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灰色探偵ユウマの放課後事件録  作者: たくわん。
第20事件「雪の美術館と記憶の絵画」
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第3話「雪の真実、そして記憶」


——白の静寂が、音をも呑み込んでいた。


美術館のホールには、雪の結晶のように細やかな光が揺れている。

壁には“欠けた風景画”が掛けられ、その前に三人が立っていた。


「……やっと、見つけたね」

綾乃がつぶやく。その声は、どこか震えていた。


「これが——本当の絵、なんだ」

響也がゆっくりと、額縁の裏に隠されたもう一枚のキャンバスを引き出した。


そこに描かれていたのは、同じ風景だった。

けれども違う。

――中央に、誰かがいる。

雪の中で振り返る少女の姿。


「この絵を描いたのは、館長の娘・瑠璃だった」

玲人が低く告げた。

「5年前、この美術館で起きた“火災”で彼女は亡くなった……そう記録されている。でも、本当は——」


綾乃が息を呑む。

「……彼女は、生きていた?」


「生きていた。そして、記憶を失って“別の名前”で絵を描き続けていたんだ」

玲人は視線を、館内に展示されている“白い風景画”に向けた。

——それらのすべてのサインには、“R.R.”とだけ記されている。


「“R.R.”……瑠璃・リヴァース」

綾乃の目に涙が滲む。

「彼女は、自分の記憶を“雪”のように覆い隠して……でも、心はちゃんと覚えていたんだ」


静寂の中、音がした。

天窓から一片の雪が舞い落ち、額縁の上に落ちる。


玲人はゆっくりと口を開いた。

「この事件のトリックは、“記憶と絵の入れ替え”だ。

 火災の日、瑠璃は自分が描いた“未完成の絵”を守るため、もう一枚の模写を残した。

 本物は裏に隠され、贋作が展示された。

 その後、記憶を失った彼女自身が、再びこの美術館に“自分の絵”を飾っていたんだ」


——雪のように白い、そして儚い記憶の罠。


綾乃はその絵に手を伸ばし、そっと触れた。

「瑠璃さん……あなたの“本当の色”は、ちゃんとここにある」


静かに照明が落ち、窓の外では雪が降り続けていた。

誰もいない展示室に、たった一枚の絵だけが残される。

そこにはもう、曇りのない冬空が描かれていた——。


―――

《トリック要素まとめ》

•核心トリック:絵画の“表と裏”を入れ替えた展示。

→ 火災後に贋作が表に、オリジナルが額の裏に隠されていた。

•心理的トリック:記憶喪失の画家=亡くなったはずの瑠璃。

→ 「別名の新鋭画家R.R.」が、実は彼女自身だった。

•伏線:

•額縁の裏の異常な重さ

•“雪”をテーマにした絵ばかり展示されている理由

•サイン「R.R.」の意味


――雪に覆われた記憶の中で、真実だけが静かに色を取り戻した。

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