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灰色探偵ユウマの放課後事件録  作者: たくわん。
第23事件「廃校の理科準備室で見つかった“動く標本”の謎」

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第2話「標本室の亡霊」



雨が屋根を叩く音だけが、校舎に響いていた。

夜の天ノ原中学校。

外灯はすでに落ち、月光が割れた窓からかすかに差し込む。


「……本当に、ここに誰かがいるんですか?」


ミナトは小声で尋ねた。

手に握るライトがかすかに震えている。


「“動く標本”の噂は、夜限定。ならば、確かめるにはこの時間しかない」

静流は懐中電灯をゆっくりと理科準備室の床へ滑らせた。

冷たい空気。わずかに漂うホルマリンの匂い。

棚に並ぶ瓶たちは、今にも語りかけてきそうなほど静かだ。


ミナトはガラスケースの前で立ち止まる。

瓶の中のカエルが――まるで彼女を見つめているようだった。


「……動く標本って、もし本当に魂とかあったら、怖いですよね」


「魂より怖いのは、“人の手で動かされるもの”だよ」

静流の声が低く響く。


その瞬間――

カチ、という微かな音が部屋の奥から聞こえた。


「……今の、聞こえました?」


「うん。電源系のスイッチ音に似ている」


二人は同時に視線を向ける。

壁際、人体模型の影が――ゆっくりと動いた。


「ひっ……! 先生、今、首が……!」


ミナトの声が震える。

静流は模型に近づき、胸部のパネルを開いた。

中から出てきたのは、絡まった配線と小型のバッテリーパック、そして――タイマー式モーター。


「やはりな。……“誰か”が仕掛けている」


「こんなの、誰が……何のために……?」


静流は模型の内部から取り出した金属片をライトで照らす。

小さく刻まれた刻印――天ノ原理科部。

かつてこの学校に存在した部活動の名前だった。


「理科部の実験装置を、誰かが再利用しているのか……?」


ミナトが首を傾げたそのとき。

――バンッ!


突然、扉が勢いよく閉まった。


「……閉じ込められた?」


静流が扉を押すが、びくともしない。

中から鍵がかけられたようだった。


「先生、誰か外に……!」


その言葉に重なるように、部屋の照明が一斉に点滅した。

棚の標本瓶が、カタカタと揺れ始める。

その音が、まるで“誰かの笑い声”のように響いた。


「やめてよ……こんなの、ホラー映画じゃないですか……!」


ミナトが耳を塞ぐ。

静流は冷静に、音の方向を探る。

棚の奥――そこに、古びた実験装置があった。

円盤状の装置に小さな電磁石がいくつも取り付けられており、一定の間隔で磁力を発生させている。


「……磁気振動。これで瓶の中の液体を揺らして、“動いたように見せていた”のか」


「じゃあ、動いてたのは――」


「ただの錯覚だ。しかし――」


静流は装置の下に落ちていた紙片を拾い上げた。

そこには、震える字でこう書かれていた。


『彼らを、眠らせてあげて』


「……これは?」


ミナトが覗き込む。

紙は古びており、角が黄ばんでいた。


静流の表情が一瞬だけ陰る。

「――これは、生徒の字だ。十年前の事故と関係しているな」


「事故……?」


静流は理科準備室の壁を見上げる。

そこには、埃をかぶった掲示板があり、当時の理科部の集合写真が貼られていた。

中央に立つ少年の顔だけが、破り取られている。


「この学校の理科部は、十年前、実験中の爆発事故で一人が亡くなっている。

 その“亡くなった部員”の遺品が、この準備室に残されていたはずだ」


ミナトは息を呑んだ。


「じゃあ、“亡霊”って……」


「――“生きていた誰か”が、亡霊を演じているのかもしれない。

 この標本室を、“彼”のために動かしていた誰かがいる」


そのとき、背後で小さく“ガラスの割れる音”がした。

ライトを向けると、割れた瓶の中から――ひとつの鍵が転がり出ていた。


「……これ、戸棚の鍵じゃないですか?」


ミナトが拾い上げる。

静流は頷き、戸棚を開けた。


中には、埃をかぶったノートが一冊。

表紙には、かすれた文字でこう書かれていた。


『理科部観察記録――十年前』


静流は静かにページをめくる。

そこには、事故の直前まで書かれた観察日誌、そして最後の一文。


『僕がいなくなっても、彼らが動くようにしておいた。

 僕の存在が、消えないように。』


ミナトは息を詰めた。

「……動く標本って、まさか……」


静流はノートを閉じた。

「そう。“彼”は、自分の実験の中で生き続けていた。

 死後も、“動く標本”という形で」


――だが、本当にそれだけだろうか?


静流の瞳が鋭く光る。

「誰かが、この装置を最近になって再起動させている。

 十年前の亡霊を“蘇らせた”人間が、今もこの学校にいる」


雨の音が、強くなった。

まるで、何かを隠すかのように。



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