表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色探偵ユウマの放課後事件録  作者: たくわん。
第23事件「廃校の理科準備室で見つかった“動く標本”の謎」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/78

第1話「動く標本の噂」




「……なぁ、聞いたことあるか? “動く標本”の話」


夜の校舎に響く、誰かの囁き。

その噂は、まるで古い校歌のように、静かにこの街に広まっていた。


かつて閉校になった天ノあまのはら中学校。

取り壊しの予定もないまま十年以上放置されたその校舎は、今では“肝試しスポット”として若者たちの間で有名になっていた。

そして最近、その廃校にまつわる新たな都市伝説が囁かれている。


「夜中の理科準備室で、標本が歩く音がする」

「人体模型の目が動いた」

「ガラスケースの中の蝶が羽ばたいた」


――“動く標本”。


そんなばかげた話、誰が信じるものか。

そう言いながらも、噂の火は静かに燃え広がっていた。



六月の終わり。

雨上がりの午後、古びた喫茶店ルーペに、ひとりの少女が入ってきた。

黒髪を結んだ高校生――神楽かぐらミナト。

探偵・**榊原静流さかきばら しずる**の助手を務める、まだ見習いの少女だ。


「先生、また依頼です。今度は“動く標本”だそうですよ」


カウンターの奥でコーヒーを淹れていた静流が、片眉を上げる。


「……また怪談系か。前回の“止まった列車”で懲りたと思ったんだが?」


「私だってそう思いましたけど、今回はちゃんと“現象”があるらしくて」


ミナトは依頼書をテーブルに置く。

差出人は、市教育委員会の文化財管理課。

内容はこうだった。


――旧・天ノ原中学校の理科準備室で、展示標本の一部が“動いた”との報告あり。

現地調査を依頼。


静流は静かにコーヒーを口に含み、短く息を吐いた。


「……なるほど。行政が動くということは、単なる肝試しでは済まないか」


「そうなんです。しかも“動いた”のが――標本瓶の中のカエルだって」


ミナトが言葉を続けた瞬間、静流の目が細くなる。


「ホルマリン漬けの……死体が、動いた?」


「ええ。監視カメラの映像にも、瓶の中で“何かが動く影”が映っていたそうです」



夜。

二人は、鍵を借りて廃校の中へ足を踏み入れた。


「……カビと埃の匂い。典型的な“時間の止まった建物”だな」


静流が懐中電灯をかざす。

廊下の壁には色あせた掲示物、倒れかけたロッカー。

窓の外には、沈みゆく夕闇。


「理科準備室はこの奥です」


ミナトが扉を開けた瞬間――

ひやり、とした空気が流れ込む。


棚の上には、無数の標本瓶が並んでいた。

蛙、蛇、魚、そして無数の昆虫。

薄暗い蛍光灯が、ホルマリンの中の生物を青く照らしている。


「……うわ、ちょっと、怖いですね」


ミナトの声が震える。

静流は無言のまま、部屋の奥へと進む。

やがて、ひときわ大きな瓶の前で立ち止まった。


「これが、例の“動くカエル”か」


瓶の中には、白く変色した小さなカエル。

液体は濁っており、長い年月を感じさせる。

だが――

その瓶の“外側”には、何かがついたような手の跡があった。


「……先生、これ……誰かが触ったんですか?」


「指の形が微妙に歪んでいる。内部から押したようにも見えるな」


ミナトの顔が青ざめる。

静流は瓶をそっと傾け、底を確認した。

わずかに、金属の反射――

底面に小型の磁気装置のようなものが貼り付いていた。


「……トリックの匂いがするな」



その瞬間、理科準備室の奥――

ガタッ、と何かが倒れる音がした。


「ひっ……!」


ミナトが身をすくめる。

静流はライトを向ける。

光の先にあったのは――

ゆらりと揺れる人体模型。


その片腕が、わずかに動いたように見えた。


「……静流先生、今、動きましたよね?」


「“動いて見えた”んだ。――だが、見間違いではないかもしれない」


静流は模型の胸部を指でなぞる。

内部に空洞――そして、微かな振動音。


「……電源が、生きている?」


廃校に、電気など通っていないはずだった。

しかし、標本棚の奥で“何か”がわずかに点滅している。


静流は低く呟いた。


「――この“動く標本”は、幽霊の仕業じゃない。

 だが、誰かがこの噂を利用して何かを隠そうとしている。」


ミナトは唾を飲み込む。


「隠す……何を?」


「それを確かめるために、ここに来たんだよ」


静流の瞳が、夜の理科準備室の奥――封鎖された戸棚を射抜いた。


そこに、次の事件の“鍵”が眠っているとも知らずに。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ