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灰色探偵ユウマの放課後事件録  作者: たくわん。
第24事件『赤いマフラーの少女』

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第1話 雪の写真



 放課後の写真部室は、白い息が出るほど冷えていた。

 冬の光が窓から斜めに差し込み、埃の粒を銀色に照らしている。

 その中で、ミナトは現像液のトレイを覗き込みながら、小さく声を漏らした。


「……あれ?」


 ユウマは机の向こうで読んでいたノートから顔を上げた。

 ミナトがこんな声を出すのは、だいたい何か“面倒ごと”を見つけた時だ。


「どうした、ミナト。ピントでもずれたか?」


「いや……そうじゃなくて。これ、誰?」


 ミナトが差し出したモノクロ写真。

 そこには、雪の積もる坂道と、遠くに見える街の明かりが写っていた。

 そして、その手前――白い景色の中に、ひとりの少女が立っていた。


 赤いマフラー。

 それだけが鮮やかに浮かび上がるように、異様な存在感を放っている。


「……この写真、誰を撮ったんだ?」


「風景、のつもりだった。坂の街灯が綺麗だったから。でも、撮った時は誰もいなかったんだよ」


 ミナトは不安げに笑いながら肩をすくめた。

 現像されたフィルムを確認しても、確かに数枚のうちにその“少女”が写っているのはこの1枚だけだった。


「偶然、通りかかった人間かもしれないが……」

 ユウマは写真を手に取り、光に透かす。

 「不自然だな。雪の反射に対して、影がない」


「え?」


「彼女の足元だけ、光の向きが違う。まるで――この写真の中に“後から現れた”みたいだ」


 部室の時計が、静かに秒を刻む。

 ミナトは背筋を伸ばし、無意識に窓の外を見る。

 降り出した雪が、街を静寂で包み込んでいた。


「なあユウマ、怖いこと言わないでくれよ。

 なんかさ、このマフラー見覚えある気がするんだ」


「どこでだ?」


「三年前。ほら、あの坂で事故があったろ? そのときに倒れてた女の子、確か……」


 ミナトの声が震える。

 ユウマの瞳がわずかに細まった。


「椎名アオイ、か」


 その名前を口にした瞬間、空気がわずかに凍った気がした。

 写真の中の少女は、まるで何かを訴えるように、まっすぐカメラの奥を見つめていた。


 ――だが、その目線は少しだけ、ずれている。

 何か“別のもの”を見ているように。


 ユウマは机の上に写真を並べ、指で位置を確かめながら呟いた。


「おかしい。角度も距離も違うのに……どの写真にも、彼女は同じ姿勢、同じ表情で写っている」


「幽霊……って、そういうこと?」


「まだ決めつけるのは早い」

 ユウマはいつものように淡々と答えた。

 「だが確かに、この現象には“何かの意図”がある。偶然ではない」


 ミナトは小さく息を呑む。

 写真の中で、赤いマフラーの少女が見つめる先――それは校舎の裏手の方角だった。


「……なあユウマ。あの子、どこを見てるんだろうな」


「それを確かめるのが、俺たちの役目だろ」


 ユウマが立ち上がる。

 その手に握られた白黒の写真が、夕日の中で淡く光を返した。


 廊下の外では、放課後の鐘が遠く響いていた。

 雪の降る音が、静かにその音を飲み込んでいく。


 ――赤いマフラーの少女。

 彼女が残した“視線”が、これから始まる冬の謎を告げていた。



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