第3話「星の告白」
投影機の光が、静かに消えた。
誰もいないプラネタリウムの中、ただ星の残像だけが、天井に滲んでいる。
司はスクリーンの下で立ち尽くしていた。
あの“消える星”が意味していたもの――それは、ただの偶然ではなかった。
詩織が息をのみながら口を開く。
「……全部、あなたが仕組んだんですね。高峰さんの“最後の星図”を、見せたくて」
そこに立っていたのは、若き助手・美月。
高峰の弟子であり、事件当夜の投影担当だった人物だ。
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「先生は、最後まで……“誰かを恨むような人じゃなかった”」
美月の声が震える。
「でもね、あの新しいシステムが導入された日から、先生の星はどんどん消えていったの。
スポンサーは数字しか見ない。客を呼ぶために“リアルすぎる空”を求めて……先生の理想を壊した」
彼女は掌を開いた。
そこには、古い投影レンズが握られていた。
手動で星を回転させるための、アナログな部品。
「先生が亡くなったのは……事故じゃない。
私が、あの日――投影機を“動かした”の。
止めてほしかったの、あの冷たい光を。
でも、先生が中に入っているなんて知らなかった……!」
涙が床に落ちる音だけが響いた。
星は沈黙している。まるで、告白を聞いているように。
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詩織は投影盤の裏から、焼け焦げたデータチップを取り出した。
そこには、最後の投影プログラム――「星々の軌跡」の原型が保存されていた。
星座線をひとつずつ繋ぐと、浮かび上がったのは“先生の名前”。
「TAKAMINE」という光の文字列が、暗闇に浮かんだ。
「先生は、自分の死を予感していたんだ。
それでも、誰かに“真の空”を残したかった。あなたに」
司の言葉に、美月は顔を上げた。
星影が、涙の中で揺らめいている。
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「夜の空は嘘をつかない。
本当に見たい星は、心の奥で光ってるのよ」
それが、高峰の口癖だったという。
天井の投影が、ゆっくりと再び灯る。
ひとつ、またひとつ――亡き解説員の星座が、夜を取り戻していく。
「先生……見てますか?」
美月の声が、暗闇に溶けていく。
投影機の小さな音が、まるで返事のように鳴った。
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事件のトリックと真相
•トリック名:「消える星座」
新型投影システムに旧式のレンズを組み合わせることで、
特定の観覧席からだけ星が“欠けて見える”ように設計されていた。
これは「事故ではなく操作ミス」を隠すための偽装だった。
•真実:
美月は意図的に旧システムを作動させたが、
その中に高峰が点検のため入っていたことを知らず、
結果的に命を奪ってしまった。
そして、彼女は罪の意識から、星図を使って真実を“空に描いた”。
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プラネタリウムを出ると、街の夜空に星が滲んでいた。
人工の光でも、本物の星でもない。
それでも――そこには確かに、誰かの想いが輝いていた。
司は呟く。
「星は消えても、光は残る。……それが、あの人の告白なんだろうな」
詩織が微笑んだ。
夜風が、二人の肩を静かに撫でていった。




