの手が震える。

 「これ……本物じゃないよな? 誰が置いたんだ?」


 ユウマは静かにピアノの上を見た。そこには埃をかぶった古いカメラが置かれ、レンズがわずかにこちらを向いている。


「もう一台のカメラ、か」


「どういうこと?」


「お前が撮った位置よりも高い場所から、同じ構図で“撮られていた”可能性がある」

「つまり……オレたちが見た“少女”は、そのカメラの記録?」


「いや――おそらく“二重露光ダブル・エクスポージャー”だ」


 ユウマはピアノの上のカメラを手に取り、慎重に背面を開いた。

 そこには古びたフィルムがまだ入っていた。

 「同じ場所、同じ時間帯……偶然、別のカメラで重なった二枚の光景が一枚に焼きついたんだ」


「じゃあ、この“赤いマフラーの少女”は本当にいたってこと?」


「そうだ。三年前――この音楽室の窓から外を見ていた“生きていた頃の彼女”が」


 ミナトは言葉を失う。

 雪の静けさが、まるで時間を止めたようだった。


 ユウマは写真を見つめながら、低く呟いた。


「……彼女は、坂の上で倒れた瞬間まで、誰かを待っていたんだ。

 そしてその視線は、いまもこの窓の向こうに――」


 その時、古いピアノの鍵盤が、ひとりでに鳴った。

 “ポン”という澄んだ音。

 それは、まるでアオイが「まだ終わってないよ」と告げるようだった。




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